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ナビガトリア

【第八話 ときを越えて】 3.ピンチ!

「プエラリア・ロバータ?」
 あたしが口に出すと、ベリングはにやりと笑った。
 爬虫類のような、その笑み。
「なるほど……スノーベルの本家ともなれば、優秀な護衛がいて当然か」
 声は違う。今まで聞いたものの方がよっぽど高かった。
 でも、呼吸というか間というか、それはよく似てる。
「どーいうことよ! だって顔違うわよ?!」
 違うといって欲しくて問い詰める。
 本当は分かってる。そんなはずはないと。
 薄は人の心を読む術がある。そんな彼がこんな状況を嘘をついてなんになる?
 あたし達のやりとりに、とーさんは狼狽したような顔でベリングを見ている。
 とーさんだけには今回のいきさつは全部語ってる。
 こんな簡単に近寄られると思っていなかったんだろう。
 あたしも薄も警戒してたから、大丈夫だと思ってた!
『魔法で変えてたんだろう』
 苦虫を噛み潰したようなアポロニウスの声。
「だったら見破れないはずが」
「整形したんでしょう」
「あっ」
 薄の言葉でようやくその可能性に気がつく。
 そうだ、整形だったらいくら透視したってわかんない。
 そりゃ頭蓋骨の形からなら分かるだろうけど、そこまでしないし。
 ああああっ 相手が魔導士だからって魔法ばっかりに気をとられてちゃ駄目なんだっ
「さて、最後の取引といきましょうか」
 静かな『プエラリア』の声。
 どうするコスモス? この場をどうやってやり過ごす?
「ソレの本体の在り処、教えていただけませんか?」
 通路じゃ逃げ場が無い。必死にこの遺跡の地図を思い出す。
 どこか、迎え撃てるような場所は?
「そうね……答えは」
 意味ありげに微笑んで、魔封石から力を呼び出し自分の足元へと解き放つ!
「な!」
『うわっ』
 びっくりしたのはとーさんとアポロニウス。プエラリアの表情は変わらなかった。
 床材と一緒にそのまま落下して、着地したら一気に走り去る!
「とーさんはやく!」
「お…おお!」
 遺跡の奥へと逃げるあたし達に、何故かすぐに追っ手が差し向けられる事は無かった。

 通路を走りつつ、透視を繰り返す。なんとしても迎え撃てる場所を探さないと!
 そして問題は……
「薄」
「はっ」
「とーさん連れて、ここから逃げて」
「はぁ?!」
 異を唱えたのは無論とーさん。
「コスモス何考えとるんだ! 娘を置いて」
「魔法使えないような奴は黙ってて!」
 あ、傷ついた顔してる。言い過ぎたかな?
「ローウェルさんたちと合流してとっとと逃げて!
 あの人たちを危険に晒してもいいの?! 人質に取られる可能性高いでしょ!!」
 続けた言葉にとーさんがはっとする。
 最悪の事態は彼らを人質にとられること。
 そうなったら多分助からない。
 彼らもアポロニウスも、無論あたしも。
『しかしお前一人で耐え切れるのか?!』
 黙りなさいなオヒメサマ。あんたはおとなしく護られてればいいの。
「大丈夫よ。助けは呼ぶから」
「分かりました」
 すんなり返したのは薄一人のみ。
 アポロニウスやとーさんと違って聞き分けがいいったら。
 それとも一応信頼されてるのかな?
「公女、ご武運を」
「そっちこそ気をつけて」
 そうしてあたし達は別れる。
 走るのは正直しんどいけどそうも言ってられない。
 薄がいればローウェルさん達を見つけるのも難しくないだろう。
 壁だろうがなんだろうが壊して最短距離で合流して、さっさとここを脱出して欲しい。
 行き止まりの扉を開け放ち、光を呼ぶ。
 教室ほどの大きさの部屋。ここなら動き回れる。
 中央に置かれた朽ちかけたテーブルを、邪魔にならないように端に寄せてスペースをとる。
 ここが決戦の地。
『コスモス』
「大丈夫よ。負けたりなんかしてやらないから」
 呼吸を整えて来た道を『見る』。
 見えるのは悠然と構えたプエラリア。
 彼は右手に持った小ぶりの魔封石をひとつひとつ床へと落としていく。魔封石が床に触れた瞬間、それを核にして床の石が寄り集まり、ゴーレムが生まれ出る。
 大きさは大体人と同じくらい。そんなゴーレムが十体近く生み出されている。
 ゆっくりと歩むプエラリア。ゴーレムを引き連れて歩く姿はまるで王者のよう。
 いいわよねゴーレム使いは! いくらでも手駒を生み出せるんだから。
 でもあっちが戦力作るなら、こっちも呼び寄せればいいだけのこと!
 風の石を使い切って、あたしを護るように強固な結界を築く。
 これでしばらくは大丈夫。
 まるでそれを待っていたかのように、通路の先にゴーレムが現れた。
 懐から一個の大きめの魔封石を取り出す。
 集中するために瞳を閉じて呪文を詠唱する。
「応えよ。魔を封じし石よ。秘められし力、今解放せん」
 魔導法で詠唱するなんて滅多に無いからとちらないか心配だし、重い石が動く音がだんだん大きく、増えていってるのも嫌な感じだけど。
 集中しろ! あたしが失敗したら元も子もない。
「我と血を同じくする者。彼の者を呼び寄せよ」
 椿だけが使える身内限定召喚術。その力を封じた石を握り締める。
 ほんのりと熱を帯びる石。
 この術がすごく便利そうだったから、ためしに空になった魔封石に術を封じてもらったんだけど。
 実験の結果は――成功。
 いつか来るプエラリアとの戦いのために仕舞い込んでた奥の手。
 間に合え! いや間に合わせる!
 『支配者』の異名を持つ彼を呼ぶために。
「遠き地に在る我が血族。今招け!」
 そうしてあたしはその名を呼ぶ。それと同時に光が溢れた。

 まぶたの向こうから貫いてくる強い光。
「あーもう!」
 聞こえたのは耳慣れた……それよりは多少低くなった声。不機嫌そうに怒鳴って。
「椿姉! なんでいきなあああああっ?!」
「なんすかーっ」
 文句の言葉は絶叫に取って代わられた。
 そだね。目の前にいきなり石人形出てきたらびびるわな。
 そこでようやっとあたしは目をあける。
 黒の、どこかクラシカルなローブ。刈入れ時の麦穂の色の髪。
 右肩につかまった使い魔が泡食っている。
 しかし彼はすぐに立ち直って声を張り上げる。
「英知を封じし腕輪よ。その片鱗をここに示せ! いでよ我が杖スペルビア!」
 呪文に応えて光を伴い呼び出される青い宝珠を抱いた杖。
 それを両手で構えて力強く唱えられる呪文。
 少し大きくなった後姿に、離れていた時間を思い知らされる。
 にしてもなんだそのスピードは!
 ものすっごい速さで魔法陣が描かれてるんだけど!?
 いくら弱い……短い術だからって早すぎだろ!
「コンゲラーテ!」
 言葉と共に杖を振り下ろせば、ゴーレムの数体が凍り付いて一瞬にして砕け散る。
『な……』
「い、一撃?」
 思わず口から言葉が洩れる。
 あんなに短い術で、こんな攻撃力持ってるはずは無い。
 ってことはオリジナル?!
 うっわー目離してるうちにものすごい事になってるよ!
 あたしに気づいた彼がこちらを振り向く。
 幼さを残した意志の強い、でも不機嫌丸出しのその顔。
 桔梗の花の色の瞳があたしを鋭く見据える。
「で、説明してもらおうか?」
 杖を持って仁王立ちになったまま、シオンはそうのたまった。