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魔力付与士のおしごと【後編】

 家の中が慌しい。
 あちこちから声が飛ぶ。
 警官の数が一気に増えた。指紋を取ったり現場検証したり。
 刑事ドラマみたい……とか目を輝かせているのは一人だけで、シオンはというと携帯電話片手にへこへこへこへこしている。
 本当なら簡単な荷物運びの仕事だっただけに始末が悪い。
 時折団長のものと思しき声が電話の向こうからもれ聞こえる。
「はい……謹んで拝命します」
 重い声でそう言って携帯を閉じて大きくため息。
「やっぱり仕事っすか?」
「当ー然だっ」
 反対の肩に止まっている使い魔に不機嫌な声で返す。
「魔封石の受け取り、および本部への運搬が元々の仕事なんだからな。
 それに回収と犯人逮捕がプラスされたってことだ」
 シオンの言葉にアコガレの眼差しで警官たちを見ていたカクタスが不思議そうな声を出す。
「でもさ。ケーサツも優秀なんだから大丈夫なんじゃ」
「……それPA(うち)の立場台無しだろうが。
 梅桃が今指令書もってこっちに来るから、それまではここで待機だな」
 膨れた顔で呟くと警官の声が響く。
「複数名の指紋が検出されました!」
「…………打てる手は打っておくか……」
 その言葉にため息ついてシオンは携帯を手にとった。

 わくわくとした表情で作業を見つめるPAを警官たちは正直もてあましていた。
 ガラスはどうやらグレン氏が倒れた後に割れたらしいことが聞き込みで分かった。
 そういうことをまとめてあの子供に報告しないといけない。
 正直自分の半分ほどしか生きていないような子供に主導権を渡さないといけないというのは結構屈辱なのだが。
「カクタスさーん。お仕事っすよ」
「全員居間に集ー合ー」
 そこへ当の本人がやって来た。
「あ。手の空いてる人だけでいいから」
 そう言いつつ、カクタスの首根っこをつかんで去っていく。
 PAって一体……
 鑑識や警官たちにその思いを抱かせるには十分だった。

 居間には最初に到着したおまわりさん、刑事っぽい人が立っていた。その向かいに病院から戻ってきた楸と、回復魔法をかけて無理やり退院させたグレン氏。そして……
「あ? 山吹? なんで?」
「呼び出し食らったのよ」
 指令書片手の梅桃がいた。
 全員を前にシオンが手を叩く。
「はい静かに。えー。盗まれたのは火の魔封石全部で十個。
 大きさは大体子供の拳くらいで、水色の巾着に入っている」
 巾着はいつも受け取り用に使っているPAの紋章入りのものだから間違えることはまず無いだろう。……もっとも入れ物がそのままという保障は無いのだが。
「ってなわけでグレンさんに魔力波動を追跡してもらって、その報告を受けつつ犯人を追跡する。
 ケーサツの皆さんはここで普通に捜査お願いします。以上」
 シオンの言葉に面白くなさそうな表情の刑事。
 対して友好的な表情でグレンさんは小さな石を差し出す。
「ほれシオン」
「ありがと。じゃあ行くぞ!」
 笑顔で受け取り、呼びかけると。
「「いってらっしゃーい」」
 カクタスと楸ののんきな声が送り出して。
「おまえらは追跡だ!! とっとと来い!!」
 こうなるのもいつものこと。

 住宅街を走りつつ地図とを見比べ判断する。
「そんなに離れてなさそうだな……これなら何とかなるか?」
 土地勘があったならもっと早く近づけるのかもしれないが……
「でもさでもさ。どうやって犯人見つけるんだ?」
「魔法の道具には一つ一つ魔力波動にパターンがあるの。それを辿るの」
「??」
 走りながらのカクタスの疑問に同じく走りながら梅桃が答える。
 今も昔も魔導士は体力がないと思われているが、PAチーム・アルブムの面々は体力には意外と定評がある。
 他の新米PAは使えるようになる為に最初は体力訓練が行われるが、彼らはそこまでの訓練を必要としなかった。その理由が『普段からの魔法合戦や楸の暴走に対応するため』というのが彼ららしいといえばらしいのだが。
 頭にたくさんの疑問符をつけるカクタスを見やってシオンが口を開く。
「あー。石を発信機とすると受信機に当たるのがグレンさん」
 この説明で分かってくれるといいのだが、と切に願いながら。
「で、ここにさっき貰った石。盗まれたのも――石」
 さっき手渡された石を示す。
 二つの石の距離、方角。そういった少しの情報でもあるとないとでは大違い。
「だから早い話グレンさんに『犯人は俺たちから見てどこにいるか』を教えてもらおーってワケだ」
 通信用の水晶球は病院で使ったのを預けてある。
「地図も同じ物借りたしねー♪ 南に……中心部のほうに向かってるよ」
 楸の言葉に進路を南に変える。
「よし行くぞ!
 さっさと解決しないと……ドサ回りにすらいけなくなるぞ」
 切実だ……
 掛け声と一転しての重い口調に改めて自分達の立場を思い知ることになった。

「だーっ どこにいるんだ!?」
 カクタスが根を上げたのはそれから三十分ほどしてのこと。
 ほかの三人も疲労の色が濃い。
 上空からゆっくりと大きな弧を描いて瑠璃が降りてくる。
「マスター! 上から見ててもそれらしいのないっすー」
「上空からじゃ無理か」
 舌打ちをしてあーでもないこーでもないと話し合いをはじめる四人。
 流石に道端では邪魔なのでそばにあった公園内の木陰に移動してのことだが。
 横手から大きな声がかかる。
「久しぶりだなロータス!」
 金髪明るい茶色の瞳。年のころはシオンと同じ。
 自称・シオンのライバル。キドニー・ビーンである。
 呼び声に梅桃と楸は一瞬そちらを向くが、当のシオンはまったく無視。
 ……実際は話に夢中になっているだけなのだが。指したままの指が虚しい。
「うん……了解! 行くぞ皆の者!!」
「「おー!」」
「ムシすんなああああっ」
 その悲鳴ではじめて気がついたのか、シオンは振り向き露骨に顔をしかめる。
 苦手な相手だ。
 何も知らないカクタスは誰にともなく問い掛ける。
「誰?」
「シオンを逆ウラミしてる人」
 その梅桃の言葉にキドニーは肩を落とすがかまわずカクタスも相槌を打つ。
「ああ。おーいよな」
 シオンにはライバルが多い。無論頭に『自称』がつくのだが。
 同年代に有名な人がいたら、むやみやたらと張り合いたくなるのも分からないではないのだが。
 相手がシオンでは悪すぎるとカクタスは思う。
「ちなみにかーくんとおなじ見習だよ」
「けんか売れるレベル違うしっ」
「ただインネンつけたいだけだから、ほっといていいのよ」
「うっわー梅桃ちゃんきっつーい」
 三人に好き勝手に言われてるがキドニーは反論できない。
 こっそり楸のことが気になってたりするのがその理由なのだが。
 こうも言われると辛い……
 シオンは相手にすべからずと判断したか、熱心に地図に見入る。
「でもなぁ。情報だとこの辺のはずなんだけど……」
 何でここまで馬鹿にされなきゃいけないんだろう。
 キドニーは考える。
 せめて何とか奴をぎゃふんといわせたいのにっ
 思った瞬間、手にしたものを思い出す。
 自然とそれに集中し。
「どわああああ!!」
 シオンが真っ先にそれに気づいてカクタスを蹴飛ばし自分も大きく後退する。
 今までシオンたちがいた空間に紅の炎が突き刺さった!
火の矢(イグニス・サギッタ)!?」
「ムシすんなって言ってるだろ!!」
 振り向き、改めて見れば憤るキドニーの手には。
「って魔封石!?」
 淡い赤い耀き。大きさは拳程度。条件は合う。
「重要参考人ってとこかしら?」
 珍しく声に怒りをにじませて梅桃が冷ややかに笑う。
「こっちに攻撃しかけてきたし。魔法使用法違反に」
「傷害罪、公務執行妨害もだな」
 楸のセリフをシオンが引き継ぎ、顔を見合わせいっせいに頷く。
 そしていまだなにやら騒ぎ続けるキドニーに宣告がくだる。
「キドニー・ビーン。逮捕する」
「は? て、ちょっ」
 公園に攻撃魔法が雨と降った。

「捕獲捕縛~」
 頭に青筋浮かべつつ、精霊の力で極端に伸びたツルでぼろぼろになったキドニーを縛っていると、軽い水音が鳴った。
 水晶球を通して話すときの呼びかけ音。
 席をはずしたシオンに代わり、カクタスが問い掛ける。
「さぁとっとと吐け。その魔封石、どっからとってきた?」
「俺のだっ」
 涙目になりながらも反論するキドニーだが、あいにく誰も信用しない。
「犯人はキドニーじゃない……」
 どこか呆然とした口調でいったのはシオンだった。
「なんで? 状況証拠はばっちりだよ?」
「今さっき連絡あってさ」
 目を合わせようともせずにシオンは言う。
「窓ガラスが割れたのは近所の子供が野球してたからで……」
 呆然とした中にも、含まれる怒り。
「巾着は、昨日泊まりに来てた孫が間違えて持って帰っちゃってたんだと」
 落ちる沈黙。
 今までの苦労は?
 一体何のためにこの暑い中街中を走り回ってたのか?
「どーやら……」
 ほっとしたキドニーが口をはさむがそれをさえぎってシオンが言う。
「とりあえず、キドニーは逮捕だな」
 悲鳴が響くがそこはそれ。自業自得。
 無駄な労力をする羽目になった埋め合わせに、キドニーがある程度の目にあったのは言うまでもない。

 おしまい

はい。コレのオチがあるからこそ。前作でキドニー出しました。
実際はこの話書きたかったのって『えびで死ぬなら本望』といわせたかったからだけという……
もう少しまともな話が書けるようにしないと、なぁ。