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条件付きの承諾

「本日より貴殿は国際魔法犯罪捜査団の一員となる。
 しっかりと任務に励んでもらいたい」
「はい」
 目の前で礼をする青年の返事を聞き、リアトリスは鷹揚に頷いた。
 魔導士人口が減っている現在、一人でも多く団員の確保をすることは大事だ。
 仕事は増えているのに人員の右肩下がりが続いている今、すすんで入ろうという人がいることはとても心強い。
 とはいえ、彼の場合は選択の余地がなかったとも言えるだろうが。
「しかし、良かったのかね? 元々研究者気質だと聞いていたが」
「研究ではあの頃のことで活かせることは少ないでしょう。けれど、実地で魔法を使うことが多いこちらなら、覚えていたことも活かせますから」
 少し寂しそうに思えるのはリアトリスの思い違いだろうか。
 しみじみと思い返すように言う彼の言葉は多少ぎこちないが、それでも母国語が違うものと大差ない程度。ならば問題ないだろう。
「それに……こちらなら師匠もいますし」
 そう笑う彼は、姿だけでは大昔の人間とは思えない。――証拠もあるし、彼よりも長く行き続けている人を知っていても。
「やはり、知っている人がいるというのは心強いものだろう。とはいえ、賢者様に会う機会はあまりないだろうが」
「そんな恋しがるような年ではありませんから」
 苦笑するその姿は年若い青年とはいえ、中身はリアトリスよりも年季が入っている。
 あまり若造扱いするのも考え物かと思いつつ、咳払いを一つ。
「アポロニウス・フィデス。貴殿の所属だが新造のチームに入ってもらう」
 呼ばれたアポロニウスの顔が引き締まる。
「アルブム。隊長はシオン・スノーベル。知っているな?」
「はい」
 予想外だったのか、少しびっくりした表情を浮かべる彼を見て、あらかじめ聞いていた人物像に大きな違いはないのだろうと判断するリアトリス。
 もうすこし感情を表に出さない術を身につけてもらわないと困るな。
「詳しいことは槐くんに聞いてくれ。以上だ」
 言い切ってしまえば退室の礼をして出て行くアポロニウス。
 扉が閉められ、足音が遠ざかることしばし、ひょっこりと白い頭が現れた。
「新米さんって感じで可愛いですねー」
「普通に入ってきてくださって良いんですよ?」
 窓からひょっこりと顔を覗かせているのは、先ほども話題に出た賢者様。
 小さな子のように窓枠に腕を乗せてにこにこしているが、ここは二階である。浮遊の術でも使っているのだろうが、外から見ているものはきっとびっくりするだろう。
「これで、よろしかったのですな」
「ええ。あの子の境遇は特殊すぎます。シオンさんのところなら、彼にまず目が行きますから多少は安全でしょう」
 憂う視線は愛弟子を思ってのことだろう。
 複雑すぎる経歴を持つ彼は、それを知られてしまえば普通に生活することが難しくなる。
「長くは守れませんよ」
「分かっています」
 団員でいる間だけは守れなくはない。そう改めていうリアトリスに彼女は答える。
「安全を確保するだけなら方法はいくらでもあるのです。でも――彼には生きて欲しい」
 自身もまた複雑な経歴を持つ彼女は目を伏せて言う。
「出来る限り長く――ここにいることができれば嬉しいです」
 主語のないそれが当て嵌まるのは、彼のことだけではないだろう。
「心得ております」
 だからこそ、リアトリスもまた、代々の団長が告げてきた言葉をつむいだ。

久々すぎるPA小噺更新。
アポロニウスの入団直後でお送りしました。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/