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ソラの在り処-蒼天-

【第二話 邂逅】 5.最初の依頼

 セティたちがまた与えられた部屋に戻ったのは夕食後、西の空に月が姿を現す頃だった。
「結構辛いの多かったねぇ。出来立てだから美味しかったけど」
「そうね。でも私はそこまで辛いとは思わなかったけど?」
「えー、辛かったよ? ブラウは?」
「俺も別に。むしろ味がついてて旨かった」
 仲間の感想をよそに、セティは一人、面白くなさそうに勢い良くベッドに腰掛ける。
「どうしたのセティ?」
「確かに料理は美味しかったけどさ。
 香辛料いっぱい使ってるなんて贅沢だなって思っただけ」
 どこかすねたような物言いに、苦笑をこぼしてクリオは隣に座る。
「一概に、贅沢とは言えないわね」
「なんで?」
「その土地土地で取れるものは違うでしょう?
 このあたりは香辛料が多く取れる場所だし、それなら安くてもおかしくないわ」
「そっか。いっぱい取れてたら安くなるよね」
 納得したように手を打つセティに微笑むクリオ。
 しかし、真顔に戻って未だ立ったままの仲間を見つめた。
「ここからは少しまじめな話にしましょうか」
「そうだねー。
 じゃ、まずは僕から報告。街での収穫は特になし。
 神殿内では『バァル司祭』が異例の出世をしたってことくらいかな」
「そうね。私はニコルス司祭に話を聞いてみたんだけれど、バァル司祭は急にやってきて法王の側近になったって言われてたわ」
 二人の会話を、ブラウは感心したように、セティはぽかんと聞いていた。
「調べてたんだ……いってくれれば手伝ったのに」
「うーんセティってこういうことに向いてないかなー。
 すぐ顔に出るから、腹芸とか苦手そうだし」
「う」
 同じことをブラウが言ったなら癇に障るだろうが、相手はリカルド。
 心当たりも無いわけではないので、セティもうなり声を出すことしか出来ない。
「で、でもさ。なんでクリオもリカルドも、そんなに司祭様のこと調べるの?」
 司祭様はソール教会での偉い人だ。
 ソール神は、太陽と正義の神……と言われている。
 なのに、司祭様を疑うのって、とても失礼なことではないだろうか?
 言葉にはしなかったが、セティの言いたいことが分かったのだろう。
 保護者二名は大きく息をついた。
「うん、まあ、そう言われてるんだけどねぇ」
「司祭様にも色々いるということでね。
 これは……あくまで本当に私の勘でしかないんだけど、少し嫌な予感がしたものだから」
「ふぅん?」
 そこから先、彼らの話題は町の様子や神殿の様子に移り、頃合を見計らってそれぞれの部屋に戻っていった。

 翌朝、セティは再び法王の元へ呼ばれた。
 彼女一人だけである。
 今回の儀式において『勇者』以外のものを立ち入ることは禁ずる。
 リカルドやクリオは口に出さなかったが、ブラウは小声で文句を言っていた。
 どんな儀式なんだろうと、正直緊張していたセティだったが、実際はあっけなかった。
 長々と聖句かなにかを朗読されて、それに彼女が返事をするという簡単なもの。
 これでどうして他人がいては駄目なのだろうというほどに、つまらない儀式。
 儀式なんて、そういうものかもしれないけれど。
「それでは、頼みましたよ。『勇者』セレスタイト」
 昨日の繰り返しであるかのように、儀式はすべてバァル司祭が取り仕切った。
 ――寝台に伏せる法王の前で。
 ふと気になって、セティは口を開く。
「法王様のご病気は大丈夫なんですか?」
「これはお優しい。猊下の病は治癒が難しいものでして……」
 何かを思いついた。そんな表情でバァルがセティを見つめる。
「そうですね。少々お願いが」
「なんですか? 私に出来ることならお手伝いします」
 勇者なら困ってる人を見過ごせないとばかりに聞いてくるセティに、バァルは芝居がかった口調で答える。
「猊下のご病気は、簡単に言えば石化です。
 しかし、それを解呪する術を私たちは存じません」
「諦めたら駄目ですよ。どこかにはあるかも知れませんから」
「ええ、そうですね。しかし、教会の智とも言うべき魔法書が、昨夜何者かに盗まれてしまったのです」
「分かりました。その本を探せばいいんですね」
「いいえ、違います」
 先走るセティに、笑顔のまま言い切って、バァルは少しだけ声を潜める。
「私は魔法書の内容をすべて覚えておりますので、問題ありません。
 猊下のご容態は、一刻を争うものではありませんが、あまり悠長に構えていることも出来ません。
 そこで、病気の進行を抑えるものを探していただきたいのです」
「そんなものがあるのですか? それは、どこに?」
「ここより南にあるヘオス国ヴァンの村に、不思議な力を持つ『石』があるといわれています」
「石、ですか? それはどんな?」
「見れば分かりますよ。そう貴女ならね、『勇者』セレスタイト」
 意味深なことばにセティは訳が分からないといった顔をする。
 探し物をするにしても、どんなものかを知らなければ探すことはできないのに。
「それでは、よろしくお願いしますよ。『勇者』様」
 見送りの言葉を受けて、納得いかないながらもセティは部屋を後にする。
 小さな金具の音と共に扉は完全に閉じられた。

「悪くない……悪くない配役だ」
 隠し切れぬ喜悦の声に、床に伏した老人は目を動かす。
 セティは気づいていたのだろうか。
 バァルの瞳がひどく冷たいということに。そして――
 法王のほかにもう一人、この部屋に潜んでいるものがいたことに。
 例え気づいていたとしても、潜んでいる人物が彼女に因縁浅からぬ者である事は、分かるはずが無いのだが。
「どういう因果かそれとも宿命か……あなた様は惜しむことなく与えてくださる」
 バァルの賞賛に『彼』は黙したまま応えない。
「計画は順調。……この機に現れてくれた『祝福』も頂くとしましょうか」
 こちらを挑発したのは向こう。ならば、受けてたとうではないか。
 ソール教が最も尊ぶ色を持つ司祭は、闇の中でこそより輝くように見えた。