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ナビガトリア

【第六話 遥けき彼方の地へ】 2.原因の究明

 お茶は美味しいけど。やっぱり飲みすぎるとね~。
 薄暗い廊下をあたしはのんびり歩く。光源は窓から入る日の光だけ。
 歩くたびにきしきしと床が鳴って結構面白い。壊れている訳ではなく、人が近づいた事を知らせるためにわざと鳴るように作られたという。
 はてさてどうやって話を切り出そうか?
 結局近況報告ばかりでまだ本題に入れてないし。
 とはいえ時間もあるし、のんびりしててもいいかな?
 そんな風に思いつつドアをあける。
「お待たせ……って」
 テーブルにはいつも通りにこやかな姫と、人間なら冷や汗たらしまくりって感じのアポロニウスと……一生懸命笑いをこらえている薄の姿。
「薄、なんかあったの?」
「いえ、何も?」
 アポロニウスを一瞥してすまして応える薄。
 あやしーなぁ。
 あたしがトイレにたった間に一体何があったんだか。
 ちろりと目をやると姫はにっこりと微笑を返すのみ。
 アポロニウスの反応はよく分からないけど……お説教か何かされたかな?
 それはそれとして一応あたしは席につく。
「いろんな方から一応聞いてはいるんですけど」
 新しいお茶をカップに注ぎつつ姫は言葉を続ける。
「当事者のお話も聞かせてもらえます?」
 アポロニウス関連の事、か。
 にしても……色々姫に話してくれてたんだったら、さっさと教えてくれてればよかったのにさ?
 カップに口をつけ、喉を潤してからあたしは話し始めた。
「そもそものはじまりは……」

「そんなことがあったんですか」
 ポツリと呟き、姫はお茶のカップを脇に置いて両手を組む。
「アポロニウスさんを狙って……」
 弟子が狙われたと言うのはやっぱりショックだったのだろう。
 うつむいて呟いた後、でも……と続ける。
 視線はテーブルに置かれたままのアポロニウスを見つめて、ちょっと呆れたような声音でいう。
「一人旅をしていたんですから、もっと周囲に気を配るなりしないとダメじゃないですか」
『ごめんなさいすみませんおっしゃるとおりです』
 腰低ッ
 しかも声震えてるし!
 立場よわいなぁアポロニウス。
 いやそりゃお師匠様相手だからかもしれないけどさ?
「あなたが一人で大丈夫だと言われたから送り出したんですよ?
 まさかそんな目にあってるだなんて……ラティオたちに申し訳が立ちませんね」
『すみませんごめんなさい親不孝者です』
 なんつーか……見てて情けないよアポロニウス……
 あたしがいない間もこうやってお説教食らってたんだね。きっと。
 ラティオって誰だろう?
 とか思わなかった事もないけれど、お説教の最中に茶々を入れるのもなんなので黙っておく。
 ……とはいえ、今は他人事だからいいけどさ?
 もし。もしもあたしがこの旅の最中に大怪我なんかしたりして、それが知られたりしたら……きっと待っているのは同じことだろう。
 というか、お説教を受ける相手がおばーちゃんに換わる分怖いかもしれない。
 その後も二言三言姫はお説教を続け、アポロニウスが殊勝に返事をして。
「戻ったら一から鍛えなおしますからね」
 この言葉で締めくくると、なぜかしばし間を置いて。
『…………分かってます頑張ります精進します』
 心なしか震える声で彼は答えた。
 でも何でそんなにおびえるんだろう? 姫って基本的に優しいのに。
 話はここまで、といった感じで姫はカップを手にとりお茶を飲み干す。
「アポロニウスさんがそうなったのはエルフの方によるものですよね?」
『はい』
 確認の問いに、傍観者に徹していたあたしもアポロニウスに少し遅れて頷く。
「スミレ叔母さんに見てもらったからまず間違いないと思うけど」
「そうですか……」
 にこやかだった顔は一変して真剣なものに変わる。
 ……いっつもこうだったら『威厳がない』なんて言われないのかなぁ?
 でも、笑顔がない姫ってやっぱりなんか変だし。
「場所などはわかりませんか?」
『残念ながら。あの時期の記憶が一部とんでいるので』
 アポロニウスの言葉に姫は思案気に呟く。
「でも……精神と肉体とを分離して、それぞれを封印する……
 そんな真似が出来るなんて」
 確かに。いくらエルフとはいえそんなに簡単に出来るものなのだろうか?
 それに……嫌な話、分けることは出来ても戻す事はできないといわれる可能性だって高い。合成獣なんかはその典型だしね。
「そーゆー術者に心当たりあるの?」
「いえ。ただ……」
 そこまで言って姫は黙り込む。
 どこまで話していいものか。そういう感じの沈黙。
「アポロニウスさんを狙っていた相手のことは何かわかりましたか?」
 結局は話さない事にしたらしい。
 ちょっと不満だけど、気持ちを切り替えて質問に答える。
「なーんにも。あれから一度も何もないし」
「ないようにしてください」
 いわれて思い出したってくらいだもん。今までの行程は順調だったし。
 でも、相手がそれを狙ってるって可能性もあるっちゃーあるんだけど。
「何か言ってました? 目的とか」
「ん?」
 目的……目的ねぇ。そういえば何かいってたような気がする。なんだったかな?
 一生懸命記憶を辿って何とか思い出す。
「確か……目覚めさせたいものがあるとか、アポロニウスの中身は関係ないとか」
「そう……ですか」
 そんな感じで答えたあたしに姫は重々しく答え、小さな……聞き取るのがやっとの声で呟いた。
「……また、か」
 何が?
 聞き返そうとした時に、姫は何気なく髪を掻き揚げて。
 ぱちんっ
 小さな音と共に、一瞬だけの強烈な魔力。
 何かの干渉を遮断した。
 それが分かって、ようやくその可能性に辿り着く。
「覗かれてた……?!」
 沈黙を持って答えとする姫。
 しまったうかつだった! あの時だって覗かれてる感じがしてたのに!
 今回気づかなかったのは相手が巧妙だったか、あたしが舞い上がってたせいか。
 でもあっさり気づいて撃退しちゃうなんて、流石賢者様っ
「一刻も早くそのエルフに会いに行ったほうがいいみたいですね」
 姫の言葉には諸手をあげて賛成したいのだけれど。
「でもすぐにいけるものなの?
 そこ行きの船って年にあるかないかくらいじゃなかった?」
 元々人とは交流がないしさ。
 早く行きたいのは山々だけど、交通手段がないことにはねぇ?
「準備とか必要です?」
「え? 別にないけど?」
 あたしの答えににっこり微笑んで。
「なら少々お待ちくださいね」
 アポロニウスさんもちゃんと持っててくださいね。
 そう言い残して姫は隣の部屋へと入っていき、ノートくらいの大きさの木の板を持ってかえってきた。
「掃除中?」
 確かにそう書いてある。手書きだけど。
「ええ。これをかけておけばしばらくは大丈夫でしょうし」
 言いつつも、部屋の入口のドアノブにひょいとかける。
 何が大丈夫なんだろう? しばらくって?
 疑問に思いつつも言われたとおりにアポロニウスを身に付けて、姫の反応を待つ。
「これで準備もいいですし、行きましょう?」
 手招きされて、てとてと近寄るあたしに習って薄も近寄る。
 あたし達が近寄ったのを確認して姫が左手を軽く振った、その瞬間。
 床に一瞬のうちに魔法陣が描かれ、視界がぼやける。
 ふわりと浮き上がる感覚の後、いつもより強く感じる重力。
 そう、ちょうどエレベーターに乗った時みたいな感覚がして。
 最初に感じたのは濃厚な緑のにおい。
「え?」
 部屋には小さな鉢が置いてあっただけのはずなのに。
 次に視界がようやく焦点を結び始める。
 淡い色、澄んだ色、濃いもの……ありとあらゆる緑。その一色のみが目に映る。
 鳥の鳴き声が聞こえた気がした。
 木々の間を流れる風。
 気がつけばあたし達は森の中にいた。