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世間の反応

 やぁやぁみんな元気かな?
 あ? お前誰かって?
 今回留守番させられたカクタス君でーす。
 うっうっ レポートさえなけりゃあなぁ……
 仕事づけの毎日で宿題を忘れてたら、山程課題レポート書けって言われてさー。
 信じられるか?
 これでもオレ達、皆の平和な生活を守るために日夜がんばってるって言うのに……
 あ? 他の連中はどうなのかって?
 ……ちゃんと宿題やってたんだよあいつらは……
 こほん。
 では今回のお話にすこぅし役立つことを説明してあげよう!!
 つーか知ったかぶりさせてくれ。
 あいつらがいるとオレが知識ひけらかすなんて真似、ぜってー出来ないから。
 魔法使いって言ってもピンからキリまであるっていうのは分かるよな?
 もともとの属性にも関係在るにはあるけどまぁそれは今回置いておいて。
 魔法使いを簡単にランク分けする方法として魔法検定によるわけ方があるんだ。
 そうそう。『検定』で『級』であって剣道とかの段じゃないんだな。
 検定は一番上の一級から、初級の七級まであって、級によって呼び名とか式典参加時のローブやそれに施される刺繍も変わる。
 一目でわかるようにって奴だな。あと望めばカードサイズの免許証も発行してくれるから身分証明にもなるしな。
 細かいとこにいくと、七級は見習い。
 灰色のローブ……俺が着てるやつな。デザイン最悪なの。
 それに『変なことに巻き込まれないように』との祈りを込めたアミュレットも貰える。
 四~六級は魔導士。
 黒のローブに星の刺繍。とりあえず六級まで上がれば一人前とみなされるんだ。
 PA入団の最低条件なだけにオレも早く取らないとまずいっぽい。
 うちのメンバーじゃ山吹が四級。橘が五級だな。
 これで分かるように級が上だからって強い魔法使いとは言えないんだよな。
 『知識量』=『魔力量』とはかぎらねぇし。
 そうそう見習い以外のローブのデザインは一般魔法使いとPAとでは異なるんだ。屋内研究型の一般魔法使いと屋外活動型のPAとじゃあ、ある意味当然っちゃ当然だけど。
 んで最後に一~三級保持者は魔導師。
 『魔導士』も『魔導師』も韻が同じなのはどうにかならないかと思うけど。
 うちの面子じゃシオンだな。三級持ってる。しかも史上最年少取得者らしい。
 相変わらずすごいことで。
 ローブは魔導士とはデザインの違うモノで色は黒。魔道に縁深い月の意匠の刺繍。
 オレのことで分かるように魔導師には弟子を取ることが許されてる。
 つーかむしろ取れどんどん取れって感じだな。オレの印象だと。
 後はー……月に二時間ほど見習いたちのためにアカデミーに出向いての授業が義務付けられてるんだな。かなりメンドウなことだけどさ。
 でもこれはPAだからって例外じゃなくって……。

 終了を告げるチャイムが鳴る。
 チョークを置いて礼をしたシオンに惜しみなく与えられる拍手。
 今回もようやく終わった。
 見咎められぬように息を吐いて退室する。
「おつかれさまっす」
「本当にな」
 肩に止まったままの瑠璃の言葉に軽口を返す。
 三級取得から早一年近く。いいかげんに慣れる頃合だ。
 とはいえ普段自分が学生なだけに教え方などわからない。
「先生って大変だよな」
 魔導士人口のあまりの低下っぷりに仕方なくとられた処置とはいえ、本職でもない自分の講義がどれほどの価値があるというのだろう?
 アカデミーの教師達はどう思っているのか?
 シオンが首をかしげるのも当然といえた。
 その頃教室の中では。

「くっそーロータスめ。魔導師だからってえばりやがって」
「別にえばってないじゃないか。兄さんの被害妄想だろ」
 教室の奥のほうに少年が二人座っていた。
 年のころはシオンと大差ないだろう。二人そろって金髪、明るい茶色の瞳。
 いかにも腕白な感じのする兄とおとなしげな印象の弟。
「それにここじゃ『先生』だよ」
「それが腹立つっていってんだよ! 俺と同い年のくせに講義なんかしやがって」
「だからそれは義務なんだから」
 彼らはシオンと違い、普段でも普通の学生である。
 ただ……同じ高校に稀代の天才との呼び名も高い『水の支配者シオン』がいると聞き、見に行ってみれば。
 見ためごくふつうの少年。それが腹立たしいような妙な感じで。
 有名人は普段からオーラが違うとかいう思い込み……それは当人にとっては困ったものである。自分の理想と違うからと文句いわれても正直困る。
 シオンの場合は自分がそんなにすごいとは思ってないので嫌味なども特に気にしてないが。
「おまけに最年少でPA入りだぁ!? ふざけてる!!
 ブロードもそう思うだろ!?」
「まぁ」
 振られた弟はあいまいに返事をし。
「そうさせた大人たちのほうがおかしいよね」
 とボソッと付け加える。

 実際十五歳の少年少女がPA入りしたというのは大きなニュースになった。
 記者たちの追及はすさまじかった。
 危険な仕事に子供を関わらせていいのか。
 子供に大きな権力を持たせていいのか。
 団体からの抗議文や嫌がらせの電話、メールの数々にうんざりした団長は記者会見を行う羽目になり、その会場でも総攻撃を受けた。
 あまたの抗議や中傷が一通り収まって団長は口を開いた。
「抗議は甘んじて受けよう。我らは何も子供を入団させたいわけではない。
 しかしPAの人材不足は致命的なまでに落ち込んでいる。
 だからあなたたちが、PAに入団できるような大人達が魔法使いになってくれ。
 これまでにうちに抗議した人すべてが魔法使いになってくれるのならば十分な人数が集まる。
 そうすればわざわざ彼らを入団させる必要は無い。
 アカデミーへの入学希望書類はここに用意してある。
 さあ。どなたが来て下さるか?」
 結局は誰も書類を持ち帰らず、シオンたちはつつがなく入団することになった。

「あああっ 気にくわねぇ!!」
 相変わらず騒ぎまくる兄にブロードは内心ため息をつく。
 兄がやたらとシオンにライバル意識をもっていることは分かっていたが……
 とはいえ。
「少しうらやましいのは確かかもね」
「なんか言ったか?」
「ううん別に。
 でも兄さん喧嘩売るのはやめておきなよ?」
「……」
 憮然とした表情で黙り込むキドニー。
 兄が飛び出していかないようにそのローブをつかむブロード。
 初級が三級に喧嘩売ったって勝てるはずも無いのに……
 喧嘩っ早い兄が何か仕掛けてもうまくかわしてくれますように。
 なんとなくそんな祈りを込めて天を仰いだ。

「どしたのしーちゃん?」
 恒例のごとく説教をしていた途中シオンがいきなり身震いしたのに楸は思わず問い掛ける。
「いや……なんか怖気が……」
「風邪っすか?」
「違うと思うけどなぁ?」
「早く帰って休んだほうがいいんじゃない?」
「帰れればな」
 アルブムの面々は手持ち無沙汰に休憩室で過ごしていた。
 人待ちである。
 書類にサインをもらわないといけないのだが……いかんせんその当人が居ない。
 これがジニアであったなら電話をすればすぐに来てくれるのだが……
 彼ばかりは当てにならない。今日ならここに来ていると聞いたのに。
 外出中だといっていたが、いつ帰ってこることやら?
「マスターお疲れっすね」
「慣れないことして疲れてるのは確かだけどな」
「どれどれ?」
 言って楸が自分の右手をシオンの額に伸ばす。梅桃も読みかけの本から顔を上げる。
「熱は無いみたい~」
「精神的に疲れてるとか?」
「それはいつものことだろ」
「それもそうね」
 再び本に目を落とした梅桃を見やって、シオンは紙コップのお茶を口に含む。
 大声を出したのと長時間喋ったせいでのどが痛い。
 チョークの粉もすごいしなぁ。
 『教師』という職業の大変さがよく分かったような気がしてお茶を飲み干した。

 両手に花。
 そのように見えるのだろう。傍目には。
「アカデミー内でいちゃつきやがって」
 柱の影からシオンたちを見ているのはキドニーとブロードの兄弟。
「うらやましいだけじゃないの?」
「違う!!」
 シオンと楸はいとこ。梅桃は幼馴染。
 三人は仲が悪いということは無い。かといって良いとも言いがたいのだが。
 とはいえ『いつでもどこでも仲良く任務』という建前がある以上一緒にいることは多い。
 逆を言えば、個人個人での任務などこなすことができないからなのだが。
 とはいえ同年代の男女が仲良く話をしている。しかも異性のほうの数が多い。
 なんとなくうらやましく感じてしまうのは兄弟だけではないのだろう。
 アカデミーのほかの生徒もちらちらと彼らを見ては、その纏った制服にあっけに取られ、小声で話し出す。
 ――PA?―― ――PAだな―― ――あんな子達が――
 その視線や囁きに気づいた三人はそろって小さくためいき。
「注目されてるね」
「針のムシロだ」
「居心地悪いわ」
「およ~? めっずらしいなぁ!」
 響いた能天気な声にシオンたちは顔を上げて、周囲の生徒は逆に顔を伏せる。
 着ているのは黒いローブに月の刺繍……シオンの三日月とは違う、満月の意匠。
 世間から天然記念物扱いされる魔法使いの中でもほんの一握りしか居ない一級取得者の証。
「シオンに楸。で、梅桃ちゃん……だよな? 入団ぶりー」
「お久しぶりです」
「ご無沙汰してます」
「大叔父さーん」
 楸の呼びかけに片手を上げて応える。
 年のころは七十前後。少しくすんだ金髪に紫の瞳。年のわりにがっしりしていて茶目っ気たっぷりとは本人の弁。
 エドモンド・ラムス・スノーベル。シオン、楸の祖父のイトコにあたる。
 魔法使いの名家。スノーベル本家に近い人間、まして珍しい一級取得者の登場に周囲の人間はざわめく。
 シオンが本家ということを知っているのは今のところ団長と連絡役の槐のみ。
 十六になるまでは『スノーベル』を名乗ることはできない――旧家は変なしきたりがある――ということもあるが、名のせいで厄介ごとに巻き込まれるのを避けるため――『スノーベル』だということで誘拐された事がある――ということもある。
 魔法使いの約一割を占めるその血族だが直系の人間はごく少ない。
 検定資格は全員持っているのだが、シオンの母は表立って魔法使いとしての仕事はしていないし、楸の母も同じこと。
 世間に知られているのは本家当主のエドワードと分家の彼くらいのものだろう。 
 とはいえ、二人ともに最も尊敬される魔導師としての呼び名は高いのだが。
 エドモンドはニコニコしながら寄ってきて楸の頭をぽんぽんと叩く。
「いよぅ楸。おっきくなったな~。鴨居に頭ぶつけないか?」
「あっはっはっ♪ だからおじさん嫌い♪」
 言い返す楸の笑顔は珍しく引きつっている。
 エドモンドは楸が実は自分の身長をかなり気にしていることを知っていて毎回こういってくる。
 そりゃあ嫌われて当然だろう。
 このとーり、性格的にはごくふつーの……おじさんである。
 王侯貴族のようにゆったりといすに腰掛けたのを見計らってから、シオンは書類を取り出す。
「これなんだけど」
「ん? 器物破損の申告書ぉ? なんでこんなものもって来るんだ?」
「それにはいろいろありまして……」
 こっそり視線をそらしながらも額には妙な汗。
「にしたってシオンが書けばいいんじゃないか?」
「『未成年だから』って受理してくれなかったの~。だから保護者印ちょーだい」
「保護者印ねぇ」
 書類をぴらぴらと揺らしながらつぶやくエドモンド。
「エディか誰かに頼めないのか?」
「じーちゃんはパラミシアだって」
「うちのおかーさんは桜月だし」
 なぁ、ねぇと顔を見合わせて二人は言う。
 ハンコもらいにわざわざ国外まで行きたくないのは当然である。
「ジニアおじさんに頼もうかとも思ったけど」
「他人より身内のほうがいいかなーって。こっちのほうが近いし」
「なるほどな」
 しばらく話す気なのか、自動販売機で飲み物を買って席につく。
「久々だから聞くが楸、家族は元気か?」
「ん。元気よ~」
「うむ重畳。シオンは?」
 その言葉にシオンはキッパリはっきりと。
「とーさんは『遺跡が俺を待っている~』と六年前に旅に出たまま」
「たま~に論文とか雑誌に載ってるよね~」
「かーさんは『世界に愛を振りまくの~』と十三年前に旅立った」
「難民キャンプとかの特集番組でたまに見るわよね」
「ねーちゃんは『お土産待っててね~』と三年前にどっか行った」
「未だに連絡ないっすね」
「すまん俺が悪かった」
 謝って、改めて書類に目を通す。
「何壊したんだ? 椅子か机か?
 ちょっとしたものでも書かされるからなぁ。あそこは」
 と、金額の欄に書かれた数字を見て飲みかけたお茶を噴出しかける。
「なんじゃいこの金額はー!?」
「いやその~」
「言っとくがこんな金はないぞ。おじさん色男だから」
「あー弁償は終わってるから」
 重い口調のシオンにエドモンドは少し目を見張る。
 子供が弁償できる額ではない――大人でも難しいが。
「どうやって弁償したんだ?」
「甘いねおじさん。しーちゃんの魔封石は高く売れるんだよ」
「ああ、なるほど」
 確かに魔封石を売ったのならばこのくらいの金額はたやすく作れるだろう。納得してふと思い出す。
「そういや建物全部凍結させたって聞いたが。
 もしかしてそれの書類か?! さっすがエディの孫! スケールおっきいな!」
「ちがうよぅ。半分くらいだよ~」
「だまっとれ楸」
 梅桃は視線だけ動かす。
 さっきまで遠巻きに見ていた野次馬の姿が無くなった。
 『建物全部凍結』発言の後で。
 これでまた変なうわさ広がるわね。
 仕方ないと思いつつシオンへと視線をやると彼もまたこちらを見ていて。
 帰ったら説教かな?
 でしょうね。
「とにかくハンコちょーだい」
「はいはい」
 ひとまず書類の提出はできそうだ。

 後日、うわさは恐ろしい勢いで広まり、案の定説教を受けることになった。
 良くも悪くも……シオンたちは世間から注目されている。

 おしまい

突発的に入った話ですー。ライバルもどきを出してみようかと。
次の話に出てくることは決めていたのですが、その前のちょっとした顔みせってかんじで。
愛称に関してはエドモンド=エド。エドワード=エディで統一してます。