いつも同じもの
ふわりと部屋に広がる香り。
白磁のカップに注がれる紅茶とポットを傾ける優雅な手つき。
自分で適当に淹れるのとじゃやっぱりちがうなー。
「さ、召し上がれ」
「わーい」
ジニア小父さんの言葉で、あたしは早速カップに手を伸ばす。
今日の講義はむずかしめだったから、かーくんのカップにはハチミツたっぷり。
あたしもはちみつをいれて、ミルクたっぷりに。
ゆすらちゃんはミルクだけで、しーちゃんはストレート。
それぞれ一口飲んで、ほぉっとため息が出る。
そんなあたしたちを見て、おじさんは幸せそうに笑う。
いつものなれた風景、なんだけど。
「ねえおじさん」
「なんだい?」
「おじさんのお茶って、確かに美味しいんだけど、他のお茶ってないの?」
前からちょっと疑問に思っていたことを聞いてみた。
おじさんは『お茶好き』として皆に知られている。
だから、毎回毎回違うお茶を淹れるかっていうと……そうでもない。
あたしたちに淹れてくれるお茶はいつも同じものだもん。
こーちゃんは飲むたびに違うものですごいと思った、っていってたから、茶葉がないとかゆーんじゃないと思う。
あたしの疑問に、お茶請けのクッキーをつまみながらおじさんは朗らかに返事を返してくれた。
「ないこともないぞ?」
「素直にあるって言ってよ」
「それを出す気はないけどね」
「なんで?」
首を傾げるあたしに、カップをソーサに戻しておじさんは言う。
「毎回違うものを飲むのも、それはそれで贅沢だけど……
いつも同じものを味わえるっていうのも、かなりの贅沢だからさ」
「分かったような……でもわかんないよ?」
「分からなくて良いよ。まだ若いんだ」
そういっておじさんは微笑む。
「で、おかわりはどうだい?」
「じゃ、もらおっかな」
なんたって、おじさんのお茶は美味しいんだから。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
いつ飲んでも変わりのない味。それほどの技量がほしいなぁ。
手間を加えるだけでも十分変わりそうですが。