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ナビガトリア

【第六話 遥けき彼方の地へ】 4.対決

 森をしばらく歩くうちに、開けた場所に出た。
 そこは大きな木の前で、辺りにいるのはエルフばっかり。
 うわー。なんて言うか壮観。
 美形大集合って感じ。芸能人がみんな普通の顔に見えるくらい、みんなキレー。
 思わずほうけていると、杖を手にした青年エルフが問い掛けてきた。
「何をしに来た。末姫」
 見目がよろしいからといって性格はそうといえない、か。
 つーか、もろ喧嘩口調。これ以上ないってくらい冷たい声。
 末姫ってのは姫のことなんだろう。
 姫~大丈夫って言ってなかった~?
 あんまりな歓迎態度に、ちょっと恨めしげに横目で見れば、いつものにっこり笑顔のままで姫は応じた。
「随分ないいようですね。
 曲がりなりにも年長者には、ある程度の敬意を表すものですよ」
 その言葉に押し黙るエルフ。
 もしかしてこれが長老さん? 若いじゃん。
 あ、そーか。ハイ・エルフは寿命なんて無いんだもんね。
 ……というか、やっぱり姫のほうが年上なんだ?
 長老エルフは姫を睨みつけた後、忌々しそうに口を開く。
「で、何の用だ。謝罪にでも来たのか?」
「あの事に関しては謝る気はありませんよ。元々アレの起こした事です。
 こちらも散々な目に合わされたんですから、正当防衛ですよ。
 被害者面しないでください」
 被害者面……姫がンな言葉使うっていうのも気になる。
 けどっけどっ 何あんたらいきなり火花飛ばしてんの?!
 話題についていけないって言うか、辺り中エルフなのにっ
 敵に囲まれた状況なのに、喧嘩買ってる姫がすごい。
 どうしたもんかと薄を伺えば。
 おお。薄が、あの薄が固まっている。
「今日は別件です。ラオネンさんという方に面会したいのですが?」
「彼女になんに用だ?」
「昔彼女がしたことについて、お話が」
「なんだと?」
 顔はあくまで微笑を保ったまま、でも眼は……敵を見る目って感じ?
 声もいつもより低いし。
 いつもほんわか、あったか。な姫はどこに行ったの~!?
 そんな感じでかなりパニックに陥っているあたしの耳に重々しい呟きが届いた。
『……あーなった師匠はもう止まらないぞ』
「……そうなんだ?」
『あの人は優しいんだけど……その実すっごく厳しい。容赦ない』
「前に聞いた気がするわその台詞」
 師匠ってどんな人だったの? と聞いたときに、アポロニウスが口をつぐんだ気持ちが今ならわかるよ。
 ああ。人間不信になりそう……
 エルフの長老はあからさまな嘲笑を浮かべて。
「たかが人間を一人封じた事か。禁忌の森に入ったのだからその程度は当然だろう」
 アポロニウスを封印したって言う事は知れ渡ってるっぽいなぁ。
 でもちょい待て。禁忌の森?
 そんなとこに入っていったのなら反論できないかも。
 ……たかが人間ってのには腹立つけど。
「それはあなた達の使う常套手段ですよね。
 森に入られたから仕方なく封印した。それですべて済ませようとする」
 ふっと姫が笑みを浮かべる。
 それはあたしが今まで見たこともないくらいに綺麗で……冷たい笑顔。
 死の天使ってこんな顔で人に引導渡すんだろうか。
「残念ながら、あの時代には禁忌の森なんて存在しないんですよ。
 空白の四百年。知らないとは言わせませんよ」
 頼りになります姫。良かったねアポロニウス。責任持ってくれるお師匠様で。
 でもできればあたしは……優しいだけの姫だけ知っておきたかったなぁ。
 言われて長老エルフは口をつぐむのみ。
「封印の事をまったく知らないというわけではなさそうですね」
 確認の言葉にも黙して答えない。
「どこまで知っているかは知りませんが、それでも自分達に非はないと?
 人を勝手に封印しておいて?」
「だからあれほど人間と関わるなと言ったのに」
 質問には答えず、吐き捨てるようにいう彼に、姫は冷たい眼差しを向ける。
「人間がすべての害悪ですか……」
「そうだ。そもそも人間は我らを」
「いつまで過去の事を言えば気がすむんです?」
 長老の言葉を遮って姫は言う。
 確かに彼のいうとおり人はエルフを迫害した。
 でも姫。人とエルフの時間の感覚の差はあるだろうし、記憶が生々しくても仕方ないかなとも思うよあたしは。
 とはいえ、それがアポロニウスを封印していいって理由にはならないけどさ。
 それでも姫は言葉を紡ぐ。ほんの少しの非難の色を込めて。
「人間に虐げられた? 実力を出せば歯向かえない事はないでしょう?
 現に、人間が増えたからと言って自ら捨てた大陸を、武力で奪い返しもしたのに?」
 んな事あったの?! エルフって平和主義者じゃなかったんだ……?
「エルフは間違いを起こさないと? 必ずそちらが正しいとでも?」
 うひーっ 姫が怒ってるッ こわいよぉっ
 恐怖で逃げ出したい気持ちはたくさん。でも足が動かない。
 誘拐されかかった時より怖いってどーゆーことよ?
「何を」
 言い返そうとした長老を、他のエルフが手で制した。
 壮年の域に達した男性のエルフが姫に問い掛ける。
「何故あなたがそこまで怒る? 人間のために」
 そう。姫はたった一人だけ残った古代種。
 はるか昔……人に滅ぼされた種の最後の生き残りだといわれている。
「確かに彼は人間ですけど、私が名づけた子の子供で、弟子でもあります。
 『わたしたち』が情が深いのはご存知でしょう?
 私も、その一人なのですからね」
 あたしには意味はさっぱりだけど、エルフの間に緊張が走るのだけは分かった。
 姫の眼差しが辺りを取り囲むエルフを順に捉える。
「今更罪を償えとはいいません。時間はどうやっても戻す事は出来ないのですから。
 ただし、この子の『未来』は返していただきます。身体をどこに封じたんです?」
 お……怒らせちゃまずい人No.1だ……
「……分からぬ」
 一人のエルフが引きつった声で答えた。それを皮切りに口々にエルフが叫ぶ。
「世がどう移ろったか、我らには知る意義がなかった!」
「ラオネンはもう年だ」
「無茶はさせたくない」
「そんなことは聞いていません」
 その一言に、静まり返る。
 そんなにすごいものなんだろうか、姫の力は。
 彼女は『教えなければ……』とは一言も言っていない。
 ま、言外に『うちの弟子に何してくれたんだ、覚悟は出来てるんだろうな?!』くらいのは匂わせてるけど。
「どこに、もしくは何に封じたんです?」
「い……石に……石像にした、と聞いたことがある」
「身体をそのまま石にしたと……」
「そうですか。分かりました。それではそろそろお暇します」
 言い捨ててあたし達の方を振り返る姫をエルフが口々に呼び止める。
「お待ちくだされ!」
「末姫様! どうか我らを……」
 その言葉が途中で止まる。姫の眼差しに射抜かれて。
 エルフを一瞥して姫は左手を振る。

 一瞬にして描かれる魔法陣。奇妙な浮遊感がして――