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スコラ マグス

プロローグ~Jun Itokawa

 進路調査書。
 そう書かれた一枚の紙を前に、少年――糸川隼はじっと考え込んでいた。
 どこの高校を選ぶか、それは結構重要なことである。
 もう転校はしたくない。親の都合の引越しで小・中学校と何回転校したことか。
  一から友達を作り授業に追いつき、馴染んだところで引越し……もう繰り返したくない。
 高校を変わりたくないから一人暮らしをしたいと両親に訴えたところ、どうにか了承された。いくつかの条件を満たすなら、との言葉つきで。
 学費がそこまで高くない、寮つきの学校であること。
 一人暮らしはしたいけれど、いきなり一人と言うのは多少心細かったため、寮住まいというのは心惹かれた。
 二つを条件を元に学校を絞ったところ、候補にあがったのは三つ。
 とはいえ。
「男子校ってのはなぁ」
 女の子のいない学校生活というのは少し空しい気がする。
「こっちは進学校過ぎるし」
 自分の学力でついていけ……ないよなぁ。
「学費は安いけど、制服代だとかが高すぎ」
 そんな凝った制服に興味ねーし。
「どうすっかなー」
 今の学校には一応四ヶ月はいる……が、取り立てて仲のいい子もいなければ得意なスポーツもない。絶対にこの学校に行きたい、というのがないからこそ返って困る。
「なら、ここはどうだ?」
 突然かかった声に、慌てて背筋を伸ばす。
 放課後の教室なんて誰もいないと思っていたのに!
 いつの間にか近寄っていたのは温和そうな初老の教師。
「か、川口先生」
 進路担当の先生は持っていたパンフレットを、見やすいように机に並べてくれた。
「スコラ・マグス。来年新設の学校だから、華々しい一期生になれるぞ」
「はぁ」
 言われて資料を手に取る。
 男女共学、寮つき。うっわ俺の希望通り。
「でもここ……外国じゃないですか」
「条件はあってるだろう? 生徒の国籍も問わないし」
 いや確かにそう書いてあるけどさ。
 さらさらと流し読みしていけば、一際大きな文字に目を取られた。
「魔法使い養成のための教育を行う……?」
「そうだ。糸川は前に言っていただろう、魔法使いになりたかったと」
「先生!」
 あんなちょっとした会話を覚えてくれていたなんて!!
「魔法使い養成と謳っているが、正確なところは魔法医や魔法犯罪捜査団の卵の育成が目的らしい。就職にも有利になるだろう」
 どうすると問う教師に一も二もなく頷いた。

 魔法使いになりたかった。
 でも、どうやってなったらいいのか、どうやったらなれるのか分からなかった。
 チャンスを貰ったんだ。絶対に魔法使いになってやる。

一人目の桜月出身者。なれたらいいなの軽い気持ちで入学。

プロローグ~Haruka Uchiura

 あかりちゃんはまだ希望校を決めていないらしい。
 もしかしたら、一緒の高校に行けるかなと思ったけれど、多分無理。
 なにせ、わたしは。
 じっと見つめるのは数日前に手に入れたパンフレット。
 スコラ・マギクス。魔法使いを養成するための高校。
 外国にある学校だけど、寮完備で国籍を問わないし授業料もめっちゃ高いというわけでもない。それに、就職先に関しても苦労しなさそうだし。
 魔法使いになってみたい、なりたい……というのは、小さな頃に思ったこと。
 実際、わたしは少しだけ魔法が使える。
 もっともっと使えるようになりたい気持ちは強い。
 お父さんもお母さんも……家族全員、魔法を使えるからっていうのもある。
 専門の学校に行くのが一番いいだろうっていうのも分かるし、お父さんたちはこの学校に進むことを応援してくれたし――外国っていうのが不安だったみたいだけど、寮生活だからいいらしい――問題はない。

 あかりちゃんと同じ学校に行けたらなー。
 そう思うけど、ちらと頭をよぎったのは別の相手。
 幼馴染……なんだけど、小学校に上がる前に引越ししていったから、きっと今会っても分からないんだろうな。

自身の希望の二人目。どんな学校だろうと希望を抱く。

プロローグ~Akari Ohsumi

「あかりちゃんはもう決めた?」
 友人の問いかけに、あかりと呼ばれた少女は首を振る。
「ううん。絶対に行きたいってとこはないんだよねー」
「そっかー。陸上続けるんだったら、日出高校行くのかなって思ってたけど」
「あはは。走るのは好きだけど、大会は嫌いなんだよねー」
 笑って誤魔化す。
 さっき言った言葉は本当。でも、日出高校は第一希望だった。
 でも……脳裏に甦るのは、昨日告げられた言葉。
 昨年から行われるようになった試験であたしは引っかかったという。
 力の使い方をしっかりと身につけなければいけないから、来年新設される魔法使いを育成するための学校に行ってはどうかと薦められた。
 正直、就職先候補のすごさには驚かされたし……何より楽しそうだから。
「そういえば、はるちゃんはどこに行くの?」
「え、わたし?」
 問われた遥は瞬きした後、うーんと唸る。
「まだ、ちょっと迷ってるんだよね」
「そうだよねー。でも、決めなきゃいけないんだよねー」
「あかりちゃんと同じ高校いけたらなーとは思うんだけど」
「そうなったら楽しいねー」

 魔法なんて、今まで関わったこともなかった。
 外国で暮らすっていうこともあるし、少し楽しみ。
 もし……もしもはるちゃんが一緒なら、楽しくなるのかな。

強制だけどそこまで嫌じゃない三人目。不安はあるけど楽しみも。

プロローグ~Daichi Ohsaki

 中学生活も残り一年を切った頃、担任に呼び出された。
 進路調査書を取り出し、シャーペンを取り出し……また、何も書けない。
 行きたい高校は実は決まっていた。
 下手なりに、でも大好きな野球を続けたかったから、そこそこの実力のある……それでいて家から近い学校。
 なのに……

 ――中二の三学期に、魔力の測定があっただろう。
 ――対象者は、専門の学校にしか行けないんだ。

 ため息は尽きることがない。
 外国にある寮完備の学校……そう聞いて、興味もわかないこともないけれど。
 野球……やりたかったな。
 外国って、野球はメジャーなのかマイナーなのかよく分からないし。
 気持ちを切り替えた方がいいのは分かっている。
 それに、推薦合格が決まったっていうことは、これから受験勉強に苦しむこともないってことでもあるし。
 カリカリとシャーペンを動かし文字を記す。
 『スコラ・マグス』と。

 嫌な事ばっかり考えるより、楽しみにしていた方がいいことがあるだろうから。

強制の四人目。前を向かなきゃと思いつつも、開き直ることは出来なくて。