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ラブコメで20題

11.どうしようこの人かわいすぎる

「いってきます」
 金曜日は案の定休み。土日をはさんで月曜日。
 今日は来るかな、と期待を抱いて、大和は家を出た。

 『彼女』は従兄と同じマンションに住んでいるから、登校時に同じ道を通るはず。
 運がよければ会えるかもしれないな、なんて思いながらすでに慣れた道を行く。
 通学路には何人も同じ制服を着た人たちがいて、でも見知った人はいな――
「妹ちゃん元気ー?」
「お、妹ちゃん元気になった?」
 いや、いた。
 聞きなれた声。部活の先輩達の声が前のほうからした。
 少し歩くスピードを上げれば、長い髪をポニーテールにした彼女の後姿と、手を振りながら先に行く先輩達の姿が見えた。
 良かった。元気になったんだ。
 そう思っていると、駆け足で来た人に抜かれた。その人は迷わず彼女に近づき、声をかける。
「お! 今日は元気か篠宮妹!」
「あ、部長おはようございます。今日は大丈夫です」
 見覚えのある人だった。入山先輩とよく口げんかをしている弓道部の部長。
「よしよし、辛かったら次からはもっと早く言おうなー」
 そう言いつつ、彼は彼女の頭をぐりぐりと撫でた。
 ……なにか、ムカッときた。
 慣れているのか、彼女も嫌がらず、ただ困ったように笑っている。
 そういえばこの先輩、なんだかんだで彼女へのスキンシップが激しい気がする。
 ムカムカは止まないどころかどんどんひどくなっていく。
 これ以上、この光景を見たくない。挨拶をして通り過ぎてしまおう。
 そう決めて、歩く速度を上げる。
「篠宮さん、おはよう」
 後ろから声をかければ、彼女は振り向いて笑ってくれた。
 あ、今日はいい日かもなんて思っていたら。
「大和君おはよう」
 なんて声をかけられて、勢いをつけて通り抜けようとした足が止まってしまった。
 だって、気になる子から名前呼びされて動揺しないわけない。
 下手に隣に並んじゃったものだから、会話がないのもおかしいし……
「風邪はもう大丈夫?」
「うん、しっかり寝たから」
「そっか」
「あ、あのね。剣道部の人みんな見てたって本当?」
「あ……うん……ちょうど部活終わったところで」
「……そっか……本当なんだ」
 がっくりと肩を落とす彼女。
 気持ちは分かる。自分に置き換えてみれば、力兄さんに背負われて帰ったようなものだから、そりゃあ嫌だろう。
「そ、そういえば朝会うのは初めてだよね。大和君はいつもこのくらいなの?」
「え? あ、今日は朝錬がないから」

 先ほどからの後輩達のやり取りを、弓道部部長こと日沼はずっとそばで聞いていた。
 甘酸っぺええええっ
 体中がむずがゆいような、今すぐおもいきり噴出したいような気持ちをなんとか抑える。
 剣道部一年の方は、どう見ても篠宮妹に気がある。名前呼ばれただけで赤くなってりゃなー。
 篠宮妹も剣道部になんだかんだで顔出してるみたいだし? あら何か楽しい予感。
 そうとなれば、ここらで接近☆的なハプニングなどいかがだろう?
 良いですね隊長! うむ、では早速実行するのだ! ラジャー。
 小噺調に脳内で話を進めて、ちょうど良いとばかりに篠宮妹の肩を押す。
「車来てんぞ、寄れー」
「え」
「わっ」
 横目で確かめれば、急な接近にわたわたしている二人の姿。
 近づいた形になることで一年坊主の名札も見えて、ああと納得する。
「ご、ごめんね大和君」
「っ先輩! 急に押さないでください!」
 顔が赤いぞ一年坊主ー?
 にやける口元をごまかして、呆れたように言葉を乗せる。
「道路に広がってたら危ないだろ? 篠宮も君嶋も車ぜんぜん気にしてないし」
「それは……っ」
 悔しそうに唇をかむ。自覚はあるんだな。
「あ……」
 ぽかんとしたのは篠宮妹のほうで、見る間に顔が染まっていく。
 お? もしかして無自覚だったか?
「ご、ごめんね君嶋君、ぶつかって痛くなかった?」
「だ、大丈夫」
 残念そうな一年坊主は、けれどどこか嬉しそうでもある。
 あー甘酸っぺー。
 こいつらもし付き合ったら、これでからかえるなーなんてことを考えていた日沼の後ろ頭を荻野が叩くまであと数秒。

大和君と明日香ちゃんと日沼先輩。 12.12.12

12.人前でイチャつく趣味はありません

「はるちゃーんっ」
 学校に着いたら、いきなり友人に泣きつかれました。
 この場合、わたしはどうしたらいいのでしょーか?

 週の始まり月曜日。先週末に風邪で休んだ友人は今日はさすがに元気そうだけど。
 何があったのか宥めて聞き出してみたところ。
「え? 君嶋君を名前呼びした? 本人の前で?」
 何をやったのかと思いきや、むしろどうしてそうなった?
「とりあえず、風邪はもう大丈夫なの?」
「うん」
 こっくり頷く明日香。前から少し思ってはいたけど甘えっこだなー。
「で、どうして下の名前知ってるの?」
「前に子ども会のキャンプがあってね」
 ああ、そういえば先輩を誘いに来てたわねこの子。
「人数が少ないからってち……山戸先輩が従兄弟たち連れてきましたーって」
 山戸先輩のことも名前呼び……幼馴染ならしてるか。
 わたしもあいつのこと名前で呼んでたし。
「そこで知ったにしても、呼ぶとのはまた違うでしょ?」
「おねーちゃんが呼んでたから」
「いやいやどうしてそこでお姉さんが呼ぶのよ」
「キャンプのときに呼んでたんだけど……休んでるときにプリントを経由?してもらったらしくて?」
「なにそれ」
 届けるなら分かるけど、経由って何だ経由って。
「君嶋君から山戸先輩でさらにおねーちゃん経由でもらってた……って聞いた」
「何その経由」
「うん、わたしも思った。持ってきてくれるなら、はるちゃんとかなっちゃんかなって思ってたし」
 確かに。どうしてそんな面倒な経由をする必要が?
 わたしが持っていってよかったのに?
「急に名前で呼ばれたら、そりゃ君嶋君もびっくりするよね。なんで二回もいっちゃったかなぁ」
「ああ、一回じゃなかったんだ?」
 相手の反応を見ても気づかなかったのかしら?
 とはいえ、たまに明日香はとんでもなくボケるときがあるけど。
「なに? 人前でいちゃついたの?」
「なんでそうなるの?!」
「いやだって、部長さん狙ってたでしょ?」
 むしろなんでそう思わないの? 少女マンガの典型でしょーよ?
 そう言ってやれば、ぱくぱくと口を動かした後にがっくりとうなだれる明日香。
「……副部長の気持ちがよく分かった」
「それに明日香いつもかっこいいって言ってるじゃない。剣道部(うち)の先輩方も生ぬるい笑みで」
「言わないでーっ」
「ごめん。ごめんってば明日香」
 ぎゅうぎゅう抱きついてくる彼女は、わたしよりだいぶ背が低いから微笑ましく見えるかもしれないけど、真剣振り回す筋力は伊達じゃない。本気で抱きつかれるとイタイイタイ。
 なんとか落ち着かせて、ふくれっつらの彼女の手をとり、にっこり笑う。
「ちゃんと協力するから」
「はるちゃんっ!!」
 怒鳴り声と同時に予鈴の鐘が鳴る。ナイスタイミングとばかりに席へ戻り、荷物を置く。
 どういう行動をとれば、周りにどんな反応をされるか、どんな結果をもたらすか。
 身をもって証明してくれた明日香にちょっぴりの感謝を。

咲那ちゃんと明日香ちゃん。 12.12.19

「ラブコメで20題」お題提供元: [確かに恋だった]