視線が釘付け
痛いほどの視線に、動かしかけた手が止まる。
右手が掴んでいるのは細く長いスプーン。
先ほどすくったばかりのアイスクリームと生クリームが今にもこぼれそう。
なので、すぐに口に運んでその甘みを、至福を味わいたい。
久々の休みに張り切って出かけた街は楽しかったけれど暑かった。ひたすらにもう暑かった。
任務で外に出るときには季節関係なく着用義務のある真っ黒マントがないため、多少はマシだったが、熱中症予防にとカフェでお茶しようと思ったのはおかしくないだろうとカクタスは考える。
大きなパフェを頼むのはちょっと気恥ずかしくもあったけれど、食欲的に普通サイズのパフェでは足りないのでしかたない。
ようやく出てきたパフェをさあ食べようという段階になって、この視線である。
気になったものの、珍しさからだろうなと判断して一口。変わらぬどころか強くなる視線を訝しく思って二口。
未だに残る視線に、三口目をあきらめてちらと眼をやった。
そして後悔した。見なきゃよかったと心底思った。
彼が案内されたのは窓側の小さな席で、ちょうど日が当たらない場所のためカーテンなどの類はなく、むしろ道路側からよく見えるような場所だった。
窓の向こうはバス停らしく今も数人が並んでいる。
そして視線の主は、窓にべったりと張り付いてこちらを――否、パフェを見ている幼児だった。
食べ辛れーっ
内心だけで絶叫する。
ちょっとおかあさーん、この子のおかあさーんっ 意識そらしてくださーいっ
母親らしき人物を探せば、幼児のすぐ横でこちらに背を向けて赤ん坊を一生懸命あやしていた。
なるほど……下の子が泣いてちゃ、一応はおとなしくしている上の子に構わないなと納得しつつも、唸る。
相変わらず幼児の視線はパフェにくぎ付け。こちらが見ているのにも気づかないほど集中しているようで、ときどき口が動いているあたり、食べようとしているのかもしれない。
カクタスはパフェと子供を見比べる。そして、意を決したようにスプーンを口に運んだ。
口内に広がる冷たい甘味としつこすぎないクリーム。
幸せを感じつつ、黙々と食べ進めていく。
いくら見られていようができることなどない。パフェを美味しくいただくだけだ。
それでも、見られているというのはあまり歓迎したい事態ではなく、彼がパフェを気兼ねなく楽しめたのは、バスが来て親子が去った後だった。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
制服がマント着用義務あるから、目立つことにはいやいや慣れた。でも、これはない。