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しんせつ

068:それが永遠になるように

 今日のおやつはどこぞの有名プリンらしい。
 生クリームでデコレーションされた淡黄色のプリンを一口。
 『甘い』のだろうな、ということだけは分かる。
 それでも感じるのは水で何倍にも薄めたような甘さ。
 かつては、それでも感動したものだというのに。
 誰もいなくて良かった。
 咲夜の姿で壱はそっと息をつく。
 『新しい器』に移ったことで分かったことはいくつもある。
 それでも一番感じているのは、現が優れた器だったこと。
 彼女に宿らなければ、壱はきっと『五感』というものを知らなかったし、人の感情も分からないままだった。
 ――昔は、それで満足していたのに。
 普通だと思っていた。ずっとこのままでいるのだと。

 以前の宿主のことなど、あまり気にしたことはなかった。
 現がまだ小さかったとき、先々代の器が死んだ。
 壱の力があれば助けられただろう。
 現が小さかったとはいえ、三歳児ともなれば危なっかしいとはいえ一人歩きは出来る。
 壱が自由に身体を使うことだって出来た。でも、壱は手を貸さなかった。
 今同じことが起きたら。
 現か空に何かあって、壱の力で助けられるというのなら――多分力を貸すだろう。
 そう思えるほどに変わった。

 変化を決して壱は厭うているわけではない。
 けれど、時折思う。
 何も知らない頃に戻れたら。
 それと同じくらい――現とともにあったあのころに戻れたら、と。

同時に、出来れば今度は『終わり』がないことを。 09.12.02

064:いつかあの空へ

 養子(こども)ができて一番に思ったことは、やっぱり尊いものだということ。
 あまり構ってもやれない自分を父と慕ってくれるのはとても嬉しい。
「何? 好きな子が出来た?」
「というより人、ですね」
「年上か」
 久々にこっちに戻ってくることが出来て和真の様子を世話役に聞いてみれば、成長をうかがわせる言葉が出てきた。
「まあ年上に憧れる時期じゃああるか」
 自分が同じくらいのときを思い出せば不思議じゃない。
 一時、文義姉上に憧れた事だってあったのだし。
「それが……手酷く振られてしまわれたようで」
 しかし続けられた言葉に動きが止まる。
 なんだかとても、似たようなことをいつかどこかで聞いたような気がする。
 いやまさかと思いつつ、万一の可能性も考えて問いかけた。
「ちなみに聞くが……もしや相手は茜か?」
 恐る恐る出した質問に、世話役の侍女は眼を丸くして答えた。
 とっても欲しくない答えを。
「良くお分かりになられましたね」
 思わずため息をついてしまいたくもなるというものだ。
 空を見上げたのは、多分なんかもうどうしようもなくなったから。
 ああ透き通っていて綺麗だなぁ。程よく雲もかかってるし。
 現実逃避をしても仕方ない。
 親子というものはどこか似るものだから。
 血は、争えないなぁ。
 かつて同じく従姉の茜に告白し、こっぴどく振られた親友を思い出し、鎮真は苦笑した。

 しくしくぐすぐすぐしぐし。
 そういった形容詞がピッタリくる感じで、和真は部屋の隅っこで落ち込んでいた。
 幸いというか、涙はあんまり出てない。めっちゃ悲しいけど。
 出来れば立ち直るまで一人でいたいところなのだけれど、年の近いきょうだいは和真を一人にしてはくれなかった。
「和真泣き虫」
「うるさいなっ」
 別に、同じ部屋にいるなといっているわけじゃない。
 何もしなくてくれていいのに、何だってこう神経を逆なでするようなことを言ってくれるのか。
 むっとして怒鳴り返したのが効いたのか、咲夜は少しいたわりの色を乗せた声で再度話しかけてきた。
「大丈夫。大きくなればきっとかっこよくなれる。
 ……かも?」
「持ち上げるかけなすかどっちかにしてよ?!」
「じゃあけなす」
 思わず振り向いて叫んだ要望に、容赦のない返事。
 いつものように乏しい表情のままに咲夜は見返してきている。
「……咲夜なんて、正体知ったら嫁の貰い手なくなるぞ」
「和真こそ。泣き虫だって分かったらお嫁に来る人いない」
 ぶすっとして言い返せば、それを待っていたかのように反論が来る。
 口げんかで勝てるなんて思ってなかったけどさ。
 それでも、やはり負けを認めるのは悔しくてしばし睨んでいると、仕方ないといった様子で咲夜が言った。
「だから、どーしてもお嫁さんが来なかったら。
 仕方ないからなってあげる。仕方ないから」
 ぽんぽんと慰めるように肩を叩かれるのはともかくとして、発言の内容が気に入らない。
「お嫁さんが来ないなんてそんなことないっ」
「だって鎮真も独身」
「養父上は養父上!」
 和真としても確かにその点は気になっていたが、本人に聞けるわけじゃない。
 もしかして結婚するのに自分達が邪魔なのかなと思ったりもしたけれど、気を使われてると知ればきっと気にするだろうと思うので、余計聞けない。
 ちなみに、一連のやり取りを、結果的に廊下で立ち聞きする羽目になった鎮真はぐったりと重い体を支えるのに精一杯だった。
「咲夜のほうが絶対にお嫁にいけないし貰い手なんてないっ」
 確かに黙っていれば可愛いけれど、最後にものを言うのはやっぱり性格だ。
 だから咲夜のほうが結婚できないに違いないと言い張る和真。
 けれどそんな相手に咲夜はジト目で一言返す。
「和真失礼。だから振られる」
「うるさいよっ」
 ぐさりとくるお言葉に、少し涙目ながらに返す和真。
 しばし咲夜を睨んで、仕方ないといった口調を取り繕って言葉を口にする。
「でも」
 先程の答えになる言葉を。
「貰い手のない咲夜だから、仕方ないから僕が貰ってあげる。仕方なく」
「えー」
「えーってなんだよ、えーって!」

 わいわいきゃいきゃいと騒ぐ室内の子供たちを邪魔するのも悪かろうと、廊下に座り込んで鎮真はため息一つ。
 確かに、以前咲夜を引き取るときに『将来、和真の嫁にするから』と理由をつけて、ほぼむりやりに話をまとめたけれど。
 ま、将来のことはまだ考えなくていいか。
 とりあえず、今の時点で和真と咲夜に来ている話は全部蹴ろうと思いながら、鎮真はそっと自室へと戻った。

 空にいる叔母達と親友達にいい報告が出来る日も、そう遠くないことかもしれない。

きっと返事は「先を越されてどうする」なんだろうなぁ。 09.12.09

010:それはきっと、確かな予感

 それは、唐突な問いだった。
「空は鎮真嫌い?」
 興味深々といった様子で見上げてくるのは鎮真の従妹、そして養女の咲夜。
 やっぱり子供としては親の評価は気になるものかと思いつつ、空はまぎれのない本音を答えた。
「嫌いというより、敵ですね」
 ぴしゃりと言い切った言葉に、かくりと咲夜が首を傾げる。
 そんなに分かりづらい言葉だろうかとこちらも迷えば、おずおずといった声で問いかけが来た。
「嫌いとどう違うの?」
「攻撃の度合いが」
 こーげき、と繰り返して、咲夜はまた黙り込む。
 唸っている様子からして困らせてしまっていることは分かったけれど、それが空の本心だから仕方ない。
 敵は敵。現に近寄る相手は敵。
 至極単純なことだと思っているのは空本人だけだが。
「うん、わかった。ありがとう」
 そう言って、興味を失ったように去っていく咲夜。
 ちょっと悪かったと思わなくもないが。
 嘘をつくよりいいですよね。
 ひとりごちて、空は考えるのを放棄した。

「現は鎮真嫌い?」
「そんなことありませんよ」
 突然の問いに姉と同じように目を丸くして、けれど現は違う返事を返す。
 そっかーと相槌を打つ咲夜にジュースを手渡しながら、現は不思議そうに問いかけた。
「というか、どうして貴女が気になさるんですか?」
「だって鎮真のことだし」
 気になるよと応える彼女に、現は少し目を細めて言葉を口に乗せた。
「『壱』」
 その、たった一言の呼びかけに咲夜は――先程から彼女の身体を使っていた『壱』は冷たい笑みを浮かべた。
「やっぱり、現の方が鋭いね」
 にっと笑う壱に対し、何で分からないと思うんですかといった表情で現は見返してきた。
 その視線を満足そうに受けて立ち上がる。
「まだ答えをいただいていません」
「別に。ちょっと気になっただけー」
 留めるような言葉に軽く返して、壱はその場を去っていった。

 下調べした感じでは事前予想の通り。
 道に落ちていた小石を軽く蹴って、ついでに思い切り足を振りかぶって靴を飛ばす。
 ぽんぽんと何回か地面をはねて、靴は表で止まった。
 明日は晴れ、かな?
 なんにせよ幸先はよさそうだ。
 叶えたい願いは大きいのが一つ。かなえるチャンスがいつ来るかは分からないけれど。
 でもボクは気が長いから。鎮真以上に。
 くすりと笑って壱は靴をはき、体の主導権を咲夜に返す。
 もう少しは大人しくしておくよ。
 来るべき日のために。

絶対、何か企んでると確信する現と、気づかない空。 09.12.16

067:ひとときの、ゆめ

 なりたいな。
 ふと呟いた言葉を拾ったのは、きっと吹き行く風だけだった。

 気づいたのは、現に憑いてからだった。
 相性と言うものがあったんだろう。器として彼女はとても優秀だった。
 壱の持つ力を存分に扱えたし、身体を動かすのに違和感も感じなかった。
 けれど、壱が現を気に入ったことを気に食わない連中は多かった。
 当時の現はただ一人の星継ぎの御子。
 国を統べるものは神との仲立ちをするものであって、神そのものではない。
 そう信じる者達は多くて、彼らは壱を何とか現から剥がそうとしていた。
 だからこそ――空の存在が役に立ったともいえる。
 生まれることがなかった空も、身体だけはこの世に出でていた。
 現の片割れたるこの身体にならば、壱も移ってくれるかもしれないと考えたのだろう。
 この国では――いや、『他』から来た者が死ねば結晶化する。
 その理を許さぬように、赤子の身体を原料としてクローンやコピーホムンクルスといった、まさしく『壱のための器』が作られた。
 壱はそれを止めようと思わなかった。
 遠い未来、現が死んだときに活用できるなと思ったし、自分に役立つものをくれるというのだから、貰わない理由もない。
 説得を試みる連中を無視したりしている間にいろんなことが起こった。
 そして、その間に厄介なことに壱の心も変わっていった。
 『人間』のことが分かるようになって、もともとの体の主――空に、身体(あの器)をやってもいいかなと思うようになった。
 そうすればきっと現は喜ぶだろう。
 空だって文句は言うだろうけど、妹に面と向かって逢える権利を無碍にするとは思えないし、ボクのものに文句は言わせない。
 けれど、それより早く……現に限界が来た。
 ボクの力が強くなりすぎて、現の身体だというのに、彼女自身の魂が剥がれ落ちかけていた。
 だから、計画を少し変更した。
 現の身体を空に渡し、壱の器となるはずだったものに現の魂を入れる。
 壱の力の強い身体でも空には関係ない。
 元々、この世に空を留めているのもまた、壱の力だから。
 その後、現の体に残った壱の力ごと、空の魂を『器』に入れて、現の魂は本来の身体に移し変えた。
 目論見は成功し、今のところ問題は出ていない。
「やっぱり確実なほうがいいよね」
「咲夜?」
「どうかしました?」
「ううん、なんでもない」
 にぱっと笑って、両隣に座っている双子の腕にしがみつく。
 ボクが表に出てきていることを悟っているのは、多分現の方。
 ボクの力を感じ取るのは空のほうが上だけど、現はずっと憑いてただけあって勘が働く。
 こういうとこも加味すると、やっぱり空の方がいいよね。
 力の回収も出来るし、空も長生きできるし。
 となれば、鎮真をとっととけしかけようかな。
 くすりと笑って、壱は意識を咲夜に返す。

 なってみたいなと思った。人に。
 現や咲夜みたいに、とり憑いて垣間見るんじゃなくて、人として世に関わってみたい。
 どうせなら、いっぱい構って愛してくれる両親が欲しいし、ばれたときの対策だってしたい。
 現は小さい子に甘いし、空だって同じ。
 空はボクに頭が上がらないし、こうやって咲夜に憑いてみて、鎮真の事も大体分かっている。
 早くそんな日が来ないかな、なんて思いながら、壱はしばしの眠りについた。

楽しい夢の続きをみよう。いつか、現実にするけれど。 09.12.23

「題名&台詞100題 その一」お題提供元:[追憶の苑] http://farfalle.x0.to/