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ソラの在り処-蒼天-

【第九話 襲来】 3.二度目の対決

 町は、混乱を極めていた。
 逃げ惑う人々の後ろに、魔物の群れが押し寄せてくる。
 人波に抗って魔物と退治し、倒している面々もちらほら見えることから、冒険者たちが応戦していることは分かった。
 こけてしまった人を助け起こし、セティは魔物がやってきているほうへと進む。
 前を行く、ダイクロアイトを目印に。
「セティッ」
 呼び声は後ろからした。
 この人波ではぐれたのだろう。リカルドの姿はかなり後方にあって、クリオもまた近くには見えない。
 けれど、それに構っていられない。
 魔物を倒しつつ、町の入り口を目指す。
 これ以上街中に魔物を呼び込まないためには門を閉ざすしかない。
 こんな――こんなことが他の町では起きてたんだ。
 ぎゅっと唇をかみ締めて、襲い掛かってくる魔物を屠る。
 狼くらいの大きさの、四足の魔物。
 けれどその頭はどちらかというと猫科のもので、なぜか背にはこうもりのような翼もある。明らかに、飛ぶことは出来ないような小さなものだけれど。
 ようやく門が見えた。
 町の内側に開く形の門を、何とか閉めようと全力で押している人々と、彼らを魔物から守るべく剣を振るっている人々。
 しかし、閉ざされることのない門めがけて、次々に入ってくる魔物たち。
 どうやって門を閉じれば。
 考えつつも進もうとしたセティの肩を、誰かが掴んだ。
 はっとして立ち止まれば、緊迫した表情のダイクロアイト。
 なぜ止めるのだろうと口を開くより先に、白く巨大な光が奔った。
 眩しさに目を閉じた瞬間、轟音が耳を打つ。
 もう一度叩かれた肩。
 目を開ければ、セティのすぐ近く――斜め前に数歩先辺りから、門まで一直線に焦げた地面。
 魔法だろうか? すごいなぁ。
 いまだ痺れたままの耳。
 呆けてしまったセティの目に映るのは、颯爽と門をくぐるダイクロアイトの姿。
 慌ててセティも後を追う。
「すぐに門を閉めろ!」
「あ、貴方達は?」
 ダイクロアイトの怒鳴り声に、知らない誰かが戸惑ったように返す。
「私たちのことはいい!」
 きっぱりとした返事。
 刹那、戸惑った様子を見せたが門は勢い良く閉められる。
 遅れてなるものかと門をくぐるセティ。
 彼女のほかにも数人が潜り抜け、街を守る門は閉ざされた。
 しっかりと閉じられた門を見て思う。
 これで、町は大丈夫。
 これ以上魔物の数を増やすわけにはいかなかったし、入り込んでしまったものは中に残った人たちが倒してくれるだろう。
 ざっと辺りを見回せば、外に出たのは全部で五人。
 ダイクロアイトの仲間だろう戦士と、クリオとリカルド――見知った姿を見つけてほっとする。
「あとはこいつらを倒せばいい」
 ダイクロアイトの声に、セティも敵を見る。
 邪魔をしたセティたちを囲むように、威嚇を続ける魔物たち。
 どれだけの数がいるのだろうか。
 襲い掛かってくる魔物を退治しつつ思う。
 視認できる数は二、三十。
 街に入ることを諦めたのか、門には向かわずセティたちの背後を取るようにして囲んでいる。
 応戦するうちに、少しずつ街から離されていっていることに気づいた。
 しかし、それでも街に向かおうとする魔物はいない。
「なにか変じゃない?」
 問いかけは、背中を預けたクリオのもの。
 あまり街から離れると戻るときに大変なのは当然。
 体力にも限界がある。すべてを倒しつくすことが出来ればいいけれど、追い払うことが出来れば当面は良い。
 ここでダイクロアイトやセティが倒れてしまっては元も子もない。
 まるで、それが分かっているかのように、魔物たちはセティたちを街から離そうとしているように思えた。
「誘っているのか?」
「乗ってやろうじゃないか」
 訝しげなダイクロアイトに戦士が答える。
 ここで今見えている魔物の数だけなら、倒せないことはないだろう。
 つまり――伏兵がいた場合は辛いということ。
「そうだな。元を叩くのが一番早い」
 ダイクロアイトは頷き、誘うような魔物を追って行く。
「セティ」
 こちらはどうすると問うてくるクリオに、彼女は考える。
 たった二人で彼らを行かせて良いのだろうか?
 深追いして共倒れになる可能性なんて、考えなかった。
「行こう」
 きっぱり宣言した彼女に、クリオもリカルドも苦笑する。
「体力の把握だけはしておきなさいね」
「退くってことも忘れないでよね」
 それぞれの警告に、セティは返事だけは良く返した。

 魔物たちは町から離れ、林へと向かっていった。
 明らかに誘っている様子に、躊躇がないわけではない。
 それに林といっても、このあたりは開墾がまだあまり進んでおらず、街の人々の生活を支える場所でもある。
 魔物の脅威を減らしておくに越したことはない。
 残る魔物はあと数匹。
 こちらの被害はほぼないし、このまま退治しつくしてしまえば良い。
 そう思った瞬間に、小さな足音がした。
 草を踏む音。自然と、全員の視線がそちらに向いた。
 人を阻むような緑に映える白。目にも鮮やかなそのローブは金糸の縫い取りが特徴的で、上等な服だと察せられた。
「人……?」
 訝しげな呼びかけは誰のものだったろう。
 ざわりと全身が総毛立つ。
 セティは知っていた。この相手を。
 不健康にも見える白いかんばせ。
 肩から滑り落ちる長い髪は深紅の色。
「ラティオさん……に、似てる?」
 戸惑うような声はリカルドのもの。
 改めてみれば、確かに容姿は良く似ていた。
 けれど、人のものとは思えない金と銀の二色の瞳は相変わらずぼうっとしていて――得体が知れず、恐ろしい。
「ソール教の人間?」
「逃げてきたのか?」
 ダイクロアイトの声にも『彼』は何も言わず、ただ視線を上げた。
『ふたつ……みつけた』
 訥々として感情のこもらない声。
『ね、かえして?』
「セティ!」
 稚い子供のような言葉に被さるクリオの声。
 横からの衝撃に流されるまま倒れれば、後ろで何か重いものが崩れる音がした。
 リカルドに庇われたということと、そこそこ大きな木がくずおれたのだと理解したのはほぼ同時。
 セティとは比べ物にならないほど強いダイクロアイトが、『青年』の術を避けきれずに負傷する様が妙にゆっくりと見えた。

 普通なら、こちらの不利を悟って襲ってきても良さそうな魔物の姿はすでになく。のこのこと相手の術中にはまった自分の迂闊さを呪いそうになった。