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その頃の彼ら

 今日も今日とてPAの面々は説教漬けの毎日を送っている。
 入団してから三つ目の季節だというのに進歩の無い……
 そう思われているのだろう。周りからは。
 結論からいえば、チーム・アルブムはけして無能集団ではない。
 彼らを担当する槐は思っている。
 知識を貪欲に吸収、いとも簡単に応用する少女といい、光属性の魔導士といい、将来の有望株が二人もいる。
 ましてチームを率いるのがあの『若君』なのだ。
 傍若無人な精霊術士も彼の命ならば比較的素直にきく。
 後二、三年もすれば堂々と『凶悪犯(コントラーリウス)の逮捕』というPA本来の業務につくことが出来るだろう。
 だからもうしばらく彼らは雑用をしてもらって、表舞台には出ないように仕向ける……はずだった。

 喉を叱咤して何とか声を絞り出す。
「今、なんとおっしゃられました?」
 とりあえずそう聞き返すのが精一杯だった。
 団長室に呼び出されてのことである。
 槐のほかには、梅桃と楸、カクタスといったアルブムの面々が揃っているが。
「さっきも言ったとおりだ」
 沈痛な表情で副団長が言う。
 そう、副団長が。
 本来の部屋の主である団長はというと、部屋の片隅に置かれたソファに横になり、時折うめき声をあげている。
 そして、先ほど副団長が告げた内容は……まさしく団長が倒れてもおかしくないような内容だった。
「じゃあ……本当なんですか?」
 呆然とした梅桃などそうは見られるものではない。
 副団長は長い長いため息をつき、ひげを撫でる事で自身を落ち着けてからもう一度説明をした。
「シオン・ロータスが突然白い光に包まれて消えた」
 彼らは今度こそ悲鳴を上げた。

 それはもういつもの光景になっていた。
 団長直々にアルブムに対して説教しても意味が無い事をようやく悟った上層部は、説教をする相手をシオン一人に定めた。
 元々チームリーダーではあるし、責任を負うのは当然のこと。
 何よりあの癖の強い面々を扱うのに慣れているということもある。
 そうしてほぼ日課のように団長から叱責を受けていたところ、いきなり彼を中心に見たことの無い魔法陣が描かれ、部屋いっぱいに白い光が広がり、それが消えたと同時に彼の姿も消えていた。

 それが副団長の説明だった。
「マジですかっ 団長の狂言じゃ?!」
「それを打ってどうする!!」
 カクタスの訴えに副団長は怒鳴り返し、乾いた声でいう。
「私も人づてに聞いたのならそう一蹴したいが……この目で見てしまったからなぁ」
 槐も梅桃も言葉が無い。
 シオンが。あのシオンが行方不明!
 ふらぁっと楸が寝かされている団長に近寄り、いきなり胸倉つかんでがくがく揺さぶし始めた。
「だんちょおおおっ 何してたんですかあああっ
 しーちゃんに何かあったらどーしてくれるんですっ!!」
「た、橘?」
「橘くん?!」
「心配するのは分かるが、老人に向かってなにをするっ」
 男三人の手で団長から引き離されてもなお暴れ続ける楸。
「う……」
「大丈夫ですか団長?」
 真っ青な顔のまま椅子にもたれる団長(それでも目が覚めなかったのはある意味立派)を目の当たりにしても楸の抗議は止まらない。
「これじゃ何のためにあたしがいるかわかんないじゃないっっ
 だからしーちゃんには実家でおとなしくしてて欲しかったのにーっ
 ああああああっ おねーちゃんにもおばーちゃんにも怒られるうううっ」
 おばーちゃんにも。その言葉で副団長と槐が固まる。
 あの女傑に「お宅のお孫さんが行方不明になりました~」などと言おうものなら……
 自分達にとって安全な場所は無くなる!
 ましてお世話になった先輩の孫でもあるというのに!
 それに……彼を可愛がっている曾祖母も黙ってはいないだろう。
 次々に嫌な心当たりが思い浮かんでくる。
 どうか夢であってくれないものか。いっそ気絶してしまいたい……団長が羨ましい。
 『シオンたちのおばあちゃん』に多少耐性があり、固まる事の無かった梅桃が仕方なく説得役に回る。
「落ち着いて楸」
「落ち着けないよっ せっかくせーっかく無茶通したのが意味なくなるじゃないーっ
 うあーんっ しーちゃん怪我しないでね~っ」
「橘が別人だ……」
「というか、こっちも素なのよ」
 呆然としていうカクタスに梅桃はさらりと言う。
「シオンの実家ってすっごい旧家でね。分家の人間はとかく本家を敬うの。
 楸はシオンの護衛も兼ねてるみたいだし……おばあさんが怖いのも事実だけど」
「へぇ……」
 男二人に両側から抑えられつつも大暴れする楸は、確かにシオンを心配しているようにも見えるが。
 その楸の正面に立って、言い含めるように梅桃は言う。
「状況聞いてると、それって椿さんの召喚魔法じゃない?」
「あ」
 確かに言われてみれば、シオンがいなくなった状況は姉だけが使える召喚術によく似ている。
 召喚魔法というものは普通は『どこか別の世界にいるもの』を召喚するものだが、あの人は『この世界にいる人』を召喚するという妙な術が使える。呼び出される側の意思に関係なく、血が繋がってさえいれば呼び出すことが出来るというとことん迷惑なもの。
 梅桃としては、いなくなったって言っても行き先に身内がいるんなら大丈夫じゃないかといいたいのだろう。
 が。
「おねーちゃんが呼ぶっていったら大事が起こってるって事でしょっ
 全っ然安心できないよ~っっ」
 姉だって一般常識が無い訳じゃない。よっぽど切羽詰ってなければこんなはた迷惑な術をいきなり使いはしない。
「そうともいうけどね」
 失敗だったか~といった顔の梅桃を省みず、楸はぐりんと右に……副団長のほうへと顔を向ける。
「副団長! 姫いますかっ いますよねっ 今すぐ連絡とって下さいっ
 あたしをしーちゃんとこへ送ってくれるように頼んでくださいっ」
「は? 賢者様にか?! いやしかし」
 いきなり話を振られた副団長は狼狽する。
 確かに彼女の言う姫……(しろがね)の賢者ならばその術を知っているだろうが、本来は入団一年目の彼らがひょいひょい会っていい人物ではない。
 しかし楸は据わったままの目で言い募る。
「どーもこーもありませんっ しーちゃんに何かあったらどーするんですっ!
 うちを敵に回して商売勤まるんですかっ」
「そ……それは脅しかっ?!」
 一気に血の気が引く。
 冗談でもなんでもなく彼らの一族にそっぽ向かれたらそれだけで商売が成り立たなくなる可能性がある。いくらなんでも一族全員が敵に回ることは無かろうが、本家に近い人間だけにでもいなくなられたら……
「脅しでもなんでもしますともっ」
 高らかに宣言して、副団長にとって不気味な笑顔を浮かべる。
 そう……まるで彼女の祖母を思い起こさせるようなその微笑み。
「大事な大事な私の主(メア・ドミヌス)に何かあったらどーしてくれましょうかっ
 あーあ。あたしが『剣』だったらなぁ。やっぱり『剣』になればよかったなぁ」
 その呟きがすごく怖い。
「わ……わかった!
 アルブムに命ず! 一刻も早くシオン・ロータスを発見し、無事保護せよ!」
「謹んで拝命します! ゆすらちゃん、かーくん行くよっ」
「了解」
「……はーい」
 廊下を走る楸の背を見てカクタスは思う。
 ……行方不明になって仲間に探されるリーダーってどうよ?
「今すぐ行くからねしーちゃーんっ」
 楸の声が廊下に響いた。

 おしまい

ナビガトリア第八話の3~4の間のPAの様子です。
番外編として「ナビガトリア」に組み込もうかなぁとも思ったのですが、「肝心のナビガトリアに出てないよこいつら」ということに気づき、PAの方に収録。
ここでも楸の言動と、ナビガトリアでの言動とを見比べれば面白いかも……と言った感じです。