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2番目の、ひと

【Step3 疑惑と秘密】 2.不満と不安

 思わず両手で口をふさぎました。
 声が漏れるだけでも危ないかもしれません。
 違う人だと思いたいし、僕の聞き間違いの可能性も高いのです……けど。
「メールあんまりしませんもん」
「おやおや、自分からはしないんですか?
 愛想を尽かされないように連絡はこまめにしたほうが良いですよー」
 あれなんか、話がどんどん違うほうに。
 僕のことを知っていて、サキを利用しようとでもいうのでしょうか?
「ディエスリベルの携帯はデフォルトで辞書機能ついてますもん」
「減らず口をたたかない」
「いたっ」
 ぺしっと軽い音とサキの声。
 軽くはたかれたといった感じです。
「まったく。自分からすすんで読み書きを習おうというから、どれだけ熱心かと思いきや」
 心底あきれたという口調の先生に、サキは妙なうなり声を返します。
 声だけで判断すれば、ごく普通のやり取りなのですが。
「本当、貴女を御してるシオン君は尊敬しますよ」
 シオン?
 聞いたことのない名前です。
 響きの感じからするとパラミシア系の名前ですよね。男の。
「だってまあ、しーちゃんだし」
 返されるサキの言葉はどこか嬉しそうです。
 おまけに、ずいぶん親しげです。
「なら、せいぜい彼のためにもがんばりなさい。
 貴女の対応で、彼の評価が落ちるのは嫌でしょう?」
「え? あたしの対応でしーちゃんの評価って落ちるの?」
「……むしろ、上がっていってますね」
「でしょー」
 ちょっとムカッときました。
 誰なのでしょう。シオンって。前にいた学校の友人でしょうか?
 『付き合ったとしても、一番に優先することはないから。一番優先するのは仕事だったり、別の人だったりってこと』
 唐突に思い出したのは、サキと初めて会った時のことです。
 もしかしたら……その『シオン』とやらが、サキが優先する人なのでしょうか?
 そろそろ立ち聞きも疲れてきたので、さっさと教室に向かいます。
 いえ、建前だって事は分かっています。
 ただ聞きたくなかったのです。サキの口から『シオン』に関する言葉を。

 いつものように授業が進んで昼休憩をへてあっというまに下校時刻になりました。
 昼の休憩はあの二人がデートの首尾を聞いてきて大変うるさかったです。
 それでも、二人の乱入は気持ち的には楽になったので良かったのですけど。
 朝のことを聞きたいけれど、立ち聞きしていた身の上です。
 正面切って聞けるはずはありません。とても気になりますけど!
「随分気を使ってくれてるよね」
「え?」
 妙にしみじみとサキが言います。誰が気を使っているのでしょう?
「ヴィルくんとティーちゃん。アーサーと友達なんでしょ?」
「あ、確かに。前みたいにはちょっかい出されなくなったかな」
 前は本当に大変でしたもん。
 彼女ができれば変わるかなとは思っていましたが、現在は予想以上に効いてる感じです。
「んー。あたしも前の学校のままだったらこんなだったのかな。幼馴染いたし」
 反応してしまうのは仕方ないですよね。
 『シオン』というのは幼馴染なんでしょうか?
 とはいえ、あまり詮索するのも……
「サキ、もててたんじゃないの?」
「へ? ないない。むしろ関わるべからずって感じだったかな」
 苦笑交じりの返事は信じていいのでしょうか。
 本人は知らないけど……っていうのはありそうです。
 とはいえ。あの断り文句というか、条件がある辺りでもててたと思うのですが。
「そういえば、今朝アーサー早かったよね」
「え」
 思わず固まってしまいます。早かったって……
「あれ、違った? 教室から見えたのアーサーだと思ったんだけど」
「いや……違わないけど」
 見られていたとは思いませんでした。
 でも、まだ決め付けは早いですよね? 先生との勉強会の後に見たってこともありますよね?
「声かけてくれればよかったのに。って、先生いたから無理だよね」
 あははと笑うサキにあわせて苦笑しますが、内心は汗だくです。
 見られていたようです。ばっちり。サキに見られていたというのなら、先生にも?
「気づいてたんだ?」
「うん。ドアのガラスからちょっと見えてたから」
 自分のうかつさを呪いたくなりました。
「サキの声がしたから覗いたんだけど……補習?」
「ん。あたしまだ読み書きが怪しいから。
 会話だとジェスチャーとかで何とかなったりするんだけどね」
「僕が教えてあげようか?」
 するりと出た言葉に、僕自身も少し驚きましたが、結構いいアイデアです。
 確定ではありませんが、兄さんを脅すような人に近づいてほしくありません。
 兄さんを脅すために弟の僕を使うというのは考えられる話ですし、僕の彼女だからって理由でサキに被害が及ばないともいえませんから。
 あ、姉さんも気をつけてくださいね! 全寮制とはいえどこに危険があるか分からないんですから。
 僕の申し出に、サキはもともと大きな目をさらに大きくして見返してきました。
 あれ? 僕なにかおかしいこと言いました?
「わー、そこでやきもちやかれると思ってなかったー」
「や、その……うん、そうだね」
 やきもちにしか見えませんよね、そうですよね。
 照れるけれど、でもそうしておいた方がいい気がします。
 それ以外の言い訳も思い浮かびませんし。
 ……やきもちは、焼いてる自覚があります。別件でですけど。
「んー。気持ちはとっても嬉しいけど、止めるのはすぐは無理だと思う。
 学校でやってることだし」
「そっか」
 さすがにちょっと考えがいたりませんでした。
 個人的に頼み込んでのことだったら別なのでしょうけれど、そうでない以上無理ですよね。
 でも……
「週末の小テストの点数で補習内容が決まるみたいだから、次のテストでいい点取ればまた変わってくるかもね」
 慌ててサキを見れば、にっこりと微笑まれました。
「頼んじゃっていい?」
 それはつまり、小テストに合格するために僕にも教えてほしいということですよね。
「任せて!」
「頼りにしちゃうね」
 これで、はやく合格してしまえばすくなくとも先生との接点は減るはずです。
 『シオン』の方は……気にしない方向で行きたいと思います。……できる限り。