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しんせつ

002:何故、そんなにも君は

 鎮真と晶が話し合ったことは『とりあえずユキなる人物を探す』ということだった。
 遠縁かもしれないし、世話になった人かもしれない。
 けれど、その間咲夜をどこに預けるかということで悩んだ。

「晶。聞くが、咲夜を害して利益のある相手、どれだけ思い浮かぶ?」
「時世と真砂を仲違いさせたい他の七夜を筆頭に山ほど」
「だよなぁ」
 間髪いれずに返してきた彼に同意して、二人は揃ってまたため息を吐く。
 咲夜には聞かれないように小声で話をしているが、あまり長いと今度は部下達から詮索されるだろう。
「一旦、他国に逃がすか」
 鎮真の呟きに、晶は目を丸くする。
「そりゃそうした方が国内にいるよりかは危険度低いけど……あんな小さい子を一人で?」
「そんなわけないだろう。
 ……頭下げればなんとかなる、と思う。姫はお優しい方だし」
「姫って……まさか姫宮?」
「ああ」
 一番安心できる相手ではある。
 権力争いにほぼ関係ないし、現姫も小さい子の面倒を見るのは慣れておられるし。
「うちの問題に巻き込んで良いのかなぁ」
「……この間、ややこい品物そろえたから、多分聞いていただけるとは思うぞ。
 それに、姫がお小さい頃に伯母上達と面識がある。
 咲夜相手に昔話もしてくれるだろう」
「そう、か。兄上のこと、ご存知なんだ」
 晶の声に少し羨望が混じったことには気づかない振りをして鎮真は続ける。
「これからの行動だが、咲夜は俺が連れて行く。その後、真砂に帰って会議だな」
「じゃあ、僕も急いで帰って……報告する」
「その後は連絡しつつ、か」
「そうなるね」
「じゃあそういうことで」
 話はこれで終わりとばかりに鎮真は咲夜に話しかけに行き、晶は取り残された。

 そんなに心配なら、鎮真が引き取れば良いのに。
 ――本当は、自分が引き取りたいけれど。
 だって兄の忘れ形見なのだ。
 けれど、時世に連れ帰れば母が良い顔をしないのはわかりきってる。
 自分に力がないのも、嫌というほどに。
 だから、鎮真が引き取った方が『安全』なのだ。
 それこそ次期当主・和真の許婚にでもしてしまえばいい。
 でも、それはなんとなく気に入らない。

 自分は何も出来ないのに、我侭ばかり言っている自覚はある。
 でも、それでも。
 諦めに支配された目をした咲夜を見て思うのだ。
 あの子が一番幸せになれる方法は何だろう?

子供らしく健やかに。望むのは事実。叶えるのは…… 09.05.20

061:悠久の時の流れの中

 ごねる咲夜を宥めすかして何とか連れ出して、鎮真はほっと息をつく。
 散々うるさかった咲夜も今は静かだ。
 ――馬に乗せたときには「人攫い」と叫んで周囲を混乱に陥れたものだが、列車は珍しいらしく大人しく外の景色を眺めている。
 とはいえ、子供の機嫌や興味なんて、何時移るかわからない。
 目的地はディエスリベルのPA本部。
 どうかそこまでは静かにしていてくれますようにと、鎮真は知っている神全てに祈りを捧げた。

 思えば、最初に何らかの方法で連絡を取っておけばよかったのかもしれない。
「留守?」
 ぽかんとした鎮真に、PAの団長――老年の域に入ったリアトリスは首肯した。
「ええ。大切な用事とやらで、故郷に戻られているはずですが?」
 しまった。
 そこでようよう気づく。
 叔母夫婦と姫は面識があった。
 葬式には来れなくても(警備の面やその他色々でまず来れないだろう)家にいれば会えたのでは?
 かといって、家にいればいるだけ咲夜の身の安全が脅かされるわけで。
 とりあえず礼を言って団長室を辞し、本部内に設けられた喫茶室に向かう。
「こんどは、どこにいくの」
 無邪気でも楽しそうでもないその言葉がぐさりと刺さる。
「喉、渇いてないか? 少し休憩しよう」
「いらない。どこにつれていくの。ひとさらい」
「そういうことを言うもんじゃありません。俺は君の従兄だぞ」
 叔母達は一体どういう教育を施してきたのやら。
「それに、こっちの国には甘いものがたくさんあるぞ」
「あまいの?」
「そう。団子や饅頭よりもっと甘いお菓子が。
 咲夜はいらないか? 俺は食べるけどなぁ」
 食べ物で釣ればどうだとばかりの鎮真。
 この戦法は有効だったようで、咲夜はぱっと笑顔を浮かべた。
「おかし? おいしい?」
「ああ。だからちょっと今から行くとこで休憩しよう」
 途端にどっち、どこと騒ぎ出す咲夜を微笑ましく眺めながら鎮真は思う。
 国内では若輩に当たる自分だが、こうやって国外に出てしまえば桁違いの長寿になる。
 自分の感覚では数年前の出来事が、こちらでは数百年前のことなのだ。
 けれど。
 いつの時代も子供は同じだなぁ。
 かつて弟子にと押し付けられた少女を思い出して笑う。
「はやく、おかし!」
 ちっとも急がない鎮真をじれったく思って、文句を言う姿までなんだか愛しい。
「はいはい」
 とうとう鎮真の手を引っ張り出した咲夜に苦笑して、機嫌を直してもらうべく鎮真は喫茶室への道を急いだ。

何時の世も子供は同じ。自分も年をとったなと思う。 09.06.03

063:あなたに伝えたい言葉

 大きなパフェをご満悦な様子でぱくつく咲夜は、見てて可愛い。
 元々顔はよろしいのだ。顔は。
 態度が子供らしくなく可愛くないだけで。
 向かいに座ってコーヒーに沈みかかっているアイスをつつきつつ、鎮真はため息を隠す。
 どうしたもんだかなぁ。
 一番角が立たない預け先が消えてしまった。
 代わりに預けられそうなところは……正直心当たりが少ない。
 とんぼ返りをしても良いことはないし、こちら側で知っている人間自体が少ない。
 ……いっそ、協会に預けるか?
 スノーベル家には知り合い少ないが、エドモンドあたりなら何とかなる……か?
 唸りつつ、アイスが溶けて薄茶になったコーヒーフロートをストローですすり――視線を上げた先にちょうど良い相手を見つけた。
「元気そうだな、アポロニウス」
 回れ右をしたときには遅すぎて。
 声をかけられてしまった赤毛の青年は、嫌々ながらも振り返った。
「……お久しぶりです、鎮真さん」
「ちょうど良いから座れ座れ。何か頼むか?」
 来い来いとばかりに手招きする鎮真を咲夜は不思議そうな顔で眺めて、それからアポロニウスに視線をやった。
「……お子さんですか?」
「従妹だ。叔母の子」
 疑問は抹殺とばかりに即答する鎮真。
 呼ばれたアポロニウスは仕方なく席にお邪魔することになった。
「師匠なら留守ですよ」
「聞いた」
 はははと乾いた笑みを浮かべる鎮真に、アポロニウスはますます怪訝そうな顔をする。
 確かに不思議ではあるだろう。
 鎮真がPAにくる理由の一番はアポロニウスの師匠こと現姫に会うためだ。
 周囲からは遊んでるだの、アプローチだのと言われているが、れっきとした仕事である。
 もっとも、魔法協会がらみではないが。
「ちょっと今うちがごたごたしててな。
 咲夜を――この子を預かっていただけないかと思ったんだが」
「それは残念でしたね」
 運ばれてきたコーヒーに口をつけつつ応えるアポロニウスは、話の持って行き先が読めていやそうに答える。
 紅葉のように赤い髪はあの方譲りで、『彼ら』の中でも見かけないことはない。
 が、緑の瞳がそれを裏切る。
 同じ血を持っていても、時と共にそれは薄れ、『彼ら』は『ヒト』に近づいていく。
 良くも、悪くも。
「それでだ。何も姫のお手を煩わせることもないよな?
 弟子なら無論のこと」
「……ここは関係者以外立ち入り禁止なんですが」
「お前の復活に入用だった薬草やらの呪術品、誰がそろえたか知ってるか?」
 ニコニコ笑顔で交わされる問答はアポロニウスには圧倒的に不利な話。
「ベルやローズがどれだけ怒っていたか。
 どれだけ俺にとばっちりがきたことか」
 はぁやれやれと遠い昔のことを持ち出す鎮真に、アポロニウスはぐうの音も出ない。
 出された名前はアポロニウスの従妹のもの。
 そして、鎮真は一時期とはいえベルの師匠だった。
 アポロニウスが一人旅を始めて、ぷっつりと連絡が途絶えたのが七百年前。
 当時のことを思い出すと、半分部外者の鎮真ですら苦いものがある。
 どういう因果か、石になってなお生き延びていたアポロニウスが発見されたのが数年前。復活したのがついこの間。
 恩は売れるときに売っておくべきだよなーと内心で思いつつも、ニコニコ笑顔を崩さない鎮真。
 アポロニウスは数分ももつことなく陥落した。

「数日中には迎えにこれるだろうから頼んだぞ」
「はい」
 背中に暗いものを背負ったままに応えるアポロニウス。
 咲夜は置いていかれることよりも、好奇心の方が勝っているようだ。
 じゃあと言い捨てて、数歩歩き、ふと思い立って鎮真は足を止める。
「そうだ、忘れるところだった」
「なんですか」
 あからさまに邪険な態度をとる彼に苦笑する。
 が、元々が鎮真の行動故なので仕方ないかもしれない。
 それは置いといてと気持ちを切り替えて、告げる。
「生きていてくれて、ありがとう」
 ぱちりと、呆けたようにアポロニウスは瞬きをする。
 突然言われれば確かに面食らうだろうなと思いつつも、鎮真はまた背を向けた。
「言い忘れてたからな。じゃあ、咲夜のこと頼んだぞ」
「鎮真さん!」
 大きな声にもう一度だけ振り向けば、とても神妙な顔で青年は頭を下げた。
「助けてくださって、ありがとうございました」
「――どういたしまして」
 預け先は、意外に良いほうへと転がったのかもしれない。
 辛い環境でも生き延びた、彼にあやかることが出来るなら。

生きていてくれてありがとう。今まで助けられなくてごめん。
どちらも、ずっと伝えたかった言葉。  09.06.10

「題名&台詞100題 その一」お題提供元:[追憶の苑] http://farfalle.x0.to/