051:ひととき (69文字)
例えばお気に入り曲を聴いているとき。面白い本を読んでいるとき。
木陰でのまどろみ。大好きなものを頬張るとき。
そんな、ちょっとした幸せの時間。
052:緊張 (92文字)
武者震いと言えば聞こえは良いけれど。
端からみれば、いや、どこか冷静な自分からだって滑稽に見える。
ガチガチになっていても仕方ないとは分かっていても、どうやったら普段通りに振る舞えるのか。
053:告げる (120文字)
厄介ごとを背負ったものだと思わなくはない。
ただ、知らせないわけにはいかないことくらいは分かっている。
無知を悪というならば、教えることを怠ることの方がより悪いだろう。
固く閉ざしたままでいたい思いを封じて重い口を開く。知らせるべき言葉をのせて。
054:小さな小さな (107文字)
妙に広い空間と展示物を区切るロープ。
中央に鎮座ましますそれは周囲の仰々しさと打って変わってこじんまりとしている。
この凄さは、分かる人には分かる――いや、分かる人ほど思い知らされる、らしい。
その違いが少し、悔しい。
055:にせもの (75文字)
本物じゃあないって、それおかしくない?
そもそもあたしは黄玉じゃないわ。れっきとした黄水晶。「本物」の宝石よ。
黄玉「みたいなもの」だなんて失礼しちゃう!
056:支え (91文字)
遠く遠くからかすかに届く声。こちらの必死の呼びかけにあの子は答えてくれた。
聞き取りにくい声を聞き、応えてくれている。
まだあの子は諦めていない。なのにどうして自分たちが諦められようか。
057:涙 (88文字)
大きなしずくがこぼれていく様子は落ち着かない。
わんわんという泣き声もきついけれど、はらはらと落ちていくだけを眺めるのがもっと辛い。
もう泣かないでと願いを込めて、そっと拭い取る。
058:それが全て (89文字)
うん。確かにタイミングは悪かったし、急かしたのは確かだし、急に仕様が変わったのはこっちの事情。
がんばってたのは知ってる。だけどね? 絶対にできるって言ったのはどの口?
で、結果は?
059:崩れる (99文字)
最初にひびが入ったのはいつのことだったろう。
不必要に高い自尊心と実績の伴わない自信。
いつか壊れることは分かっていて、必死に塗り固めていた。
つまりはただ、耐えきれずに自重でつぶれてしまっただけのこと。
060:決まり事 (73文字)
最低限守らなきゃいけない事。だけど、これが増えると窮屈で仕方ない。
不文律で決まっているものが明文化される事で、こんなにも面倒になると思わなかった。
「描写する100のお題」お題提供元:[追憶の苑] http://farfalle.x0.to/