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ナビガトリア

そういうことは早く言え

 困った。
 何が困ったって、困ったって言葉しか出てこないことで、あたしの困り具合を察してもらえたらと思う。
 なんというかつまり……
「……何で落っこちちゃったかなぁ?」
 見上げれば、結構な急斜面。高さは大体三メートルくらいかな。
 そこを滑り落っこちちゃった訳。
 いやまあ落ちたわけじゃないから怪我もそこまで酷くはない。
 ま、痛いけど。
 腫れてる左足をさすっても痛みはそんなにとれなくて、本当に一体どうしようかな。
『コスモス……傷口に塩を塗るようだが、何のための「目」だ?』
「うっさい。自分でもそう思ってるわよ」
 呆れまくりって感じのアポロニウスに機嫌悪く答える。
 あんまり声を出さないのはバレたら困るから。
 何せ今あたし達は、未公開の遺跡に忍び込んでるのだ。
 見つかったらいろいろめんどそうなのは確実。
 先行してる薄に助けを求めればいいんだろうけど……
「馬鹿にされそうよね」
『いや当然だろう』
 納得するなと言いたいところだけど。言う。あいつなら絶対言う。
 だから急がずにお父上のご到着をお待ちすれば良かったんですよ。
 急いては事を仕損じると言うでしょうとかって!
 ああ。なんか気持ちも落ち込んでプチ遭難気分。
「それもこれもアポロニウスが悪い」
『私がかッ?!』
「誰を探してるせいでこうなってるって思ってるのよ。
 あーあ。もう、すんなり見つけられればいいのに」
 この目で『これだ』ってすぐに分かればいいのになー。
 今まで見てきた石像も、全部ただの石だったし。
 ……決して内臓が見たいと言う訳じゃないけどね。
「でももう少し効率のいい方法があってもいいと思うのよ」
『それは確かにな。
 しかし捜索の魔法で見つかる訳もないだろう』
 まあねーって頷こうとして気づいた。
「アポロニウス。今なんていった?」
『捜索の魔法で見つかる訳』
 反芻して、彼もそれに気づいたのか沈黙する。
「アポロニウスさあ。
 ずっと持ち続けてたものとかって……あった?」
『……護符代わりの石やら旅立ちの祝い品とかは……』
 尻すぼみになる言葉。
 そう……
 宝石にされたアポロニウスを、魔力波動を追って来た者がいた。
 それに、術者が良く見知っているものを探す魔法だって存在する。
 アポロニウスの今の状況で魔法が使えるかどうかは分からないけど、彼のことに詳しい人ならいるし、会った。
 もしかして……最初っからそれをすればよかったんじゃあ?
「アポロニウス……」
『ま、待てっ 本当に効くかどうかは』
 怒りに震えるあたしの声に、逆の震えで彼が答える。
 落ち着けコスモス。ここで大声を出したらまずい。
 深呼吸深呼吸。
「……うん。とりあえず覚えときなさいよ」
『…………わかった』
 とはいえ、あたしたちが気づくような事に、彼の師匠である姫や、血眼になって彼を探してたその家族が気づかないわけもなく、徒労だったということだけは後で分かったのだけど。

要ることも要らないことも言うのは薄。
要らないことも滅多に言わないが、要ることも言わないのがアポロニウス。
コスモスはやはり苦労性になるのでしょうか?

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/