【第八話 ときを越えて】 5.緊急作戦会議
ため息一つ。ぱんっと両手を打ち鳴らす。
「さて、ひととおりボケ倒したところで」
こぶしを握り締めたあたしの前に神妙に座ってるのはシオンと楸ちゃん。
もちろんきっちり正座をさせてる。
いまだに頭をさすってる辺り、結構痛かったと思う。
このままだといつまでも漫才繰り返しそうだったから、とりあえず腕力で黙らせてみたものの。あたしの手まで痛いからもう止めよう。
「現在の状況確認。この遺跡の中にアポロニウスを狙ってるプエラリアはいます。
それを何とかして出し抜いてアポロニウスを真人間に戻しましょう。以上」
「出し抜いてって、そんなことできるんすか?」
「捕まえちゃった方が早いんじゃない~?」
「そう簡単に捕まえられるかっ」
あたしの説明に三者三様の答えが返る。
本当に真面目に考えてるんだろうね? この子らは。
「仮にも凶悪犯なんだぞ。それに俺達実戦なんてほぼ初めてだろーが」
「それはそうだけど~」
「……普段の魔法合戦は戦闘じゃないんすね……そーなんすね?」
遠慮気味に訴える瑠璃君がなんか涙を誘うなぁ。
対策は二人に任せて、あたしは時折千里眼で地上の様子を伺う。
まず見るのは地上の状況。確かに楸ちゃんの情報どおり姫がいる。
その姫のそばでとーさんが不安そうな顔をしている。
あっちにプエラリアが向かっていってもまず大丈夫だろう。
「安心して元に戻るにはやっぱり捕まえた方がいいと思うよ~」
「それはそうだけど……ここにはまだ一般人がいるって言うし。
あんまり無茶はしないほうがいいんじゃないか?」
「そこなのよねぇ」
相槌を打ちつつ、今度は遺跡内部を透視する。
プエラリアの位置を見失ったら大変だし、薄たちは……見つからないなぁ。
「じゃあさ~。一般人の避難待つ? いつまでかかるか分からないけど」
「逆にプエラリアをおびき寄せられないか?
アポロニウスを狙ってるんだろ?」
『そうだな……だが、素直に来てくれるかどうか。
第一、奴がすぐに決着をつける気でいたなら、今こうしていられなかっただろう?』
「そっかー。一般人がいること知ってるんだもんね~。正攻法で来ないよね~」
うんうんと頷いて、楸ちゃんが首をかしげる。
「仮に上手くおびき寄せたとして、作戦あるの? いい戦術とかないの?」
「プエラリアって、基本は魔導法使うんだよな。
ってことはもしかしてねーちゃんみたいに詠唱無しで術使えるとか?」
『奴はこちらに手の内を見せてないぞ。襲ってくるのはゴーレムが主だったからな』
「ゴーレムに関しては作らせないようにできるよ?」
「いや……最初から作らせないんじゃなくて、戦闘途中に一気に崩す方が隙を作れないか?」
「あ、そっか~。でも、あたし今回あんまり役にたてないよ?
ここだと土の精霊くらいしかいないもん」
「たまには杖使え、杖! お前も一応属性魔法使えるんだし、魔導士の端くれなら!」
「属性魔法って、めんどいんだもん~」
なんかあたしひとり置いてきぼりな気分……
というか、本当にPAの捜査員なんだ~とか、見当違いなこと思っちゃうよ。
立派になったねぇ二人とも。
にしても、薄たちは相変わらず見つからない~っ どこ行ったあいつ~っ
避難し終わったら回収しようと思ってるのにーっ
「ねーちゃんも何か意見出して!」
「はぁ?」
何言ってるんだかこの子は。
視界を通常のものに戻して煮詰まった様子のシオンを見る。
「PAは凶悪犯の逮捕が使命よね?」
「そうだけど?」
問いかけに、何を当然といった様子で返すシオン。
……プロ意識が欠如してるなぁ。
「あいつらを捕まえるのはあんたらの仕事。
それにあたしの目的は『アポロニウスを真人間に戻す事』であって、『プエラリアを倒す事』じゃないの。
どんだけ情けなかろうが、ずる賢く立ち回って目的さえ遂げられればいいの」
キッパリと断言したあたしに、シオンは深いため息。
そしてなぜか楸ちゃんはわくわくした瞳を向けてくる。
「もしかしてこーちゃん惚れた? 惚れちゃった?」
『は?』
「って……アポロニウスのこと?」
「この話の流れで他にいるわけ無いよ~っ で、どーなのどーなの?」
「うーん」
惚れたかって言われても……
自慢じゃないがあたしは恋愛なんかに縁がない。
そりゃあ気になる人とか憧れの人とかはいたけど、よくドラマや小説で描かれるような『恋』はした事はない。ある程度成長してからは、嫌でも相手の思惑なんかが見えてきたせいもあるかもしれないけど。
薄以外でこれだけ長く付き合っているのは多分アポロニウスが最初だろう。
しかし惚れたかって言われてもねー。
まったくオンナノコはこの手の話が好きだったら……ってあたしも女だけど。
「……もっと凛々しければねぇ」
「あのねこーちゃん。真面目に答えなくていいから。
ちょっと照れるくらいのリアクションを期待してたんだから」
ため息混じりにしみじみといえば、何故か真顔で諭される。
『……凛々しくないか……まあ、確かに、そうかも、な』
発音おかしい上にやたら暗いぞアポロニウス。
凛々しくないって……悪口になるか、やっぱり。
でもそれなりに理由はあるんだぞ。
「だって薄よりはましだけど嫌味っぽいし、お師匠様関連になるとすっごいヘタレになるし。今回の事だって何度あたしが守ってあげたことか。
オヒメサマ願望はないけど、ヒロイン役を男に取られるのも結構やなもんよ」
「はいはい話をずらさない!」
今回話の脱線を修正したのはシオンだった。
「まずねーちゃん」
「はいはい?」
「プエラリアはどこにいる?」
「正確な位置を言うのは難しいけど……一階上のあっちのほう」
指差した先を目で追って、シオンはもう一度聞いてくる。
「発掘隊の人はまだ脱出しきれてない?」
「そうね……」
もう一度見てみる。探すの大変だし、待機組を見てみるか。
姫のいる辺りを透視してみれば、さっきより明らかに人数が増えていて。
「えーと……二人……で、梅桃ちゃんと灰色の二人が捜査員なのよね。
お、全員揃ってる?」
「本当?」
「ん。間違いない」
薄の姿が見えないのは、多分こちらに向かっているせいだろう。
これで人質をとられる危険は無くなった!
ふぅんと思案気な顔をしてシオンが言う。
「だったらこんな作戦どう?」
そうして、打倒プエラリア・ロバータのための作戦会議が大急ぎで始まった。