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かなり有名な話

「いよっしゃあ! そろそろ冬期休暇の時期だーっ!」
 思わず天を仰いでしまう。
 前に長い休みがあったのは夏。
 故郷のパラミシアは新年度は秋だけど、このディエスリベルでは春で、秋休みもないから本当に長かった。
 久々に家に帰れると喜んでいたら、後ろから憂鬱そうな声が聞こえた。
「そっか。もうそんなになるんだなぁ」
「もー。しーちゃんってば、今更現実逃避してもおっそいよ」
「はー……めんどーだなー」
 シオンは本当に嫌そうな顔で、いつもとは逆で橘が言い聞かせるような口調になってる。
 ……変なの。
「そういえば、お披露目があるのよね」
「お披露目? シオンの家って、なんか特別な行事でもあるのか?」
「は?」
 シオンはすっとぼけた顔するし、橘は訳知り顔でうんうん頷いてる。
 オレ、そんな変な事聞いたか?
「だってしーちゃんもう十六歳だし。
 本当だったら誕生日にお披露目のはずだったんだよね」
「だからなんだよ、そのお披露目って」
 PA入団時のアレはお披露目に入らないのか?
 不思議そうなオレに、困った顔でシオンが言う。
「そりゃあ……成人のお披露目って言うか、親戚に改めて挨拶って言うか」
「旧家は大変よね」
 歯切れの悪さは、そのまま気が乗らない現われなんだろう。
 まるっきり他人事の山吹も、いつもとは違って少し同情めいた声音だし。
「もしかして、シオンって良いとこのぼんぼん? 子爵の家とか?」
 半ば冗談で言ってみる。
 確かに故郷のパラミシアは、貴族制度があったけれど、今は昔ほどじゃない。
 ……まあそれでも、暗黙の線引きはあったりする。
 名門の家の子はそれなりの学校に行く、とかな。
 シオンはオレと同じ学校だったから、まずそれはないと思っていってみたんだけど。
 ……何ゆえ、重い沈黙が降りてしまうのでせうか?
 そうして、おずおずと橘が口を開く。かわいそうなものを見る目で。
「もしかして、かー君本当に知らない?」
「何がだよ?」
 ちょっとむくれて、半分不安いっぱいで問い返せば、大きく肩を落とすというリアクションつきで答えてくれた。
「こーしゃく」
「へ?」
 あまりにも予想外の言葉に、問い返しちゃったぞ?
 うーん、ここのとこ耳掻きしてなかったしな。聞き間違えちゃったかな?
 でも、オレのそんな思いを打ち消す言葉が告げられる。
「しーちゃんは公爵家の後継ぎだよ」
「……うそん」
「嘘言ってどうするの」
「ちなみに侯爵(マーキス)じゃなくて公爵(デューク)だからね」
 思わずもれた呟きに、絶対零度の山吹の突っ込み。橘は丁寧に解説までしてくれる。
 公爵って、王家の分家みたいなもんじゃん……
 ははは。はるか彼方で、テレビを通してしかお目にかかれないと思ってた人たちが……こんな近くにいたよ。
「……どこの? ナルキッソス?」
 公爵家は全部で三つあったはず。
 とりあえず、故郷の実家に比較的近い場所に居を構えている名を挙げてみた。
「魔導士で公爵って言ったらスノーベルしかないだろうが。
 ちゃんと紫眼だろーが」
 そう。『強大な魔力』と『紫眼』が、魔道の名家『スノーベル』を示すもの。
 アレは秋頃だったか、ある日突然シオンの目が紫になっててびっくりしたことはあった。
 彼の一族は、成人するまでは魔法で瞳の色を誤魔化すって聞いた事はあったし、魔導士としてシオンはずば抜けてる……確かに条件ぴったりだけどさ!?
「なんでえええッ?!」
「というか、知らないお前にビックりだ」
「かなり有名な話なのにね」
「ライアン伯父さんの方の姓を名乗ったり、瞳の色を魔法で誤魔化したりしてたけど、筒抜けだったよねえ」
「だ、騙された」
「なんでだ」
 とことん不本意そうな顔でシオンはこっちを見るけど、そうしたいのはこっちの方だ、どちくせう。
「あのねカクタス。何でそこで納得しないの?」
「納得ったって」
 ため息混じりに問い掛ける山吹に、ひとまず愚痴を吐いてみる。
「……お貴族様が、こんなに庶民感覚でいるってことがかなりショック」
「……魔道は金食いだって知ってて言うか、その科白」
「魔導士として規格外な最もな理由でしょ?」
「それは、納得」
「するなよ」
 ため息とともにそう言って、シオンは急に楽しそうに笑う。
「どうやらカクタスは信じてないみたいだから……連れてくか」
「さんせー!」
「へ?」
 連れて行くってどういうことだ? 何で? ドコヘ?
 嫌な予感にその場を逃げようとするものの、ローブの裾をしっかりと踏まれてるから逃げられない。
「どうせカクタスも帰省するんだろ?
 いっそ家族も呼んでもいいぞ。部屋は余ってるから」
「ごちそういっぱい出るよね? 楽しみ~♪」
「あ、父さん母さんに切符手配しなきゃ」
 オレをのけ者に、三人は楽しそうに計画を練り始める。
「あのー? オレってば、どこにつれていかれるんでしょ?」
「どこにって、当然俺の家。
 友達の、いや、仲間の家に泊まるのって別に不思議じゃないだろ?」
「さっきの話が本当なら、家じゃなくて城だろーがッ」
「あ。やっぱりまだ信じてないんだー。
 でも、イヤでも信じざるを得なくなるよ? あの陰謀渦巻くパーティに出れば」
「イヤダアアアアッ 厄介ごとに巻き込まれるううううッ」
「スノーベルに近づきたい人って多いから……
 苦労はお互いで分けましょうね。カクタス」
「優しげな口調でオレ生贄にする気満々だろ山吹ッ」
 反論はすべて聞き流され、抹殺され……

 結局、休みが始まってすぐに、家族全員揃って場違いな場所に放り込まれた事は、いうまでもない。

PA初期メンバーで、唯一幼馴染ではないカクタス君を主役に据えてみました。
ギャグ要員の彼は書いていて楽しいです。最近はもう一人増えましたけどね(笑)

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/