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ソラの在り処-蒼天-

繋がれた遺志

 青い空を眺めて、デルラは息を吐いた。
 今までに比べればかなり忙しい日々。
 決して、嫌だとか充実していないというわけではないのだけれど、それでも時折思い出す。養い子たちとともに、つつましく暮らしていた神殿での日々を。
 法王としての責務をこなす毎日はあの頃に比べてかなり慌しい。
 色々と妨害などもあるかと思われたが、今のところ大した障害はない。
 前法王派の連中もお手並み拝見といったところなのだろう。

 前法王――マイーニは、デルラのライバルだった。
 同じ師につき、ともに学び、けれど相容れることのなかった相手。
 法王に選ばれた際にはデルラに『教会の最盛期を作る』と豪語したものだ。
 加えて『お前が次の法王になって、わしの名前に潰されろ』とも言っていたか。
 思えば、最初にバァルの不自然さに気づいたのも奴だった。
 将来を有望視されていた奴は、しかしとある女性との結婚を望み、教会から出ようとしていた。
 結婚してはいけない戒律はないと、師はなんとか奴を引きとめようとしていたのを良く覚えてる。自分だって正直面白くなかった。張り合う相手がいなくなるというのは結構寂しいものだ。
 何度説得しても、もう決めたことだからと言い張っていた奴だったが――急に残ると言い出した。結婚を白紙に戻して。
 妻と――すでに腹にいただろう子を捨てて、手段を選ばず出世を目指すようになった。
 元々気の合う方ではなかったデルラがそれを知って、さらに険悪な仲になったのは言うまでもない。
 自分が教会の――バァルのことをおかしいと感じたのは、かなり後になってからのことだから。
 あいつは自分ひとりが犠牲になればいいとばかりに、何でも背負い込んでいた。
「まったく。わしに面倒な後片付けばかり任せおって」
 ぱらぱらと捲るのは、巧妙に隠されていたマイーニの手記。しょっぱなの一ページ目に『ようやく見つけたか』などと書かれていて苦笑したが、内容から鑑みるに、明らかに自分に当てたものだと分かることが苦さを倍増させる。
 この部署がおかしい。この人物はかなりバァルに傾倒しているなどと、役立つのだが一つ一つに皮肉が入ってくるのが……なんというか、あいつらしい。
 晩年は病に倒れ、すべてをバァルが取り仕切っていたという。
 本当に病気だったかなど、今となっては分からない。
 最初はこまめに書かれていた手記も、だんだんと間隔が長くなり、文章が少なくなる。最後はたった一文。病魔に冒されていたのか、かなり崩れた字。それでも必死に書いたのだろうとうかがわせるもの。
 『孫に会えた』。
 その一文を目にして、デルラは目元を綻ばせた。
 ああ……分かったのか。
 あの子たちが聖都に行って法王に対面したと聞いたとき、奴は分かったのだろうかと思ったものだが。
「そうか。分かったか……忘れておらなんだか」
 しらず笑みが漏れる。
 もう少しこの余韻に残っていたかったが、無粋なノックがそれを阻んだ。
「猊下、お時間です」
 扉の向こう。聞こえてきたのは、かつての『神』に瓜二つの――孫なのだから似ていてもおかしくはないが――赤い司祭。
「おお済まぬな」
 応えて、デルラは立ち上がる。

 あの時、ラティオの手を取った事を後悔はしていない。
 ただ……彼の姿を見るたびに、痛みともつかぬものを感じるだけ。
「奴にバカにされぬ程度にはやらねばな」
 色々盛りだくさんの問題を思って、けれどデルラは楽しそうに笑う。

 これより後の世のこと――この時代は『教会第二の黄金期』と呼ばれることになる。

おしまい