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偶然という名の必然

 偶然とは思いがけなく起きる事。
 必然とは必ずそうなる事。
 こいつらがこの件に首を突っ込んだのは、本当にただの偶然なんだろうか?

 囲炉裏の火がはぜる。
 温かいものを口にして落ち着いたのか、それとも元は饒舌なのか、子ども――クロンは村の状況を話し始めた。
 村の近く、森の中にある古い神殿の遺跡にクトゥール教信徒たちが居座ったこと。
 彼らはこの地を聖地にすると言って、神殿を再築し始めた事。
 村人は最初は歓迎していたけれど、だんだんと信徒達の様子が変わっていった。
 半ば強制的に労働に借り出されるようになり、クロン自身も捕まったものの祖父たちに逃がしてもらった事。
 その言葉を肯定するように、子どもの村に人気はない。
 全員連れられていってしまったのか……森の中で会った奴らの事を考えれば、村人たちの行く末は……
 考え込んでいる内に、案の定ラシェが口を開く。
「それは何とかしてやりてーが」
「やめておけ」
 すかさず静止を入れる。不機嫌に睨みつけてくる奴を見て、あくまで冷静に言う。
「単純なお前の事だ。どーせ乗り込んで行くつもりだろう?
 一方的な情報だけで物事を判断するのは危険だ。
 その子どもの言い分全てが正しい確証があるのか?」
「セキ! そいつが嘘ついているとでも言うのか!」
 関わらせたくないばかりに言い方を間違えた。
「そうは言わんが仮にも一宗派の聖地の件だ。
 余所者が簡単に口をはさむ問題じゃない」
 もうこれで話を終わらせてしまいたい。だというのにラシェはまだ食いついてくる。
「無関係な人間を強制的に働かせてもかよ!!」
「クトゥールはディーファ神からも認められた正当な信仰教団だ」
「この権威主義が!」
 吐き棄てるように言って、ラシェはマントと剣を手に立ち上がる。
「そうやって理屈こねてりゃいいさ。
 名目がありゃいいのかよ! 認められてりゃ何やってもいいのかよ!?
 これだから俺は神なんぞ気に入らねーんだ!」
「どこ行くんだ」
 こちらに背を向けるラシェに怒鳴れば、キツイ一瞥がかえる。
「見回ってくんだよ。てめーの顔見てるよかましだからなっ!」
 不機嫌さそのままに音を立てて閉じられた扉。
「あなたらしくないわね、セキ」
 呆れたような突き放すようなディアナの声。
 何といわれても、何を言われても……本当のことは隠す。
 これは俺の問題だ。この件に関わるな。
 沈黙を返す俺にディアナはもう一度口を開いた。
「それに何故あなたがここに居合わせたのか、偶然にしては出来すぎよね」
 何故ここに――か。
 そのままの言葉を返してやりたい。
 お前達こそ何故ここに、このタイミングで現れる?

 その後のクトゥール信徒の強襲で確信が取れた。
 クトゥールを隠れ蓑にした旧神教団。欲望と狂気を司る闇の神々を崇め奉る者達。
 奴らを率いているのは妹を殺し、その体を奪った者。
 だというのに……ルシアの姿をしたそれに、惑わすためと分かっていながら……手にかけることは出来なかった。

 急ごしらえの墓に花を手向け祈りを捧げる。
 殺されかけた俺を救ったのは、皮肉にもラシェだった。
 再会を疎ましく思っていたのに、結局はすべてあいつらにばれて手を借りる羽目になるとは。
 ――セキの妹に呼ばれたのよ――
 ディアナの言葉。そしてあの時僅かに見えた。安心させるように笑うルシアを。
 いくらなんでもタイミングが悪いと思っていたが。まさかお前が呼んだのか?
 語りかけようと応えはない。それでも構わない。
 荷物を背負い、墓を後にする。
 もう少し一人でいたい。
 例えまたすぐに再会する事になろうと。

「赤のクルセード」舞台で語り部セキでお送りしました。
これしかないよ、出来ないよ……皆さんラシェとディアナの変わりようばかり言ってますが、セキもかなりのものだと思いますよー?

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/