1. ホーム
  2. お話
  3. PA
  4. ある日のこと
PA

ある日のこと

 穏やかな昼下がり。春の日差しの温かい日でした。
 花が舞い散り、温かい風が吹いて。
 本当に……まわりで精霊たちが踊り狂ったり、攻撃魔法が飛び交っているのが嘘なくらい気持ちのいい日でした。
「ゆ、梅桃さぁぁん?!」
 自分でも声が震えているのが分かります。
 いや実際には梅桃(ゆすら)さんの結界の中にいるんすから危険はぜんぜん……いや多分無いはずなんすけど。
「止めてくださいよぉぉぉ!!」
 悲鳴になってしまうのはしょうがない事だと思うんす。
「このままじゃ捜査団壊滅しちゃいますよぉぉ!?」
 ボクの言葉になぜか梅桃さんは珍しく笑みを浮かべて、
「絶対嫌、死んでも嫌」
 それは絶対零度の微笑みでした。

 ここはディエスリベル。魔法協会の本部のある国。
 といってもこの科学の世の中、協会にとって見れば長々と不況が続いてたんす。
 しかし魔法はやはり強大なもの。それを使った犯罪が多発したとき、警察ではだんだんと手におえなくなっていってしまったんす。
 そこで各国から泣きつかれて設立されたのが国際魔法犯罪捜査団プルウィウス・アルクス……通称PAなわけっす。
 そしてここはその本部。
 優秀な魔導士たちが日夜犯罪減少に取り組んで、いる、はずなんすが。

「なんでっすかー!?」
「ここは結界張ってあるから騒ぎが収まれば元通りになるし、何より私、自分が大事だから」
 ああ、そういう方でした。
 『PA期待の新星』という触れ込みで入団したこの新人チームはそうはいかなかった様子です。結界の外からはときおり「待てー」だの「ぎゃー」だのと声が聞こえます。
「それに、先輩方も止めてないから良いのよ」
「いや、止められないんだと思うンすけど」
「分かってるなら無茶言わないで。それに」
 いって、梅桃さんはボクを見つめます。
「一番被害ばら撒いてるの、瑠璃君のご主人でしょ」
「うっ それはそお何すけど、原因はやはり楸さんにあるものと」
 脂汗をたらたら流してそっぽを向くボクに梅桃さんはしみじみと。
「まぁシオンが怒るのも当然だけど」
 シオンと言うのはボクのマスターで、若干十五歳にして「水の支配者」の異名をとるほどの魔導士なんす。普段はこんなに怒ることは……あっても、暴れたりするような方じゃあないんすが。
 あ、紹介が遅れました。ボクは瑠璃。魔導士シオン・ロータスの使い魔です。
 こちらの梅桃さんと、先ほどの会話に出てきて、今現在マスターの攻撃をくらっている楸さんと、楸さんの盾にされているカクタスさんの四人はチームを組んでいるんすが。
 お察しのとおりチームワークは決して良いとはいえません。
「でもさすがにこれ以上はまずいかしらね」
 ああっ やっと止める気になってくださったんすね!
 と、ボクが言葉を発する前に。梅桃さんはボクの足をわしっと掴み。
「主人を止めるのも使い魔のつとめよね」
 そういってボクを結界の外へと放り投げたのでした。

「うわああんっ 梅桃さんのオニー!!」
 何とか空中でバランスを取り直したものの。
「ぎゃー!?」
 あっちこっちから攻撃魔法が飛んでくるぅぅぅ。
 く、空中戦ならボクも一応自信ありますよ。一応ハヤブサだしっ
 にしてもマスターめちゃくちゃすぎです。
 こんな修羅場、映画でしか見たことないっすよ。
 あ、盾にされてたカクタスさんがあそこで氷付けに。
 楸さんが応戦してないだけマシなんすけど。
「しーちゃんこわいいいいっ!!」
「お前はもっとPAの立場とか世間の常識とか俺の苦労とか少しは理解しろー!!」
 ああ。マスターが本気でキレるとあの楸さんでも逃げ惑うンすね。
 って妙なことで感心してる場合じゃないすね。
「マスター! マスター!!」
 翼を羽ばたかせてとりあえずマスターに近寄って。
 ってマスターめちゃくちゃ怖いンすけどっ
「やめてくださいよ! 捜査団壊滅しちゃいますよ!!」
「結果は知らんッ」
「開き直らないでくださいよおおおおっ 後で始末書書かされるのはマスターなんすよッ」
「だからどうしたッ 入団してから始末書書かない日があったか!?」
 そ、それを言われると。入団してからかれこれ三ヶ月。毎日書かれてたような。
「でもでも」
 ボクがなおも言い募ろうとすると、マスターは初めてボクの方を向き。
 ……目が据わってるんですけど?
「お前から先に凍るか?」
「ぼぼぼぼぼぼボクはマスターのちゅーじつな使い魔ですカラ」
 ごめんなさい梅桃さん。確かに誰も止められません。
 ああ、何でこんなことになってしまったのやら。
 そもそもはPAに入団したことが間違いだったのかも知れません。
 こうしてボクはきっかけとなった半年前の出来事に思いを馳せるのでした。
 人はそれを「現実逃避」と呼ぶそうです。

 おしまい

これが彼らのたまにある日常。瑠璃君の語りは珍しいかと。