【第四話 痛手からの回復】 1.記憶を辿れば
そのエルフに初めて会ったのは小さな宿場町だったと思う。
師匠と別れ、一人旅にようやく慣れてきた頃のこと。
正直それまで一人旅がこんなに大変だと言う事なんて知らなかったけれど。
いくつかあった宿の中で適当なところに落ち着き、食事か何かとっていたと思う。
店内はうるさくない程度ににぎわっていて雰囲気は悪くなかった。
何か祝い事でもあったのかしきりに乾杯を繰り返す集団はいたが。
ざわめきが変わったので戸口のほうを見てみれば、そこには数人の男女がいた。
使い込まれた鎧に身を包んだ戦士や魔導士らしき服装のもの。
世間一般で「冒険者」と呼ばれるたぐいの人間だろう。
こんな田舎だとその存在自体が珍しいのかと納得しかけ、しかしその推測が間違っていた事を知る。
冒険者のパーティの中に女性のエルフがいた。
ああ。それでと納得がいった。
アポロニウスも単純に「珍しいな」と思ったから。
多くのエルフは人嫌いで住処である森から出てくる事は無い。
視線をやったのはごくわずかな時間。
エルフを見たのは初めてではなかったから。
他の客はその神秘的な姿に目を奪われていた、と思う。
人とは違った美しさ――例えて言うなら絵画のような、現世にはありえないようなそんな美しさがあると語ったのは誰だったろう。
そこまで言わなくてもまあ綺麗だとは思う。どこと無く儚さを感じさせるような美しさ。
けれど儚さをいうのなら。
中身を関係無しに外見上で判断するのなら、師匠に軍配が上がる。
そして絵画のような美しさと言うのならば母の友人。
高貴と言うかなんと言うか……例えは難しいが、肖像画を持って訊ねれば十人中十人とも「綺麗」と言うだろう。
心の中でそう判断してすぐに興味を失った。
正直あまりかかわりあいたくは無いと思っていたし。
かつて会った事のあるエルフは斜に構えた物言いといい、どこと無く高圧的な態度といいアポロニウスにいい印象は与えなかった。
冷淡なその態度に少々……いやかなりムッとしたものの、元を正せば大昔に人間がしたことに関係するので気にしないようはしたが、気持ちのいいものじゃあない。
師匠の知り合いだから。『師匠のお客様』だからこそ、弟子である自分は何も言えなかったのだけれど。
そんな風に興味を失った私のところになぜか彼女はやってきて。
「こんばんわ♪」
そう言って隣に座った。
これが、ありがたくも無い出会いだった。
今までのエルフと違ったのは彼女がちょっと……いや、かなり変わっていた事。
私の行く先々に現れ奇妙な話をしてこちらの話は一切聞かない。
わずかな時間共に旅した相手に「そのエルフに好かれているんだ」と言われても到底信じられなかった。
それが……この姿になったのがあいつのせいだったなんて……!
腹が立つことこの上ないが、元に戻るにはエルフの助力が必要だろう。
正直エルフそのものに拒否反応を起こしそうだが。
まぁあのエルフが規格外なだけだろうし。
そうわずかな希望を抱く。元に戻るためにも。