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2番目の、ひと

【Step4 誤解と和解】 2.懸案事項、ふたつ

 予想外なことが分かった訳ですが、進展がないわけではありません。
 アロマキャンドルの件はティルアがもらった子を聞き出せばいいのですけど……今の状況で突っ込んで聞いても、まともに答えてくれないでしょう。
 それに、なんだかんだ言っても友達が困っているのを見過ごすのは後味が悪いのです。
 メールや電話で話しても、きっとヴィルはしらばっくれるでしょうから……やっぱり明日直接問いただすしかなさそうです。
 とりあえず兄さんには進展したときに報告するだけにしましょう。
 あ、何かいろんなことが起きてますけど、大丈夫ですからね。
 僕は兄さんほど無茶しませんから、姉さんが心配するようなことありませんから。
 それよりも最近は物騒ですから姉さんこそ気をつけてくださいね。

 翌日も気は重いというか、いろいろ考え事をしていたので時間はあっという間に流れていったのですが……昼になってもいつものようにサキが来ません。
 おかしいなと思ってティルアに聞けば、休みとのことでした。
 昼になるまで気づかなかったという事実は、ちょっとへこみました。
 ええ、ちゃんと朝にメールが入っていたんですけどねっ
 いまさら返信しても大丈夫でしょうか? でも返信しないほうがまずいですよね。
 仕事で引き回されたせいでの体調不良みたいですから、お大事と打っておきました。
 ……でも、でも……サキには悪いのですけど、昨日に引き続いてタイミング的にはとてもありがたいです。
 つまりは。
「ヴィル、ちょっといい?」
 僕の呼び出し事態の予想はできたんでしょう。ヴィルはほかの子に別れを告げてこっちに来ました。
 シチュエーションは昨日と同じ。ティルアの話を聞いたときのように並んで帰ります。
 違いといえば、ティルアみたいに慰める気がないってことくらいです。
 もちろん、今までの経験からヴィルだってそのこと自体は分かりきっているでしょうけどね。
 ただこっちもこっちでいい加減言いたいこともあるわけです。
「君さ、今度は何もめたの?」
「何の話だ」
「とぼけても無駄だよ。またティルアが言ってきたんだから」
 僕の言葉に舌打ちひとつ。
 あれ? そういえば、ヴィルはずっと気まずそうに視線をそらしてるけど、どうしてなのでしょう?
 ティルアとけんかしたときのヴィルは、見るからにふてくされているのが常なのに。
「お前こそ……何してんだよ」
「何が?」
 低く言われた言葉の意味を理解できない僕に気づいたのか、ヴィルは再度口を開きます。
 ずっと、視線はそらしたまま。言うか言うまいか悩んで、それでも口にしたといった様子で。
「タチアナ……お前の彼女だろ?」
「? うん」
 なにを当然のことを言ってるんでしょう。
「男と楽しそうに話してたぞ」
「いや、話くらいするでしょ。ヴィルどれだけ独占欲強いのさ」
 そりゃあ自分だけを見てほしいって言う人は中にはいるでしょうけど、僕はそこまでじゃありません。
「ダチって感じじゃなかったんだよ! 大人の男と」
「もしかしてそれって、短髪でめがねで神経質そうな?」
 僕の返答にヴィルがどうして分かったのかというような顔をしています。
 ええまあ、勘だったのですけど……
「サキの下宿先の人だよ。一緒に買い物してたとかそういうのじゃないの?」
 そういえば明らかに動揺するヴィル。
 なんていうか……基本的に人間不信の気があるんですよね。
 だからちょっとしたことですごく人を疑ってしまう。
 僕がだまされてるんじゃないかって心配してくれてるってことは分かってるんですけどね。
 そんなことを思っていたら――
「しーちゃん」
「え」
 聞き覚えのあるその言葉。
 思わず振り向いた僕に、ヴィルは相変わらず少し顔をそむけたままに続けます。
「桜月語だったから詳しい内容は分からなかったけどな」
 やっぱり心当たりあるんだろといわれているような感覚です。
 漫画その他が好きなせいもあって、ヴィルは多少なら桜月語が分かります。
 ○○ちゃんというのは親しい人に呼びかけるときの敬称だと教えてくれたのもヴィルでしたから。
 忘れもしません。立ち聞きしたときに出た名前です。
 先生が……サキを御していると評価した人。評価されたことに嬉しそうに返したサキ。
「はっきりとわかんねぇけど、お前」
「人のことより、自分の心配しなよ」
「はぁ?」
 その先を言わせたくなくて、さえぎるように声を上げます。
 そう、恋人は優先させないとサキは最初に言ってた。
 もう約束しているのだから、気にしてちゃだめですよね。
「じゃないと、僕、ティルの応援するよ?」
 さっきの僕みたいにヴィルが見返してきます。
「ティル、兄さんのこと好きらしいし」
「な! なんだよそれ!!」
 ウソじゃないですよ。
 ただ、ティルアが兄さんのこと好きだったのはもう何年も前の話だってことだけで。
「あのさ。僕、何回も言ったよね。いい加減小学生みたいにいじめるの止めなよって」
「嫌いなら一緒につるまねーよ! ただ」
「ただ?」
「お前がいないのにあいつ誘うのは」
 ああもうっ 離れれば少しはましになるかと思ったけど、これじゃあ全然です!
「誘えばいいじゃないか。ティルは避けられてるって思ってたみたいだけど?」
「だってよ! お前にも彼女出来たし、あいつも恋人できるならあんま近寄るのも……な。そりゃあ前みたいにつるむことがないのは……寂しい気もするが」
 長年友人しておいて、いまさら言うのもなんですが、どうしてヴィルはこういう変なトコで気を使うんでしょうか?
 疎遠になるのって何かきっかけがある場合もあればない場合もあるわけで。
 むしろ今の状況では、わざわざ疎遠になるようにヴィルは動いているわけで、そのせいでティルアが寂しがっているというのに。
「じゃあ……別にティルアと付き合うとかは考えてない、と?」
「付き合う? へ? あ、あいつが俺を?」
「あのね? どうしてそう思うかな?」
 ああ頭痛い。
 ……どうしてなんでしょうね。こういう状況になるのが分かってたから逃げたかったのに、今、僕がおもいっきり状況を進めている気がしますよ?
「ヴィルがティルアのこと好きなんだろ?」
「はあ?! そんなこと」
「あるね! 絶対あるね!
 僕とティルアが二人だけで出かけたりするとすごく機嫌悪かったし」
「それはっ」
「仲間はずれにされたとでも? 今迄だって二人で何度も出かけたんだろ?
 そのとき僕がそんなこと言った事あった?」
 重ねて言ってようやく静かになります。
 まったく、どうしていい加減認めないのでしょうか。
 口をパクパクさせているのは、言い返したいけど言葉が出てこないからでしょうか。
 まあ良いですけどね、言いたいことがあるなら言うまで待ちましょう。
 その間にこっちも反論を山のように用意しますから。
「俺があいつに惚れるわけないだろ! あいつが俺に惚れるべきだ!」
 自分が片思いしてるわけじゃないとでも言いたいんでしょうか?
 ああ本当にもう。
「じゃ、惚れさせてみれば?」
 それだけを言って足を速めます。
 気持ち的にはすごい惚気を聞かされた気分です。
 ……ちらと頭をよぎったのは『しーちゃん』のこと。
 首を振って追いやって、家路を急ぎます。
 聞くなら、本人の口から。
 ヴィルみたいに疑って空回りはしたくないから。