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ラブコメで20題

07.不機嫌な理由は教えられません

 ここ最近、放課後の体育館前はにぎやかだ。
「いいじゃないのよ! 大会に出たいのよあたし達っ」
「ダメですーっ うちだって人数少ねぇんだよっ 他所にはやれませんっ」
 三日も続けば皆またかといった様子で無視するか、今日はどんなあらすじかと眺める野次馬かの二択になる。
 中間テストが終わって、そろそろ試合の準備を本格的に始めようかという時期になって、この攻防が始まった。
「期間限定! 期間限定で良いからあっ」
「そっちが大会のときはこっちだって大会なのよっ うちの子に近寄らないで頂戴っ」
 二人に片手ずつ取られている少女は遠い目をして立っている。
 見物人の一人は思う。誰か、あの二人に大岡裁きを教えてやってくれ。
「明日香ちゃん! あれだけ竹刀振れるんだもの! 今からでも剣道部に」
「えーと」
 左手を両手で包まれて熱弁されて、明日香は困ったように口を開く。
 と、右手を引っ張られて少年の背に隠される。
「うちの明日香に余計なこと言わないでくれます?! この子は弓道に生きるんです!」
 なあと問いかけられて思わず頷き、口を開く。
「弓道は好きです」
 その答えに感激したのか、弓道部部長の日沼は明日香の頭をぐりぐりと撫でた。
「あああっ なんていい子なのかしらっ
 荻! うちの子ってば天使」
「黙れ」
 言葉と同時に拳骨が落ちる。頭のてっぺんにゴツンと。
「ってーなっ 手加減しろよ」
「お前が気色悪いことを言うからだ」
 部長の言葉に至極全うな答えを返して、弓道部副部長の荻野はこの場を納めるべく、取り合いの対象になっている相手へと声をかけた。
 とにかくこの子さえこの場から逃がしてしまえばなんとかなるだろうと判断して。
「篠宮」
「あ、はい」
「帰って良いぞ。こいつに付き合ってたら馬鹿が移る」
「えと、じゃあ……お先に失礼します」
 ぺこりと礼をする彼女の姿を見て、少ない野次馬達も散っていく。
 この状況で引き止めるのは諦めたのか、日沼も入山も大人しく後輩を見送った。
 二人の様子を眺めて、深い深いため息をついて荻野が口を開く。
「渉」
「んあ?」
 やる気のない返事を返した友人に、言いたいことはたくさんあったが。
「ほどほどにしておけ」
「へーへー」
 一言だけ告げれば、案の定適当な返事が返ってくる。
 しかし、荻野はそれ以上彼に関わらず、弓道場へと戻るべく足を進めた。
 これ以上この馬鹿に付き合っていて良いことなんてない。
 荻野を見送って、未だ残っている入山に一応忠告するべく日沼は言う。
「入山、お前もいい加減にしろよ。篠宮妹が困って」
 振り向きながら言えば、そこに見えたのは呆然としているような、悔しさを必死に耐えているような表情をした同級生の姿。
「入山?」
「なによっ」
 乱暴に言い返して睨みつけてくる彼女だが、その瞳はどう見ても潤んでいる。
「なにって、なんでお前泣」
「泣いてないっ」
 間髪いれずに返される。一体何をムキになっているのだろうか?
「いや、そんなに悔しいのか? 篠宮が剣道部に入らないの」
「っ くやしい訳ないでしょっ?! 残念だけど!」
「残念っつっても、どの部に入るかは篠宮の自由だし、運動部同士だから掛け持ちも無理だぞ」
「わかってるわよっ」
 日沼の大馬鹿!
 口には出さずに心で怒鳴る入山。
 あいにくと、鈍感だの他人の事見てないと言われている日沼には分からなかったけれど。

入山さんと日沼君。 12.11.14

08.運命を感じちゃってください

 前を歩く姿は見慣れたもの。
 ――今まではその背を見ているだけだったけれど。
 すうはあと息を整えて、跳ねまくる心臓に収まれと言い聞かせて、咲那は歩くスピードを上げた。
「山戸先輩!」
 大きく声を上げることを忘れずに。

「潮崎は熱心だな」
「だって、実際やってみたら剣道すっごく楽しかったんですもん」
 肩を並べて歩く。
 それは今まですごく憧れていたことで、実際に行っている現在、心臓がもたないと思うくらいにバクバクいってる。
 朝練のある部活は限られているから、道を行く生徒の数は少ない。
 でも、噂になるかな? なったら恥ずかしいな。けど嬉しいな。
 ふわふわした気持ちで歩いていると、遠くから声が聞こえた。
「ちっかっらっくーん!」
 すれ違い様に振るわれる白いもの。
 それをひょいとよける力。
「うんうん、良い反射神経! おっはよう!」
「北姉、いい加減にそういうの止めてくれない?」
 やたらと元気に言う千歳は、紺のブレザーと同色のプリーツスカートを翻して笑う。
「同級生?」
「……部の後輩」
 まったく気にせずに声をかけてくる彼女に、仕方なく力も返す。
 この前のキャンプで、千歳にはいろいろ吐かされたから、いまさら何か取り繕う必要もない。というより、繕える筈もない。
「後輩ってことは明日香ちゃんと同じ学年か」
「クラスメートです」
 誰だろうと思うが、一応返す咲那。
 かなり親しい間柄に見えるので、多少警戒した感じになってしまったのは仕方ないだろう。
「そっか! 明日香ちゃんをよろしくね。なんだかんだで体弱い子だから。
 本人が体調悪いのに気づいたときには倒れてるってあったものね。ゆっきーが心配してさー」
「北姉。時間大丈夫?」
「うわっ バスに置いて行かれる! じゃーねー力君と後輩ちゃん」
 嵐のように去っていった彼女を見送って、咲那はポツリと口を開く。
「ええと」
「……同じのマンション幼馴染。テンション高いでしょ」
「元気な、人ですね」
 答えつつ、考える。
 どうにも先輩の周りには年の近い異性の幼馴染が多いらしい。
 これは、ライバルが多いと考えたほうが良いんだろう。
 登校時間が近いのは間違いなく有利。
 これからも毎朝一緒に行けるようにしよう!
 軽くこぶしを握り、決意を固める。
 わたし、頑張りますから!

力君と咲那ちゃん。 12.11.21

「ラブコメで20題」お題提供元: [確かに恋だった]