高い買い物
あいつ、なんだか最近まじめだ。
俺がそういうと相手は決まってこう言い返す。
お前が言うか、と。
確かに、他人から見ればいつもまじめなのがあいつ――相棒で、俺が不真面目に見えるんだろう。それがどれだけ不服でも、他人の評価を覆すっていうのは意外に難しい。
いやいや、今はそんな話をしているんじゃない。
PAの任務は実際のところかなり地味だ。
聞き込みも捜査も華々しいことなんてなくて、でも俺たちが逮捕する相手は凶悪犯。
任務の末の殉職っていうのも珍しい話じゃない。
自分の意思で選んだ職場だけど、家族にはかなり反対された。
給料安くて任務は過酷で休みもあんまりないっていうせいかもしれない。
とはいえ、きちんと任務をこなしていれば、それなりに一応は休みがもらえたりする。
例え途中で呼び出し食らって、仕事に戻る羽目になったりしても。
だというのに、毎週のささやかな休みを返上して任務について、変わりにまとまった休みを取るようにしてるんだ、あいつは。
そのほうがしっかり休めるから、なんてもっともそうなことを言っていたが、俺の感は違うと告げている。
だから。
「エーディ!」
「ジニア、ちょうどいいとこに。あの報告書だけど」
「いや、それは後で聞くから、まあとりあえず座れ座れ」
せっかちにも仕事の話をしようとしたエディを何とか休憩室の椅子に座らせる。
少々不満そうながらも座るエディは……目立つ。
女性がうらやむような金糸の髪。背もすらっとしてる……俺のほうが高いけど。
何よりその瞳。透き通った紫水晶のようなその色。
それが、こいつの素性を示す。
さりげなく一捜査員に収まっちゃいるが、『魔法使いの祖』と呼ばれる大魔法使いの末裔。
「座ったけど?」
「二、三聞きたいことがあるんだが。いいか?」
「良いけど……どうして取り調べ口調なんだい?」
「気にするな気にするな」
軽い口調で言いつつ、備えられている大きなポットに水を喚んで湯にする。
後は普通サイズのティーポットに茶葉とともに入れて待つだけ。
「それで、聞きたいことって?」
「ああ。最近妙にまとめて休みを取っているだろう?」
「あ……もしかしてジニアに迷惑かけてた?」
うッ そういう切り返しをされると思ってなかったぞ。
「いやそんなことない。何をしてるのか気になってね」
「あー……ちょっと今……母さんがね」
「おばさんが?」
急に力が抜けたようなエディを不審に思いながらも茶を注ぐ。
同時に香りが周囲に満ちる。うん、上出来。
「そう。母さんがいきなりふらっと旅に出ちゃって……エリィと探してるんだ」
「……相変わらずなんだな、おばさん」
正直あの容姿で『おばさん』と呼ぶのは精神的に辛いものがあるのだけれど、そう呼ばないと怒られるし。
とにかくパワフルで元気いっぱいな人だとは思うけど。
「子どもじゃないんだし、いいんじゃないか? 一人旅」
「叔母さんから『姉さまのちょっとふらっとは年単位ですよ』ってありがたい警告をもらったから」
「……大変だな」
「本当だよ」
ため息をついて紅茶をすするエディ。
ぼんぼんであるにも拘らず……いや、こいつの家自体が大貴族の家系にも拘らず、一般人と話が合うのは、こういった苦労性のせいもあるんじゃないだろうか。
はー、しかし単に母親探しか。しかも旅の連れは妹ときた。
晩生っぽいエディにも、ようやく春が来たかと思ったんだけどなー。
なんて思ってることはおくびにも出さずに、俺は温かい紅茶を喉に流し込んだ。
相変わらずジニアの紅茶は絶品だってほめられるのに悪い気はしないが、こんなことを聞き出すために高い茶を淹れたと思うと……かなり損した気分だ。
静かな休憩室に、自分がページを繰る音だけが響く。
にしても、結局ジニアは何がしたかったんだろう?
休みを使って母さんを探してることだけを聞き出して、またふらっとどこかに行ってしまった。
こういうとこ、ジニアも母さんと似たもの同士なのかもしれない。
次に休みを取れるのはたぶん来月以降になるから、きっとまたエリィに楽してずるいなんて言われるんだろうな。僕だって、母さんを早く見つけたい。
なんといっても、母さんに紹介したい女性がいるんだから。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
それなりのものを支払ったはずなのに、手にしたものは価値がない。(ように本人は思えた)
若い頃のジニアさんってどんな感じだったんだろう?(おいこら作者ッ)