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ソラの在り処-蒼天-

【第七話 遭遇】 4.人のいない町

 色々と問題を抱えつつも、セティ一行はフリストに向けて旅を続けていた。
 魔物は相変わらずの出現率で、周辺の人のためにと出会った相手はことごとく倒してきた。
「あーもーっ
 魔物なんて百害あって一利なしなんだから、早くどうにか出来れば良いのにっ」
 セティがそう怒鳴ってしまったのも仕方ない。
 一日のうち大半が魔物を追い、追われているのだから。
「一利なし……ね」
 意味ありそうに呟くのは、魔物を徹底的に否定しているソール教の上級司祭様。
 ……この人、本当に司祭なんだろうか?
「なし、とは言えないよねぇ」
 困ったように頬をかくリカルドの姿に、セティは首を傾げる。
「だって、魔物だよ? 被害の話は聞いても、いい話なんて聞いてないよ?」
「一部の魔物は薬になったりするから……一利なしとは言い切れないわね」
「くすりぃ?!」
 ぎょっとして声を上げる。
「食べる……っていうか、飲むの?」
 心底いやそうに問うてくるセティにリカルドが笑って返す。
「まぁねー。でも、高いんだよそういう薬」
「……高いの?」
「いつも取れるものじゃないしね」
「それはそうと」
 微笑ましいやりとりを眺めながら、クリオが口を開いた。
「もうすぐ町に着くのよね?」
「この丘を越えたところだな」
 答えたのはラティオで、手元の地図を眺めていた。
 こちらの視線に気づかれた途端に収められてしまったが。
 いいなーあれ。
 セティは地図の収められた袋を見つつ思う。
 前にちょっとだけティアのを見せてもらったけれど、本当に詳細だった。
 あんな地図だったら旅するのも楽だろうに。
 ブラウもまた、地図が収められたのを見て視線をそらした。
 なんであんな詳細な地図があるんだ?
 普通、どこの国も国内の事知られたら困るからって詳細な地図は作ってないはずなのに。あいつら、やっぱり得体しれねぇ。

 道なりに丘を登り、眼下に広がる景色を見て、セティは息を飲んだ。
 踏み固められた道のたどり着く先に、これから向かおうとしていた町があった。
 町を囲む壁が半ば壊れ、よく見れば家々も所々形がおかしい。
「え」
 思わず声が漏れて立ち止まったセティ。
「どういうこと?」
 だって、町はあるって地図に書いてあるのに?
「何をしている」
 立ち止まったままのセティにラティオの声がかかる。
「進むぞ」
「だ、だって、あれ」
「襲撃があったんだろう。
 ……煙も出ていないところを見ると、少なくとも数日は経ってるようだがな」
 淡々とした言葉に何も言えない。
 視線を頼りになる仲間に向けると、クリオもリカルドも首を振った。
「行くぞ」
 告げるだけで振り返りもしないラティオ。
 彼の後を、セティは何とか足を動かしてついていく。
 怪我をして動けない人がいるかもしれない。
 だから……だから、早く行かないと。
 心に何かが滞ったのは分かっていたけれど、無視することにした。今は。
 生存者を助けないといけないから。

 近づけば近づくほどに、焦げたにおいが強くなっていく。
 破壊された外壁や家々と炭化した柱。
 どこからか転がってきた木桶が乾いた音を立てる。
 一際破壊が酷かったのはどこの町にでもある小さな教会で、瓦礫の中から屋根飾り用の大きな聖印だけが顔を覗かせていた。
「酷い……」
 地面は黒く焼け焦げている。
 どれだけの火なら、こんな痕が出来るというんだろう?
「だれかいませんかー?」
 声を張り上げてみるも変えるのは沈黙ばかり。
「もう、他の町に逃げた後かもね」
 嫌な方には考えたくなくて、リカルドがわざとらしく明るく言う。
「だがどうする? 今日はここで一泊予定だったんだろう」
 ラティオの言葉で、口々にうめき声が漏れる。
 元々旅程は余裕を持って動くようにしているが、次の街を目指しても構わないとはいえない。日暮れ前にたどり着かなければ、よほど大きな街でない限りは街門が閉ざされてしまう。
 逆に、辺鄙な農村なら見張りが立っている位なので、訳を話せば入れてくれる場合もあるのだが。ここらあたりの町だと、まず間違いなく入れない。街門の外で野宿ということになる。
 太陽は中天を少し過ぎたあたりだが、次の街に辿り着く前に姿を消してしまうだろう。
「もう少し進んで野宿によさそうなところを見つけるか、ここで一夜を明かすか。
 どうするんだ?」
 人事のように告げるラティオ。
 普通は依頼人の方がこんなところで野宿するのかとか文句をつけることが多いのだが、彼は比較的セティに決断を委ねている。
「じゃあ……今日はここで休もう」
「え、良いのセティ?!」
「うん。もしかしたら、まだ残っている人がいるかもしれないし」
 なんでもないことのように話すセティに、リカルドは感心を通り越して呆れた。
 いかにも何かありましたといわんばかりのこんな場所で夜を明かすのは、大の男でも嫌がるものだというのに。
「セティが決めたのならいいけれど……
 あとでやっぱり怖いから嫌とか言わないでよ?」
「言わないよそんなこと。大体何で怖いのさ」
 心配そうに、でも茶化すクリオに本気で分からないといった様子のセティが返す。幽霊とかは平気なタイプなのかなーとリカルドは思いつつ、ぐるりと辺りを見回した。
 教会は完全に瓦礫になっているのでバツ。とりあえず外観が無事な家を片っ端から覗いていくしかないかなーと考え、肩を回す。
 ベッドが無事ならいいし、無理そうなら毛布とかを借りればいいか。
 それからちらりと瓦礫の山を見る。
 石の隙間からちらちらと光を弾いているのは、貴金属。
「呪われるかもしれませんよ」
 ちょろまかしちゃおうかなーと考えていたところに囁かれてずざっと音を立てて離れる。
 案の定、無表情のままのリゲルが見ていた。
「や、やだなぁ。しないよ、いくらなんでも」
「だと良いのですが。
 貴方が被害にあうのは自業自得ですが、巻き込まれたくはありませんから」
 すっぱりと言い切られてリカルドは軽く肩を落とす。
 どうやら未だに疑われているらしい。
 出会いが出会いだったから仕方ないのだろうけれど。

 それから町を探索し、運良く無事に残っていた宿の一階で休むことにした。
 本来ならベッドでゆっくり休みたいところだが、この状況で個々に分かれるのは危ない。故に集めてきた毛布に包まって雑魚寝をすることになった。
 くちくなったことで襲ってくる眠気に抗うことなく、セティは毛布に包まって横になる。
 あえて言うなら、寝床が固いのが不満かな。それでも野宿に比べれば雨風を遮ることが出来るし、竈が使えたのは嬉しい。
 とろとろとまどろみながら、どうしてこの町はこんな風になってしまったんだろうと考える。
 やっぱり、魔物のせいなのかな? 一番壊されていたのが教会だし、もしかしたら『魔王』の命令なのかもしれない。
 だとしたら――やっぱり許せない。
 父さんもお兄ちゃんも『魔王』を倒しに行って……帰ってこなかった。
 だから、許さない。
 しっかりと考えることが出来たのはそこまでで、セティはすぐに夢の中へと落ちていった。