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ソラの在り処-蒼天-

【第九話 襲来】 1.探し人来る

 その日のうちにセティたちはフェルンを出発し、国境の町シックザールへと向かった。
 約一名ほど、普段よりはるかに機嫌の悪い人物がいたが、特に問題は起きず旅程は進んでいく。
 宿泊予定の街まであと少しというところで魔物に襲われ、それを撃退してからクリオがふと言った。
「セティも大分剣が使えるようになってきたわね」
「え。そ、そうかな」
 褒められるのは嬉しい。クリオには時々見てもらっているから尚更のこと。
 けれど。
 ちらりと見やった先には相変わらずのフード姿。
 倒した魔物からとっくに離れ、汚れた剣を布のようなもので拭いて収めているところだった。
「リゲルは強いわよ」
 言いたい事が分かったんだろう。苦笑したクリオが言う。
「悔しいけど、すごく強いよね」
「そうね。武器の使い方も戦闘のスタイルも違うけれど、強いわね」
 リゲルが使っているのは、母から――いや、父から託されたという今朝受け取ったばかりの剣。
 確かに、代用品として用意したセティの剣では使い方が違うから戦いにくいのだろうけれど。何だろう、すごく不満に思うのは。
 幾度かそうやって戦闘を繰り返し、街に辿り着いたのは日が沈みかけた頃。
 宿を取り、酒場で聞き込みをして食事をはじめる。
 今回も行く先々ですることは『勇者』ダイクロアイトについて話を聞くこと。
 以前も行っていたことだが、改めて。
「ダイクロアイトって勇者は派手に活躍してるみたいだねぇ」
 感心したようにリカルドが呟き、エールをあおる。
「すごいよねぇ」
 呟きを漏らしたのはセティも同じ。
 魔物退治を着々と行い、各地の人々に感謝されている。
 名のある魔物を倒したことも多いというし。
 オーガやトロール退治もしたと聞く。
「わたしももっと頑張らないとなぁ」
 うんうんと頷き、セティはパンを口に入れる。
 和やかな食卓風景ではあるが、実際にしゃべっているのはセティとリカルド。
 たまにクリオが口を出すだけで、ブラウとリゲルは一言も口を開かない。
 いつものこととはいえ、なんだかなぁとノリの悪い幼馴染を眺めていると、ふと思い出したといった様子でリカルドが口を開いた。
「そういえばさ、ブラウ。なんでまたラティオさん修行のしなおしなんてする気になったの?」
「んなことオレが知るか」
 めんどくさそうに言ってスープを口にするブラウは心底そう思っているようで。
 でもセティも疑問があったのでこれ幸いと聞いてみる。
「ちょっとくらい話聞いてないの? そもそも、なんでデルラ司祭なのさ。
 ラティオさん元々ソール教会の人なら、他に知ってる人いるんじゃないの?」
「あいつのじいさん、うちのじーさんと知り合いみてぇだ」
「え、そうなんだ?」
 不思議そうな声を出したのはリカルド。
「じゃあ、ラティオさんっておじいさんそっくりなんだ」
「みてぇだな。祖父似だからすぐに分かったとか」
「あー。それで司祭様びっくりしてたんだ」
 ラティオを見た司祭の様子を思い出してセティは納得する。
 良く似た人を見たら、そりゃびっくりするよね。
「じゃあラティオさんのお爺さんもあんな赤い髪してるのかな。
 すごく鮮やかな色だよね。りっちゃん知ってる?」
 急に話をふられたリゲルは口の中のものを飲み下した後ゆるゆると首を振った。
「お会いした事はありません。生き写しだと噂には」
 噂? 噂になるような人だったんだろうか?
 引っかかりは感じたものの、セティが聞くより早くブラウが別の話題を振った。
「知り合いに頼らなかったのは、単に性格が合わなかったんじゃねぇか?
 師匠は死んだってってたし、兄弟子がバァル司祭だって話だし」
「バァル司祭の弟弟子?」
「え?! そうなんだ」
 聖都で会った司祭を思い出す。
 あ、なんか合わなさそう。
 全員そう思ったのか、顔をあわせると自然と苦笑が漏れる。
「なんか、納得だね」
「そうね……」
 そんな仲間の様子を見て、ブラウは変わらず食事を続けた。
 話していないことはたくさんある。何より、ラティオの話は抽象的過ぎてついていけない。
 意味深なことを言いすぎているせいもあるが。
 別に自身に関係ないならいい。そう流してしまった。
 ――後悔する日が来るとも知らずに。

 合流予定のシックザールを目指して進むことしばし。毎日のようにどこかで魔物に出くわし、立ち寄る町ごとにダイクロアイトの話を聞き。
 ようやくシックザールにたどり着いたのは、春も半ば、初夏の兆しが見え始めた頃だった。
「結局ついちゃったねぇ」
 残念そうに言うのはリカルド。
 ダイクロアイトの足取りをつかめないままだということもあるのだろうけれど、この場合はリゲルと別れるということを残念がっているのかもしれない。
 なんだかんだで、リカルドはリゲルになついているような感じだし。
 気まぐれな猫を構いたがる飼い主みたいかな。
 いや、ご主人にかまって欲しがってる子犬の方が合ってるかもしれない。
 想像がおかしくて、ついつい笑みを漏らしてしまうセティ。
 街門はもう少し。
 時期のせいか、道を行く人の数はそれなりに多い。
 さて、彼らはどこで待っているのだろうか?
 待ち合わせはしたものの、誰が来ているのだろう?
 ふと気づけば、フードをかぶった影がこちらに近づいてきていた。
 フードからこぼれる青い髪。
 特徴的なそれに気づき、セティが足を止める。ブラウたちも気づいたのかほぼ同時に足を止め、影も向かい合う形で立ち止まった。
「や、久々だねリゲル」
 気さくに声をかけ、片手を上げたのはプロキオン。
 少しくすんだ紫の瞳を和ませて、楽しそうに笑っている。
「お久しぶりです、プロキオン殿」
 ぺこりと頭を下げるリゲルを満足そうに見やってから、彼はセティたちに目を向けた。
「あ」
「とりあえず詳しい話は後で」
 挨拶をしようとしたセティを遮ってプロキオンは確認するように人差し指を立てた。
「宿取ってるからそっちに移動しよ? こんなとこで渡すのもなんだし」
 ちろと周囲を見て言う彼に言われるまでもなく、ここで話し込むのは他の人にすごく迷惑だ。
「うん。いいよ」
 二つ返事で頷くセティに、にかっと笑って見せて、それからプロキオンは独り言のように呟いた。
「……なんでか、君宛のお客さんもおまけでついちゃったしね」
「へ?」
「わたしにお客?」
「ん。まあ来れば分かるよ。来れば」
 プロキオンはそういうだけで詳しい話は聞かせてもらえず、案内のままに宿に連れて行かれることになった。

 ついていった先は結構大きな、それでいて雰囲気の良い宿だった。
 扉をくぐったプロキオンは、迷うことなく一つのテーブルに向かった。
 テーブルはかなり大きくすでに四人座っている。
 そのうちの一人の前にプロキオンは直立し、深く頭を下げた。
「ただいま戻りました」
「お疲れ様です」
 答えたのは彼の正面に位置する人物。少女らしい声に聞き覚えがあった。
 ほの暗いランプに照らされる横顔。室内にもかかわらずかぶったままのフードから漏れる銀の髪。そして何より、彼女の隣にいる黒髪の戦士に見覚えがあった。
「ノクスさん、ポーラさん!」
「よお」
 軽く手を上げて答えるノクスは、以前に比べ少し表情が柔らかいように思える。
 やっぱり、心配事がなくなったからかな。
「お久しぶりです。その節はどうも」
 軽く会釈してくるポーラは少しはにかんでいる。
 ……やっぱり可愛い。いいなー。
 前のように直接口に出さないものの、疑問の声はどうしても出た。
「え、どうして?」
 当然のように問われた言葉に、ポーラは何故かノクスと視線を合わせ、困ったように答えた。
「護衛……みたいなもの、かしら」
 一瞬どういう意味か分からなかったが、ラティオから言われていた金額はかなりのものだった。おまけにこっちの都合で内容が変わったからと結構な額を上乗せしてくれていた。
「ああ。そうですね、運ぶのに物騒ですもんね」
 ぽんと手を打ち納得するセティに、返るのは何故かほっとしたような笑顔。
「あ。わたしにお客ってノクスさんたちのことですか?」
 気さくに問うたセティに対し、今度はノクスが返事をした。
「いや、あっち」
 手で示された先は隣のテーブル。
 席についているのは戦士風の男性が二人と術士風の女性。
 皆クリオと同じか少し上くらいの年に見えた。
 視線の合った男性――黒髪に褐色の目をした彼が席を立ち、問いかけてきた。
「君がセレスタイト?」
「え、はい。そうですけど」
 声は柔らかく、なんというか……どこか甘い。顔立ちもはっきりしていて、もてるんだろうなぁという印象を受ける。
「あなたは?」
 セティの問いかけに彼はにこやかに笑った。
「はじめまして。私はダイクロアイト。ヘオスの勇者とも呼ばれている」
「へ」
 素っ頓狂な声が出たのはセティだけではなかった。
 彼の額には確かに勇者を意味する青玉のサークレット。
 疑えるはずも、ない。
 思わず大声で叫んでしまって、客達から冷たい視線を貰うことになるのはこの少し後の話である。