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ナビガトリア

【第八話 ときを越えて】 6.呪縛からの開放 そして

 考えうる限りのことはやった。
 今現在使える戦力は集めた。
 天才精霊術士に水属性最高の呼び名の高い魔導師。薄とも連絡を取れた。
 そしてあたしの千里眼。これはプラスになる。
 いっちょやったろーじゃないのっ

 轟音と共に床が砕ける。
 それでも何の動揺も示さずにプエラリアは重力にしたがって、下の階に着地する。
 着地のちょっと前に風の術を使って衝撃を和らげる事も忘れない。
 うーむ、やるな。
 そのとき、プエラリアの周囲を守っていたゴーレムの数体が、凍りつき砕け散る。
 術が放たれた方向を向き、静かに問い掛けるプエラリア。
「何者だ?」
 その面はとても静かで……それが余計怖い。
 陰気だっただけのその顔が、いまや得体の知れない恐ろしさをかもし出しているのだから不思議だ。
「PAの所属魔導士だよ。おとなしく観念してもらおうか?」
 ひょいと肩をすくめてシオンは返す。
「ほぅ?」
 嘲るようなプエラリアの顔。
 それも仕方ないだろう。今現在プエラリアの位置から見えるのはシオンのみ。
「それでは、お手並み拝見しようか?」
 そうして戦いは始まった。

 ゴーレムに混じって時折プエラリア本人が火の術を使ってくるが、シオンは難なくいなしている。
 だんだんと、焦りの混じるその表情。
 シオンとプエラリアの……もとい、シオンVSゴーレムの戦いは続いている。
 それにしても次から次へと作ってくれるなぁゴーレム。
 その分シオンがばしばし壊してるんだけど。
 何も無かった部屋は砕かれたゴーレムの破片だらけになっている。
 もちろんその間あたし達がほけーっとしている訳じゃない。
 作戦通りに動いているだけのこと。
 シオンが時間を稼いでくれてる間に、所定の位置についてくれないと……
 プエラリアの術が、シオンではなくただの壁を砕く!
 そこへ身を躍らせようとするプエラリア。
 ちっ やっぱり逃げに走ったか! でもそれは予想済みっ
 その瞬間、砕けた壁が見る間に元の形に埋められる。
 先ほど倒されたゴーレムの土によって。
 目を見張るプエラリアの頭上から、楽しそうな声が降る。
「外には出さないよ」
 やったのはもちろん楸ちゃん。精霊術士の面目躍如と言ったところか。
 天井に開けられた穴。
 つまりはさっきプエラリアが落ちた穴から、彼女は下を覗き込んでる。
「小娘っ」
 楸ちゃんに攻撃を仕掛けようとするプエラリアに、薄が切りかかる。
 うぉ、今まで隠れてたくせに、いきなり後ろから切りかかるなんて悪役みたいだぞ薄。
「こいつらをっ」
 ゴーレムに何かを命じようと口を開いた瞬間に、それらは精霊の干渉を失いただの土くれと化す。
 驚愕に、目を見開くプエラリア。
 立ち直る暇など与えないままシオンの術が、そして薄がプエラリアに迫る!
 氷の術を炎で相殺させれば、一瞬視界が白に染まる。
 そんな視界の利かない中でもプエラリアは薄の攻撃を避ける。
 でもその瞬間を待っていた!
 魔法は何も、いつも目の前で発動する訳じゃない。
 目に見える範囲で無いと、狙った位置に出現させにくいだけという事。
 ならば、使い手があたしのように透視の力を持っていたら?
 気づいた時にはもう遅い。
 あたしの放った風の術は狙いたがわず、プエラリアのポケットを切り裂く。
 ふふんっ そこに魔封石が入ってるのは分かってるんだいっ
 地面にばら撒かれる魔封石。
 悔恨の表情を浮かべ、拾おうと手が伸びたその瞬間に、地面ごと魔封石は氷に閉ざされる。
 プエラリアは形成不利と見て逃げ出そうとするものの、その足はすでに縫いとめられている。楸ちゃんの頼みに応えた、土の精霊によって。
 逃げ場の無いプエラリアに近寄る薄。
「こ……の……ッ」
 それだけ言って彼は昏倒した。

 気絶したプエアリアを取り囲んで、薄が少々気難しそうな顔で言う。
「ちょっと強く殴りすぎましたかね?」
 でもその声音はまったくといって良いほど反省の色は無い。
「死んでないでしょーね?」
「それは大丈夫ですよ」
 思わずジト目で言ったあたしに、悪びれない表情で薄は言う。
 一方シオンたちはせっせこと準備にいそしんでいる。
「じゃあ今の内に捕縛捕縛」
「瑠璃、ここまでカクタスと姫呼んで来てくれ」
「了解っす~」
 なんというか……すっごく楽しそうだなぁ。
 ま、入団一年目で凶悪犯逮捕なんてすっごく名誉な事だろうから、当然かな?
「にしても一対四? 考えてみれば数の暴力だよねぇ」
 思わず口を出た言葉に楸ちゃんがにこやかに返す。
「ゴーレムいたから問題なし! それに犯罪者だしー。
 凶悪犯に関して言うなら、出会った日が命日っていう捜査員だっているんだから。
 遠慮なんてしてられないよぉ」
「それもそっか」
 昏倒したプエラリアをせっせと縛りつつの言葉はなんかやっぱり怖いけど。
 でも確かに言ってる事は間違ってない。特にケガ人も出ずに終わってよかった。
 のびたままのプエラリアの顔を覗き込むと、額にはやはり深紅の魔封石。
 縛るために動かした拍子に、それが綺麗にはがれて床に落ちる。
 コーンと音を立てて、まるで砂のように崩れて溶けた。
 封じられていた魔力が尽きたんだろうか?
『終わったな……』
 しみじみと呟かれた言葉に、あたしはのほほんと返す。
「まだまだ。あんたが元にもどんないとね」
『そうか。……そうだな』
 さて、後は本当に戻るだけ!
 ここまで長かったけど、ようやく終わりが見えたぞ。
 あとは姫が来るのを待つのみ。

 瑠璃君に連れられて姫が来てくれたのはすぐの事だった。
 そこでまず、楸ちゃんと姫にくっついてきた金髪の男の子がプエラリアを担いで地上に向かって、それを見送ってあたし達は最下層、アポロニウスのいる場所へと向かった。

 暗くよどんだ空気。
 あたしの言葉に従って、薄が重い扉を開く。
 部屋の中にシオンが光を呼び出す。
 しらじらとした光に照らされて、部屋の様子が浮き上がる。
 床には仰々しいほどの魔法陣が描かれている。
 その周囲には実験に使ったのだろうか。
 魔法の道具がいくつかと、たくさんの本が散らばっていた。
 魔法陣に入らないところで立ち止まり、中央に立っている一体の石像を見上げる。
 何も知らなければ、よく出来てるな~と思うような石像。
 その顔をまじまじと眺めて、あたしは素直な感想を漏らす。
「へぇ……なかなか優男っぽい」
 その言葉に、何故か薄とシオンが肩を落とす。
「『いい男』じゃないんですか公女」
「かっこいい部類には入ると思うけど、なんか中性的っぽいし。
 それになんでか長髪だしさ」
「優男ってほめ言葉ですか?」
 あれ。言われてみればどうなんだろう?
「ホストみたい?」
「否定はしませんけどねぇ」
『ほすと?』
「二人ともさ、本人いるのにもーちょっと言いようが無い訳?」
 う。シオンの言う事は最もかも。ちょっと言い過ぎかもしれない。
 あんまり色々言ってると、後ろのお師匠様こと姫が怖いし。
 そんな訳で、あたしは石像を見上げつつアポロニウスに聞いてみる。
「で、本人どーなの?」
『どうなの、とは』
「自分に間違いないかって聞いてるの。
 確かにこれは石にされた人間だけど……
 本当にアポロニウスかどうかは、あたし達じゃ分からないでしょう?」
 あたしの問いかけに、アポロニウスはしばし沈黙した後。
『……だったかな?』
「自分の顔くらい覚えてなよ」
『どのくらい前の話だと思ってるんだ』
 あきれたように言うシオンの言う事はもっともだけど、アポロニウスの反論ももっとも。
 どっちにしても埒あかないけどね。
「姫、どう?」
 後ろを振り返って聞いてみれば、真剣に石像に見入っていた姫がこくんと頷く。
「アポロニウスさん、だと思います」
 だと思う、ね。
『何で自信なさそうなんですか師匠』
 声を少し震わせて問い掛けるアポロニウス。
 自分が忘れてるくせに、師匠に忘れられてるのはショックなのか?
 まあショックだろうけど。
 そんな弟子に彼女はほわんと笑って答える。
「成長期の子供ってすぐに変わっちゃうでしょう?」
『……一応成長期の終わり頃でしたが』
「顔の輪郭とか目元とかに両親の面影ありますし、多分本人でしょう」
『弟子の私よりも父や母のほうを良く覚えてるんですね』
「名づけ子たちですからね。それにすべて覚えたまま長生きは出来ませんよ」
 んーと唸っての姫言葉にあきれたようにアポロニウスがため息をつく。
「じゃあ戻してみましょうか」
「え。そんなすぐにできるの?」
「準備はしていましたから」
 にっこりと笑って、荷物から色々な魔法の道具を取り出して準備しつつ姫は言う。
「さ、少し離れてくださいね。あとアポロニウスさんはこちらに」
「うん」
 イヤリングをはずして姫に手渡すと、あたし達は魔法陣から数歩離れる。
 逆に姫はそのまま中に入り、石像の前で立ち止まる。
 冷えた空気の中を、唄のような呪文が流れる。
 描かれた魔法陣のさらに上に、光の魔法陣が描かれた。
 朗々と流れる呪文。周囲に濃厚に満ちる、でも圧迫感は無い魔力。
 光のカーテンが二人を包み。
 パンと手を打ち鳴らす音。
 光がはじけて、そのまぶしさにあたし達は目を閉じた。