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ソラの在り処-暁天-

【第九話 開示】 6.決意、そして宣言

 と、そのような捕り物があったせいで、宮殿は大混乱の様相を呈した。
 昴の偽物が居座っていた件などもあり、ひとまず今日はお開きにとなったのが半刻前。
 もちろん、こんな国家の大事を知っているのは上層部中の上層部だけ。
 一般的には『導姫様、ご帰還おめでとうございます』でざわついているものだと思われている。
 むろん、必死にそうなるよう誘導していることは言うまでもない。
 ちなみに、軟禁扱いになっているアースだって、『療養中』とかいう話にされている。
 とりあえずとはいえ時間が空いたため、ポーリーとノクティルーカは暇をもてあましていた。
 通されたのは、かつてアースの部屋だった場所。
 物がないなと思ったけれど、そういえば元々あまり物を持つ人じゃなかったなとも思い直す。
「龍田が、昴だったのね」
 ぽつりと今更ながらの感想を漏らせば、ノクティルーカも同意を示す。
「どうりで、アースがわざわざ言ってた訳か」
 何があったかなんて詳細の事は分からない。予想は出来るが。
「ちい姫様」
 呼びかけにそちらを向けば、合流してからほとんど話をしていなかったスピカが神妙な顔で座していた。
「どうしたの? えっと……眞珠」
「お伝えせねばならぬことが」
「なに?」
 聞き返せば、何故か彼女は口ごもって視線を下げる。とても、言いづらいことのように。
 伝えられる内容が何か悪いことのような気がして、ポーリーはまた言葉を重ねた。
「どうしたの? 何か悪いこと? ……アースに、何かあったの?」
「いえ! 姫様はご健勝であらせられます。……ただ」
 ためらいがちに開かれた口は、しかし別の声に遮られる。
「導姫様。昴がお呼びです」
 外から聞こえた声に、眞珠は一度口を閉じ、了承の旨を伝える。
「眞珠?」
「後でお話いたします……さ、昴の元へご案内いたします」
 ポーリーの問いかけに、先程までの葛藤がなかったかのように、あでやかな笑みを浮かべて先導するスピカ。
 不安になってノクティルーカを振り返れば、彼も困惑したような表情をしている。
 気にはなる、けれど……
 スピカの言うように、行かなければならないだろう。後で話してくれるとも言っていたし。
 気持ちを切り替えてポーリーたちはまた戻る。
 先程まで大騒ぎをしていた広間まで。

 先程は御簾に隠れて見えなかった場所には、正装をした龍田――昴が座っていた。
 その正面に位置する場所にポーリーとノクティルーカ。さらに後ろに七夜の面々が続く。
 そこで告げられたことは三つ。
 現――アースを都に呼び戻すこと、ポーリーを後星に据えること。
 そして……ポーリー及びノクティルーカ暗殺を企んだソール教会の司祭について。
「バァルという司祭は導姫だけでなく、理君や祝君……我が従兄弟たちも軟禁していたというではありませんか」
 訥々とした言葉の裏には激しい怒りの色。
「そのようなこと許すわけにはまいりません」
 意外なものを見た、という空気が周囲に満ちている。
 ポーリーは当事者なのだが、なんだかここまでのことになっちゃうんだとどこか他人事のように考えていた。
 逆にノクティルーカは少々頭を抱えたくなった。
 他国の王族に対し監禁とか暗殺未遂を行えばどうなるか。
 戦になるに決まっている。
 レリギオは宗教国家だから余計に性質が悪い。ソール教全体を敵に回すと公言しているようなものだ。
「では早速、使者を送りましょう。バァルとかいう司祭の身柄をこちらに引き渡すように、と」
 応じたのは時世七夜。そして続きというように鉄七夜が言う。
「取引に応じぬならば……それなりの対応をさせていただきましょう」
「二度と、このような事を考えぬように」
 ノクティルーカとて、バァルのことは許せるはずもない。
 自身が殺されかけたこともだが、ポーリーの件やその母親のこともある。
 ただ……戦となるとどこが戦場になるのかとか、法皇が自分達の非を隠してこちらに対して宣戦布告をしてこないかといったあたりを考えて……
 はたと気づく。
 ラティオは、何のためにレリギオに戻った?
 以前は家族を人質にとられていたから戻らざるをえなかった。
 でも今はわざわざいく必要などない。とすると……クーデターでも起こす気か?
 ノクティルーカが考え込んでいる間に会議は終わり、退室するよう促される。
 それでも彼はしばらく考えていた。
 戦争を回避し、相手がバァルを差し出すように仕向ける方法を。

 妙に気負った様子の昴の宣誓からしばし。
 とある一室に七夜が集まっていた。
 隣とある程度距離はとるものの車座になって、話されるのは先程のこと。
「随分と急いておられるようだ」
 口火を切ったのは月白七夜。ジェイ・ブルーの髪が蝋燭に照らされていつもより深い色に見える。
「仕方あるまい。あれでは後数年」
 そこで言葉を終わらせたのは、老年の域に入った鉄七夜。
 確かにあの年の取り方を見れば、昴は二、三年持つかどうかといったところだろう。
「とはいえ、大胆な手を打たれるものだ」
「しかし、効果的な手だ。他国からの侵略には屈せぬ。
 もっとも……獅子身中の虫がいるようだが」
 呆れたような時世七夜の言葉に続いて、潮路七夜が周囲を伺うように眺める。
 胃が、痛い。
 早くも鎮真は脱落しかけていた。
 この場で一番若く、経験がないゆえに仕方ないともいえる。
 七夜はけっして一枚岩ではない。
 新し物好きの好奇心から、他国と積極的に貿易などを行おうという家もあれば、一切関わるなという家もある。
 先程問いかけをした潮路七夜は外国嫌いの代表だ。
 鎮真自身は情報を得る上では必要だが、一定の制限を設けるべきだとは考えている。
 それから、誰も口にしていないが、昴の狙いも気になる。
 早々に導姫を後継に据えたのは、単純に早くあの座を降りたいからというわけではないだろう。
 以前はともかく、今は。
 仮に戦になった場合、結果はどうあれ責任を取るという形で退位されるおつもりやも。
 そうなると心配になってくるのは世継ぎの君の事で。
「導姫を見たか? 気弱げに見えるが我らにまったく臆しておらぬぞ」
 どこか面白そうな口調は月白七夜。
「確かに。母君に良く似ておられるようだ」
「婿つきで帰って来られるとは思いもしなかったがな」
「いやいや、風の君の末裔という話だ。それに先の折で姫を守られたのだろう?」
「それに……姫の片翼という話です」
 昔聞いたことを呟けば、視線が一気に鎮真に集まる。
 迫力に気おされかけるが、表面上だけは取り繕ってなんでもないように続ける。
「橘正告がそういっておりました。才があったので星読みの手ほどきもしたとか」
「指すの御子の愛弟子ということか」
 余計な発言をしたという自覚はある。
 故に、鎮真は軌道修正を図る。
「私は昴に賛成します。過去を遡るまでもなく、許しがたい」
「確かにな。沖に出た漁師が時折、他国の船に攫われかけたとも聞く」
 鎮真の意見に時世が賛同し、火影が少々嫌そうに言う。
「しかし、いきなり武力で攻めるようでは奴らと変わらぬぞ」
「だからこそ奴を引き渡せという手をとる。
 長年人の世を操りおったあやつを差し出すか、それともともに滅ぶのか」
 月白七夜が言い放ち、にぃと笑う。
「久方ぶりの戦じゃ。腕が鳴るというものよ」
 そうして意見はまとまっていく。長い因縁に決着をつけるために。