1. ホーム
  2. アモーレ!お話
  3. PA
  4. アモーレ!
PA

アモーレ!

 今日も今日とて任務をこなすチーム・アルブムの面々。
 いつもいつも目立つのはリーダーであるシオンやトラブルメーカーの楸だが、かといって残りに二名が無個性かというとそんなことは無論、無い。
 カクタスは自分の実力(魔導士見習い)も省みず大きいことをいうし。
 そして残った梅桃はというと……

「は?」
 梅桃に出来たのはとりあえず問い返すことだった。
 休憩室の一角で(しかも端っこの目立たない席)いかにも『怪しい相談もちかけてます!!』と言った雰囲気で話す内容とは思えなかったからだ。
「いやだから……を作ってほしいんだが」
 もう一度問い返す相手に一拍考えてから言葉を返す。
「作れないことは無いと思いますけど」
 話の流れから何故それが出てくるのか少々理解に苦しむが、まず聞いておかねばならぬことがある。
「犯罪に使いませんよね?」
「犯罪……」
「遠い目をしないでください」
 一応突っ込みを入れる。
 シオンみたいに感情をあらわにしてのツッコミではないため『かなりキツイ(楸談)』となかなかに好評である。
 相手はふっと一息はいた後そそくさと資料をまとめて席を立つ。
「と、とにかく頼みましたよ!」
 騒がしい休憩室にぽつんと一人残されて、おごってもらったジュースをこくんと一口。
「さて、どーしようかしらね」
 ため息とともに言葉を吐き出す。
 その声音は全然困ってなさそうだった。

 梅桃たちは前も言ったように学生である。
 PAへの入団要請を「高校に進学したいから」と断ろうとしたシオンを色々な工作を繰り返して入学させた今の学校はPAに理解はあるがそれはそれ。
 いくら任務が忙しかろうと、授業や宿題やらやらなければならないことがある。
 もともと勉強が嫌いじゃない梅桃や、それなりの知識量がもとからあるシオンは大して困ることはなかったが、逆の立場の二人はというと……
 ノックがして扉が開かれる。
「山吹ー。宿題……すいませんさよーなら」
「何で逃げるの?」
 抱えた教科書をそのままに右足を軸にそのまま来た方へと帰ろうとするカクタスに梅桃は不思議そうに声をかける。
 何かの実験でもしていたのか、何本かの試験管を手に持って。
 机の上は『黒魔術してます!』といった感じに仕上がっている。はっきり言って怖い。
「いえお気になさらず」
 何とか穏便にこの場を立ち去るべく言葉を捜すカクタス。
 前々から伝え聞いてはいた。梅桃はマッドがつく感じの科学者っぽいと。
 魔導士が科学? と思うなかれ、薬草学やら錬金術が今日の科学の礎となったのは有名な話である。
 合成獣などに関しては魔術の方が進んでいる。事の良し悪しは別として。
 何はともあれこのままここにいるのは精神衛生上……もとい生命の危機に陥りかねない。
「ゆっすっらっちゃーん」
 突然響いたのは聞きなれた声。
「楸」
「橘お前どこから」
 音源を捜すと窓の向こうで楸がひらひらと手をふっていた。
 窓をひょいと飛び越えて部屋の中に着地して、にこっと笑顔でノートを差し出す。
「あのね宿題見せて?」
 ああ。同じ事考えてるし。
 とか思いつつカクタスはそろりそろりと扉に向かう。
「いいわよ」
「やっぱごめんさよーなら」
 梅桃の返事に楸もまた回れ右して窓へと向かう。
 その楸の肩にわしっと手を置いて、普段見れないくらいの笑顔で梅桃が引き止める。
「まぁそんなこと言わないで」
「いやー!! ゆすらちゃんの笑顔はコワイのー!! 絶対何か要求する気でしょー!!」
「等価交換等価交換」
 絶対『等価』じゃない。心の中で突っ込みいれてまた一歩扉に近づく。
 梅桃は完全に狙いを楸に定めたらしく、試験管の一本を振りながら追い詰めていく。
「その赤黒いものをもって来ないで!!」
 本気でおびえる楸。そうそう見れるものではない。
 彼女をおびえさせる物事は五つとないだろう。
 その一つが梅桃の薬。
「医学の進歩には多少なりともギセイが必要なのよ」
 とか言いつつ満面の笑顔。怪しい。
「いや回復魔法あるし……」
 思わずツッコんだカクタスに向けられる怪しい視線。
「ってごめんなさいなにもいいません~」
 扉はすぐ前! ああ! これで自由と安全が我が手に!!
 望みをかけてノブに手をかけようとした瞬間。
 扉は開かれた。カクタスに向かって。派手に勢いよく。怒声とともに。
「お前ら何騒いどるかー!!」
 ゴンとかすごい音がしたような気がしないこともないがとりあえず怒鳴る。
「シオン」
「シオン~」
「しーちゃーんっ」
 部屋の中からは三者三様の反応。
 あ、きたの? という至極当然な感じと、なぜか涙声になっているもの、そして期待に満ち満ちたもの。
 妙な感じはしたものの、とりあえずここにきた理由を告げる。
「騒ぐな苦情来るだろうが! いっつも誰が怒られてると思ってる!?」
 彼らは……というかPAは主に本部の敷地内にある寮に住んでいる。
 寮とはいってもそこそこいい代物なのだが、実際は一チームに一部屋(4LDK)といった割り当てなので、住環境はあまりよくない。
 何度言っても変わらないことにため息をついて、もう一つの用件を告げる。
「で梅桃。例の報告書は?」
「出来てるわよ」
 引き出しを開けてまとめたレポートを手渡す。
「んじゃ」
 貰ったものを一瞥してきびすを返すシオン。その足元にはシオンが扉を開けた拍子におもいきり指と鼻とをぶつけたカクタスが苦痛にのた打ち回っている。
「あ。シオンこれ」
「あ?」
 実験台にしようと呼び止めたが、振り向いたシオンの顔はものすごく不機嫌そうで……ついでに言えばちょっと前に起こったPA本部半凍結事件を再来させるわけにはいかなくて……結局梅桃はこの言葉を口にする。
「何でもない」
 そこへ楸が暢気な声をかける。
「しーちゃん不機嫌ね」
「誰のせいだとっ!?」
 よほど怒りっぽくなっているのか、いつものようにあしらう事も出来ずにまともに頭に血が上るシオン。
 ぐりんっと反転してつかつかと部屋を横切り楸の首根っこをわしっと掴む。
「お前も来い!! 一緒に叱られろ!!」
「やーっ」
 シオンに引きずられつつ、嫌がるふりをしつつも楸はいまだ苦痛から回復していないカクタスに向けて小さくピースサインなどしている。
 うまく逃げられたな……と嘆息しつつ彼のおしゃべりな使い魔に話し掛ける。
「だいぶ疲れてるのね」
「ならおとなしくしてて下さいよ。マスターもそりゃ怒りますよ」
 案の定彼は警戒していない。
「で、瑠璃君」
「はい?」
 こっちを振り向いた拍子にくちばしの中に丸薬を放る。
 ごっくん。
 小気味のいい音を立ててそれを飲み込んだあと、音がたちそうな勢いで瑠璃の血の気が引く。
「ぎゃー!! 何すか何すか何飲ませたんすかっ!?」
「ふっふっふっ」
 慌てて騒ぐ瑠璃にわざと答えず怪しい笑みを返す。
「うわぁんますたー!」
 飛び去っていく瑠璃を見送って、梅桃は次のターゲット。
 苦痛にうめいているカクタスへと視線をやった。

 団長室からの帰り道、シオンは大きくため息をつく。
 PAは団長の下に諜報任務を主とする部隊と実際に派遣される部隊とある(シオンはこちら側に所属)が、部隊長すっ飛ばして団長にこれほどまでに怒られるものは珍しいだろう。
 いっそ首にするならしてくれとさえ思うが、哀しいかな極度の人材不足によりその見込みはまったくない。
 祖父がなまじPA内で『伝説』扱いされているだけにシオンとしては肩身が狭い。
 考えれば考えるほどに落ち込みそうになって、シオンは大きくため息をつく。
 そのため息は、前方からやってくる騒動に対してのものだったかもしれない。
「ゆっすっらっちゃーん!!」
 必死に逃げる梅桃と、なぜか彼女を追いかけるカクタス。
 あ~珍しい組み合わせだな……
 何で俺の周りにはこうトラブルメーカーばっかいるんだろう?
 大きなため息一つ。瞬時に杖を呼び出して、目の前を走りすぎようとしたカクタスの頭をぶん殴る!
「さっき騒ぐなっていったばっかだよな、な?」
 崩れ落ちたカクタスを何気に踏みつけつつ抑揚のない声で告げる。
 追いかけられていた梅桃はちょこちょこ戻ってくる。
「で、何やってんだよ」
「新薬の実験」
「するな!」
 問いかけにきっぱりはっきり答えられてもぉ泣きたくなってくる。
「思ってたのと効果が違って困ってるのよね。副作用かしら?」
「いきなり人体実験する癖は直せ」
 三つ子の魂なんとやら……二つのものを混ぜたり蒸留したりとそう言う実験大好きな梅桃は扱いに困る。小さい頃は料理、今は薬と興味の対象は変わっているが……当然薬剤師の免許なんてものはない。
「シオンはどう?」
「んー?」
 問いかけに気のない返事を返し、そのまま梅桃の首に手をかける。
「――っていつ盛った?」
「やめて。大声出すわよ? ちょっとした冗談なのに」
 首を少ししめられて、視線をあらぬほうへとやる梅桃。
「いいからおとなしくすべて吐け」
「守秘義務があるのよ」
「依頼か」
「そう」
 ひとまず手は離されて、顔をあわせる梅桃。シオンの顔は全然笑ってない。
「でも言え。言わなきゃ権限駆使して言わす」
 長い沈黙の後、
「……ぢつは……」

「ほれ薬? またベタな」
「まぁね。使用者が周囲から好意を持たれるって感じにしたかったんだけど」
 頼んだのは誰だろうという疑問もわいたが。
「どー見ても最初に見た奴に一直線て感じだったぞ」
「そーなのよ困ったことに」
 足元に転がるカクタス。そこへ慌てたような羽ばたきの音。
「うあーんますたーぁ」
「瑠璃。
 ってどうしたんだその姿!?」
 あちこちぼろぼろの使い魔の姿を見て手にもったままの杖の存在を思い出し、回復魔法をかけようとするが。
「か……カラスにやられました」
「ちょっとまてい空の王者」
 瑠璃の言葉に放棄する。
「お前はハヤブサだろーがっ ちょっと位ずる賢い光物好きな鳥に劣ってどうする!!
 仮にも鳥類の食物連鎖の上の方にいる奴が何してる!?」
「大群で襲われたんすよ!!」
 主従のやり取りを聞いて梅桃がため息一つついて。
「改良の余地ありね」
「やめろ今すぐこんな研究!」
「でも世のため人のためになる(かも)よ?」
「見えてっぞ本音」
 梅桃は黙秘を続け、シオンも自分に実害がなかったせいかこの件に関してはこれ以上突っ込んで聞きはせず、結局うやむやになってしまった。

 数日後、絶滅危惧種のお見合いがうまくいったとかいうニュースが流れて、それを見た梅桃がほんの少し微笑んだり、偽ほれ薬が出回ったりしたのはまた別の話である。

 おしまい

今回は梅桃にスポット当ててみました。あの四人の中じゃ一番目立たないかな? と思っていたので。
彼女は前へ前へと出てくるキャラじゃないし、事が起きても自分はしっかり退避って感じ。
主役に据えないと目立たないような気がするんですよね……
ある意味、楸よりも厄介な彼女の暴走でございます。
自分で書いててなんだが……シオン苦労してるな。