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ナビガトリア

【第一話 天文黎明】 4.呪いの石?

 町の名前ならヒュプヌンリュコス。はるか昔に英雄が拓いた街。
 国の名前ならパラミシア。童話と妖精と女王サマとそして魔法の国。
 だから街中に魔法が溢れててもおかしくないわけで。
 むしろうちは魔法使いの一族だからごく普通に魔法に接してて、むしろ魔法がないほうがおかしかったりする訳で。
 呪いの品が実在する事も確かで。呪われたりなんかしてもおかしくないわけで!!
 ってか呪われたらまずいだろー!?

 かなり混乱したまま廊下を行くあたし。
 ああもうっ 何でこんなに無駄に広いんだか!
「呪われたんですか?」
「わあ!」
「わあじゃないですよ」
「急に出てこないでくれる?」
「で、呪われたんですか?」
 半眼でにらんだのに毒のある笑顔が返ってこない。
 ということは薄も狼狽しているのだろう。
 石はなにやらぶつぶつ言っているようだが、そんなのかまっていられない。
 ええとどうすればいいんだっけ? こんな場合こんな場合。
「詳しい人に聞けばいいよね?」
「ですが公爵閣下も奥様も……お出かけ中ですが」
 すがるような思いで聞いてるのにあっさりと却下するなあああっ
 怒鳴りたい気持ちをぐっと抑えて、仕方なく残る一人を探すために周囲を見渡して。
 目星をつけて走り出す。その後ろに薄が続いた。

「だーれ?」
 ノックをするとまだあどけない声が返ってきた。
 こういうときにはまだ歳相応に聞こえるのに。
 そんな場合じゃないのに思わず苦笑してしまう。
「おねーさまよ。入るからね」
 答えを待たずに扉を開けると、丁度顔を上げた部屋の主と目が合った。
 壁一面に本棚が置かれ、それぞれに小難しいタイトルのものが収まっている。
 そのほとんどが本に埋もれた机には、似つかわしくないような子供の姿。
 実際より幼く見られるけど歳は十二。
 刈り入れ時の小麦の穂の色の髪。深い群青色の瞳が怪訝な様子であたしを見つめている。そして、開口一番こういった。
「で。何したの?」
「いきなりそれか」
「だって姉ちゃんがぼくの部屋に慌てて来る時って、いっつもなにかしてるもん」
 ぶすっとして答えると、奴もぶすっとして答える。
「シオン君。それがおねーさまに対する態度なのかしら?」
「だったらもっと姉らしい態度とってよっ」
 深呼吸を一度。
 駄目だ駄目だこんな事で兄弟げんかしてる時間も意味もない。
「呪われたのよっ」
「へ?」
『は?』
 なにやら疑問の声が被って聞こえたような気がするけど。
 ずかずかとシオンに近寄ってイヤリングを示す。
「ほらこれっ」
 あたしの剣幕に押されたか、困惑した様子で箱を受け取るシオン。
「呪い?」
 いぶかしげに手の中のイヤリング見つめて、あたしをジト目でみる。
「本当に呪われると思ってるわけ?」
 あきれた口調。
 その視線はあたしの胸元……いつも身に付けている緑の石のペンダントへと注がれている。これは十八の誕生日に『呪われたりしないように。いつでも元気でいられるように』と作ってもらったアミュレット。
 作ってくれた人のことを考えれば、これを持つ限り呪われるなんてことは考えられない。
 それは分かっているのだけれど。
「それにこれ……呪いなんてかかってないよ?」
「へ?」
 呪いはないって?
「いやだって今静かだけど、さっきしゃべったし! 思いっきり!!」
 同意を求めれば、斜め後ろで控えている薄が頷いてくれる。
 ああよかった。こいつにも声聞こえていたんだ。
「いや、呪いのアイテムだからしゃべるってことはないんだけど」
『ああ。ずいぶん慌てていると思ったら呪い扱いされていたのか……』
「勉強不足の姉ですみません」
 シオンの言葉に今度は石が同意する。
 っていうか、暢気にイヤリングと会話するな。
 しかも何気に姉を貶すな。
 確かにシオンに比べれば勉強不足でしょうとも。
 魔法使いとしてはあたしは落ちこぼれ。
 逆にシオンはこの歳で使い魔――瑠璃君のこと――を得るほどに優秀だ。
 ま、呪われたんじゃないって分かってほっとしたけどさ。
「じゃ、なにこれ?」
 心の荒波を悟られぬよう、気をつけて表面上は穏やかに問い掛ける。
 あたしはお姉ちゃんなんだからそうそう意地悪してもなぁ。
 大人にならないと……なんたって六つも離れてるんだし。
 シオンはんー、とうなった後。自信なさそうに言う。
「魔法の道具であることは確かだけど、意思が宿ってるのは珍しいから、貴重なものだとは思うよ。というか本人に聞けば?」
「そっか。しゃべれるんだモノね。で、あんた何?」
『何って……』
 聞き方が悪かったのかもしれない。
「人に名を聞く前に自分から名乗るものでしょ?」
 改めての問いに、石は少し口ごもって。
『私はアポロニウス』
「アポロニウスね。あたしはコスモスよ。
 こっちの黒いのが薄、あたしの部下。そっちがシオン、弟よ」
「正確に言うなら護衛です公女」
 簡単に紹介を済ませると不思議そうに問うてきた。
『私の声が聞こえるのか? 皆?』
「うん」
「そう」
「一応は」
 それぞれの答えに感嘆とも取れるため息が聞こえる。
「そんなに珍しいの? あなたの声が聞こえるのって」
『ああ。珍しい』
 同意してさらに紡ぐ。
『持ち主でも聞こえないものの方が多かったからな』
 そうなんだと納得しかけて、脳裏にプリムの顔が浮かぶ。
「ってちょっとまって」
 ふと浮かんだ嫌な想像に頭が痛くなる。
「アポロニウスが喋れる事、プリムは知ってたの?」
『プリム?』
 あー名前知らないのか。
「ハニーブロンドで空色の目の女の子」
『ああ』
 この反応から察するに、プリムの顔は一応知ってるらしい。
『前の主の知り合いだった。彼女には声は聞こえていないようだった』
「ってことは話せることは知ってるのね」
『そのはずだが』
「なるほどありがとう」
 言って、シオンの手から箱を取り戻す。
「じゃ、お邪魔したわね……じゃなくて」
 そういやマギーが夕食だっていってたっけ。
「ご飯だから下に下りるわよ」
「ん。ちょっとまって」
 読みかけの本にしおりをはさんで、席を立ってあたしの元へとやってくる。
 並べばあたしの胸くらいまでしかない身長。
 先に行くシオンの背を眺めて、小さなため息が漏れる。
『どうした?』
「んーん。なんでも」
 言葉を濁して後に続く。
 なんでもなくなんてない。
「本当になぁ……」
 珍しく黙ったままでいてくれる薄がありがたかった。

「あらやっぱり聞こえてましたのね」
 やっぱりときましたか……
 夕食後、それぞれが今日宿泊する部屋へと案内し、二人きりになったところで聞いてみれば。
「プリム人が悪いっ」
「だってコスモスなら聞こえるって思いましたもの」
「だからってねぇ」
 アポロニウスが苦笑する。
 ……ったく誰のせいだと思ってる?
 扉を開けて中へと案内する。
 もう少し話をする予定だから、備え付けの椅子を引いて座るけど。
「でもこれで、それはコスモスのものですわ。頑張って片割れを探してくださいな」
「探してって……本当にこれもらっていいの?」
「ええ。『彼』の声が聞こえる人に託して欲しい……そういわれましたもの。
 とてもお世話になりましたもの。どうしても叶えてあげたかったんですわ」
 会話しながらもペンダントをはずし、同じチェーンにアポロニウスを通す。
 こうしていれば落とす事もないし……家に置きっぱなしにするのも可哀想だし。
 プリムは色々と珍しいのか立ったまま室内をあちこちうろついている。
「でもそれでなんであたしに白羽の矢が立ったわけ?」
「あら簡単ですわ。
 魔法に詳しくて簡単に手放したりしない。
 探し物は得意でトラブルに巻き込まれ慣れてる。
 この条件をすべて満たしてますもの」
「最後のがすっごく気になるんだけど?」
「気にしちゃ駄目ですわ」
 ベッドに腰掛け、楽しそうに微笑むプリム。
「そうそう。明日の予約をさせていただきますわ」
「予約?」
「明日は14時の列車に乗ってユワンティに向かいますの。
 それまで案内お願いできます?」
「それが仕事だからね。喜んで引き受けさせてもらうわ」
 よし仕事ゲット!
 部屋を辞して自室に向かう。
 ふと外へと目を転じれば夜空には大きな、でもまだ満ちきっていない月。

 気のせいなのだろうか? それを見て心がざわめいたのは。