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PA

見習の勤め

 PAとは魔法使いなら誰でも一度は憧れる職業である。

 数多の知識を持ち数々の魔法を操る優れた魔法使いとして。
 強大な魔法を操り人々に災い為す凶悪犯を取り締る法の番人として。
 そしてあるいは――数々の特権をもつものとして。

 強大な力を持つ魔法使いに対抗する事は難しい。
 それ故に各国が利害を捨ててまで与えたPAの特権。
 実際はそのすべてを使えることなど少ないのだが、そんな事を知らない一般市民の皆様からは羨望の的。
 それを羨み半分やっかみ半分いろいろ言われたりはする。
 カラスの集団のように年がら年中真っ黒な服着て陰気くさいだの、PAを見ると縁起悪いだの。

 一般の皆様の想像と合っているのかどうか。
 実際のPAはというと超過酷な労働時間だったり、任務によっては命の危険に常にさらされたりだとか、その割には給料少なかったりと散々なのではあるが……

 ともあれ、凶悪犯を追うが故に一定以上の技能を持つものではないと入団の許可は下りない。
 その常識を覆してしまった少年がいる。
 彼の名はカクタス=バードック。十五歳にしてPA入りした少年。
 ここまでは『アルブム』と呼ばれるチームの他メンバーと同じである。
 が、彼には他の三人と大きな違いがあった。
 見習い魔導士。しかも入団当時には杖さえ持っていないという状況。
 他のメンバーが、一応四級取得者。(梅桃)
 数少ない(能力的には)優れた精霊術士。(楸)
 最年少の三級取得者にして『水の支配者』(シオン)である。これで浮かないほうがおかしい。
 本人の『天才(シオンのこと)の弟子は天才!』という苦しい言い訳にもならない言葉は黙殺され、一刻も早く昇級すべく言い渡されている……のだが。

「ろくな番組してないな~」
 自室においてあるテレビのチャンネルを変えながらカクタスはポツリと呟いた。
 テーブルに上には広げられた問題集とノート。
 宿題が煮詰まってしまったためにテレビでも見て気分転換を、と考えたのだが。
「ワイドショーばっかでつまらん……」
 この国の芸能人のことはまだ良く知らないし。
 故郷であるパラミシアなら喜んで飛びつくような芸能ニュースも、その主役のことが分からなければ面白くも何ともない。
「あ~あ」
 あきらめて宿題へと目を転じると、予告も無しにドアが開いた。
 扉を開けたのはカクタスも良く知る……クラスメートでもあり魔法の師でもある少年。
「シオン? どしたのさ?」
 問いかけに答えぬまま後ろ手でシオンは扉を閉める。
 その張り付いたような笑顔とひくつくこめかみと、何より肩で震える彼の使い魔とが不安を増長させる。
「オレ……なんかしたっけ?」
 あえてのほほんと聞いてみると低い声で返された。
「今、何時だ?」
「十一時だな」
 部屋の時計はその時間を示している。
 針は遅れてもいないし進めてもいないから正確に近い時間のはず。
「そういやそろそろ腹減ったな~。食事のお誘いとか?」
 笑い飛ばされるか、呆れてくれる事を祈りつつ問い掛けると、一瞬にしてシオンの使い魔が縮こまる。
 ……もしかして、地雷踏んじゃった?
 もしかしなくてもそうっすよ……
 シオンの使い魔、瑠璃との一瞬のアイコンタクト。
「かーくーたーすー」
 地から響くかのようなシオンの声。
「なっ 何でございましょう?」
「今日は~何日だ~」
「今日は……」
 おどおどびくびくしているせいで何日だったか思い出せない。
 部屋のカレンダーに目をやると今日の日付には赤丸されてこう書いてあった。
 『講義の日。重要な内容をやるので必ず受ける事』。
「あ……」
 六級の試験には筆記と実技の二つがある。
 だがその試験を受けるためには必要最低限受けなければならない講義がある。
 PAにいる見習はカクタス一人。その一人のためにわざわざ時間を割くわけにはいかない為、一番近いアカデミーである『知者の塔』に無理を言って講義を受けされてもらうようにしていたのだが。
「さっき、ジニアおじさんから、連絡が来て、まだこないって、いうから、探してみれば」
 一言一句いい含めるように途切れ途切れに言うシオン。
 彼がこういう物言いをするときは本気で怒っている証拠。
 そしてこんな状態に陥っているという事は。
「ちょっ ちょっとまった!!」
 脳裏に半分氷付けになった在りし日の本部が思い浮かぶ。
「忘れてたわけじゃないんだって!!」
 このままじゃあ間違いなく氷付けにされる!!
「ただ……ちょっと……」
 何か良い言い訳は無いものか。
 うんうんうなって考えるもいいアイデアが思い浮かばない。
「最初っから覚えて無かっただけで?」
「そうそう!」
 だからこそ、窓からの乱入者の言葉に一も二も無く頷いてしまって。
「ほーう?」
 シオンの絶対零度の声が静かに耳に届いた。

「でもかーくんって覚え悪いよねぇ」
 怒りを必死に静めて「とにかく今からでも講義を受けて来い!」と弟子を追い出したシオンに向かって問い掛けるのは、迷惑と混乱とを撒き散らす、才能だけは立派な精霊術士。
「人のこという前にまずそこからどけ。中に入れ」
 疲れた様子でシオンは言う。実際かなり疲れているのだろうけれど。
 言われた楸はきょとんとする。
 外に生えている木に登り、カクタスの部屋の窓枠に頬杖ついたまま言葉をつむぐ。
「家主の許可なしに入るのってまずいかなーって思って」
「……そういう常識だけはあるのか……」
「そいや、しーちゃんはいかなくっていいの?
 おししょーさまだから見てなくちゃいけないんじゃないの?」
 楸の言葉にため息ひとつ。
「今から行くんだよ。講義の様子とか聞きに」
「じゃああたしもいくー! たのしそーだし」
 のんきな楸の言葉に注意を促しかけ、止めた。
 居残りになる梅桃の……アルブムに言い渡された書類整理の仕事を手伝えといったところで素直に聞くような相手じゃないし、いないほうが進みも早いだろう。
「いくんならさっさと準備しろよ」
「はーい!」

 アカデミーで、ジニアの「お茶にしよう」攻撃をかわしつつたどり着いた休憩室でがっくりとしたカクタスを見つけたのは一時を回った頃だった。
「何してんだよ……」
「きゅうけい……三十分まで……そしたらまた授業……」
 よほど疲れ果ててるらしい。途切れ途切れにこたえるカクタス。
「いっつもまともに修行してないから普通にすると疲れるんだよー」
 楸の茶々にあんたにいわれたくないと内心突っ込みつつ答える。
「スパルタなんだよ……火の魔法ってコントロールむずい~」
「そりゃな」
 カクタスの言うように、火の魔法は威力をコントロールするのが難しい。
 火といえば『烈火』とか『業火』とか猛々しいイメージが強いように、威力を大きく強くするのはそこまで難しい事ではない。
 が、逆に『弱め』にするのはひどく難しい。
 威力が強いならいいじゃないかと思う無かれ。
 PAが戦う場所は人気の無い場所とは限らない。むしろ街中とか、人目につかなくとも森の中とか……可燃性のものが多い場所、もしくは閉鎖的な場所であることが多々ある。
 そんなところで火の術を使って、周りに大きな被害をもたらしたり自分まで焼けました、じゃ話にならない。
「シオンはそんな事教えてくれなかったしさ~」
「無茶言うなよ」
 恨みがましく言うカクタスにシオンも困った様子で言い返す。
「大体俺は水属性で、火の魔法は使えないんだからさ。
 そういうのが一番分かってるのはやっぱり火属性の人なんだし。
 誰か別の人に頼んで教えてもらったほうが良いんじゃないか?」
「いやそれはオレも考えなかったわけじゃないけど」
 これはよく言われることなのだが、属性というものは性格にも影響を表す。
 例えば、風属性の人間はふらふらしやすい(実例・三年間音信不通続行中のシオンの姉)とか。
 水属性は冷静だ、とか。
 蛇足としてそういうのに関連して属性間の相性占いなんかもある。
 ともあれ、一般的にいわれるのは火属性は『短気』だということ。
 他へと習いに言ったカクタスは、大抵そこであまりの飲み込みの遅さに怒鳴られて追い出される、といったパターンを繰り返している。
 対してシオンは怒鳴り、呆れられはするものの、分かるまで丁寧に教えてくれる。
 どちらに教わるほうがいいか、と聞かれればやはり。
「シオンが一番分かり安い」
「……おまえもっと勉強しろよ……」
 休憩の終わりを告げるチャイムの音が鳴る。
 わざとらしく大きなため息をついてカクタスは立ち上がる。
 彼が六級に上がる日は……まだ遠い。

 おしまい

頑張ってるものの頑張り切れてないカクタスのお話。彼が一番主役向きの立場で性格かも。
周りはみんなそう見えなくてもすごい人。その中に一人だけ普通に近いそんな少年。
自分では頑張っているけれど周りからはそう思われない。
いつかみんなを見返せるくらいに成長して欲しいものです。