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月の行方

凛と輝く光の導

――早くその背に追いつきたくて――

 アースが親ばか……失礼。ポーラを可愛がっているのに対して、ポーラもまたアースを実の姉であるかのように慕っている。
 小さい頃はそれこそひよこのように後をついて回っていたものだ。
 そんなポーラがなぜか渋面を作っている。
 久々に再会したアースを目の前にして、だ。
 そんな事態に残る三人は思わず顔を見合わせた。
 なんかあったのか?
 さあ?
 一方アースのほうも拍子抜けした顔で、恐る恐るといった感じで問い掛ける。
「どうかした?」
「別に……」
「そ……そう?」
 気まずい。
 正直こんな事態は予測してなかったものだから、とことんまで空気が冷える。
「ま、まあこんなとこじゃなんだしさ。なんか食べよう!」
「アースも今日はこの町に泊まるんだろ?」
「…………はい……そのつもりですけど……」
 空気を変えようと口々に言うユーラとノクスにアースは頷く。
 その顔は見ているこっちが寂しくなるくらいの落ち込みようで。
 何があったんだ……
 奇妙な沈黙を保ったまま五人は宿へと道を急いだ。

 結局二人は大して会話を交わすことなく食事を終えて。
 うなだれたままアースは用事があるといって外へと出て行った。
「どうしたんだよポーラ」
 いつもならこんな事絶対にないのに。
 ポーラは視線を合わせないようにコップを両手で持って水を一口含む。
「ケンカでもしたのか?」
「会ってないのに出来る訳ないだろう」
 思案気なノクスの言葉をラティオが切り捨てる。
 ポーラは視線を落として何やらもそもそ呟いている。
 その背後に白い姿を見て、ラティオは口の端に笑みを浮かべてこう呟く。
「珍しいものを見た気はするがな」
「あー確かにな。アレだけ落ち込むアースも珍しいっていうか」
「捨てられた犬猫みたいだったな」
 二人が同意すればするだけポーラはきつくカップを握り締める。
「だって……」
 迷ったのか、唇を強くかみ締める。
「そうですよ! すっごく寂しいです」
 後ろから響いた声にポーラは振り向こうとして、両手で頭を抑えられる。
「はいこのまま。正面きってじゃあ言いにくいこともあるでしょう?」
 小さい頃なら何度も聞いてきたこの声。
 知らず目頭が熱くなる。
「ねぇポーリー。何で怒ってたの?
 私何かした? それとも、しなかったから?」
 頭に置かれた手のひらの温度。上から降ってくる声。
 それらは懐かしい感覚を思い出させて、ポーラはとうとううつむいてしまった。
「アースってずるい」
「はい?」
 ずるい。ときたか。
 しかし何が?
「何でも知ってるし」
 ポツリと漏らされた言葉に一同顔を見合わせる。
 アースも困惑顔だ。
 ぽりぽりと頭を掻きながらユーラが言う。
「それは……伊達に長生きしていないと言うか……」
 仮にも宝石の魔導士だ。その知識は生半可なものじゃないだろう。
「何でも出来るし」
「いや確かアースはかなづち」
「誰が原因か分かってますよね……」
 ノクスにしっかりと釘をさしておいて、言い聞かせるように語りかける。
「出来ない事も、苦手な事も……怖い事もたくさんあるわ。当然でしょう?」
 さっきも言ってた様にアースは今現在泳げないし、甘いものは相変わらず苦手だ。
 怖いもの、苦手なもの、出来ない事。それらはあって当然のもの。
 ヒト、だから。
 その一言を飲み込んだアースにか細い声でポーラは返す。
「……そんなこと言わないで」
「どうしたの?」
 今日のポーラは妙に情緒不安定だ。
 何かあったのかと問い詰めたい気もしたが、連れの様子を見ているとたいして心当たりもないらしいし。

 同じ魔導士となって分かった事がある。
 前から知ってはいたけれど、アースはやはり凄腕の魔法使いなのだ、と。
 あまり立派でいて欲しくない――いつか越えるために。
 いつも立派でいて欲しい――ずっと目標だったから。
 アースのマントの端をぎゅっと握ったまま言葉を発しないポーラ。
 そんな彼女を見てユーラはため息をつく。
 どうしても言いたい事がある。でも言いにくい。
 知って欲しい事がある。でも知られたくない。
 そういう時にアースの服やマントの端をつかむのは小さい頃からの彼女のくせだ。
 多分自分とアースを比べて複雑な気分になったんだろう。
 でも口で何を言っても尊敬している事は変わりなくて。
「アースって太陽みたいだよな」
「太陽ですか?」
 ユーラの口から発せられた言葉に不思議そうにアースは問い返す。
「そんな風に言われたのは初めてですね。月みたいって言われた事はありますけど」
 銀の髪の印象が強くてそういわれることは多い。
 錬金術で銀は月、そして女性をさす事も関係しているのかもしれないが。
 確かに『天日(たいよう)』には違いないのだけれど。
「月みたいに物静かな感じじゃねーし、人を狂わすような雰囲気もねーし。
 だからアースは太陽なんだよ。暖かくてまぶしくて……容赦ない」
 その一言に皆噴出す。
「ああ。確かに」
「優しそうに見えて厳しいしな」
「ユーラ……」
「言われてみればそうですねぇ」
 たしなめようと口を開けば、いわれた本人が同意して。結局ポーラは口ごもる。
 強くなりたい。物理的な力はじゃない、心の強さがほしい。
「アースみたいになりたいな」
 事実をしっかり受け止めて、その上で顔を上げて歩いていける。
 そんな風になりたい。
 望めば……望み続ければ、なれるだろうか?
 そんなポーラにアースは苦笑して。
「私みたいになってもいいことないですよ」
 我が事ながら……いや、我が事だからこそ。よくもまあこんなに色々な事に遭ったものだとため息が出る。波乱万丈な人生を望むのならばそれもいいかもしれないけれど。
「ポーリーはポーリーらしく生きて?」
 彼女に望んだのは太陽のようにすべてを明るく照らし出すことでも、月のように包む事でもなく。
 霞む春にも、熱い夏にも、うつろう秋にも、澄み切った冬にも。
 その名の通り凛としてそこに在り続けること。
「……うん」
 恐る恐るといった感じでポーラはアースの顔を見上げて小さく微笑んだ。

ポーラの導はアースな訳ですけど、本当に「導」として望まれているのはポーラ。
次期「昴」として「彼ら」の長としての道を。(05.12.16up)

名前に込められた意味

 真実の名前。
 それは秘すもの黙すもの。

「名前の由来?」
 きょとんとした顔で質問を繰り替えし、アースは問いを発した少女に聞き返す。
「どうしたの急に?」
 宿屋兼酒場の一角で、早めの食事を取りつつ話が弾んでいたところ、ふいに発せられたユーラの問い。
「急にって訳でもないよ。ずーっと思ってたし」
 パンにレタスとベーコンをはさみつつ、わくわくした表情で答えをせがむ。
「珍しい名前だしさ。アースのことだから何の意味もなしにつけたんじゃないだろ?」
「まあ……古代語ですし」
 指をあごに当てて考え込む姿は、どう見てもユーラと同年代……もしくは年下にしか見えないが、アースは彼女達の名付け親である。
 実際、年齢の事を聞きたいのだけれど、聞くのもなんだか怖いので一度も問うた事はないのだが。
「え~とね」
 順に四人の顔を見て、まず鮮やかな深紅の髪の青年に目をとめる。
「愛称の『ラティオ』は『理性』や『思慮』って意味。『ウェネラーティオ』も似た感じ」
「名前負けだろそれ!」
 間髪入れずに突っ込めば、横でポーラとノクスも同意する。
「失礼だな。こんなに思慮深いって言うのに」
「あたしは?」
 無視して聞けば、アースは苦笑しながらも答えてくれた。
「ユーラは『ユーラーレ』って言葉からつけて……『誓い』って意味」
「誓いかぁ」
 今まで自分の名の由来など聞いたことなかったけど、こんな由来があるのならもっと早く聞けばよかった。
「ユーラらしいね」
「へ?」
 思わずそちらを見れば、ラティオが微笑んでいる。
 いつもはからかいの色が映っている海老茶の瞳がとても柔らかで。
「あ……ありがと」
 いつもはからかわれてばっかりで素直に聞けないけど。
 今の言葉はかなり嬉しかった。
 そんな二人にポーラとノクスはなんとなく目を見合わせ、アースは訳がわからずきょとんとするばかり。
「でさ、ポーラは?」
「ポーリーが正しいんですけど……も、いいです。
 ポーラは『極』を意味する『ポール』の女性形。『ノクス』は『夜』ね」
「極?」
「そう。ある一箇所を示す言葉よ」
「夜っていうのは髪の色からか?」
「愛称にすればぴったりよね」
 目でノクスを示して問うラティオに、同じように彼を見てアースは肩をすくめる。
「本当は『ノクティルーカ』だから、『夜に輝くもの』――つまり『月』のことなのよ」
 アースの講釈にも、話題の彼は我関せずといった感じで黙々と食事を続けている。
「『私たち』は少なくとも名前を二つは持ってるの。『私たち』風の名前と、外国――こっち風のと」
 この地方の名物だという野菜のジュースを一口飲んで、アースは悪戯めかして微笑む。
「ラティオは聞いたことあるかもしれないけれど、姉上は私のこと『(うつつ)』と呼ばれていたでしょう? 『現』は現世、この世、現実。
 『アース』も大地とか地上とか……この世とか、そんな感じの意味ね」
「じゃあさ、真名の意味は? あたしのだけでもいいからさ」
「知らないから教えようがないけど。知ってても真名に関しては教えられません」
 固まってしまった親友に代わって問い掛ければ、にっこりと笑顔で拒否された。
「名前はとても大切なもの。
 呪いなんかの効力が強まる事もあるし、意のままに操る事だって出来るし」
「そうなの?」
 ようやく硬直の解けたポーラの言葉に頷いてアースは先を続ける。
「今そんな術は少ないけどね。
 そういういきさつがあるから、真名は名づけた人と本人だけが知っていればいいの。
 隠さなきゃいけないってことはないけど……名前は一番短い呪とも言われるし、特に魔法を使う者にとっては大切なものには変わりないし。
 命を握られても構わない程信頼している相手なら教えてもいいと思うけど。
 そうでなければ相手の命を奪う時かしらね」
「かしらねって」
 今すごい事さらりといわなかったか?
 とはいえ、知らないのなら答えようがない。
 アースなら教えても構わないけど、ノクスや……特にラティオには聞かれたくないし。
 何よりユーラの出身国のセラータでは、女性が男性に自分の名を教えるのは、結婚の承諾の意味があるのだから。
「で、ユーラの真名って?」
「だーれーが教えるか!」
「けち」
「んな問題かっ」
 騒ぎ出す二人を眺めてポーラはこそっと問い掛ける。
「アース」
「なぁに?」
「私の真名の意味ってなあに?」
 きょとんと姪を見つめて、アースはこくんと首をかしげる。
「教えてなかった?」
「うん」
 頷かれて、きょろきょろと周りを伺ってからこっそり耳打ちする。
「もともとの言葉の意味はね『極の星』って意味。だから『導』なのよ」
 ぽかんとして、その後ポーラは苦笑する。
「私、そんなにすごくないよ?」
「そうなるように、願ってつけたんだからいいの」
 にっこり笑って返されれば、もう反論は出来ない。
 いつか、いつかそうなる事が出来るかな。
 名前にふさわしい自分に。

真の名とかそういうのは大好きなので、それに絡めて。
ウラ話としては、ユーリア(ユーラ)は「ユリウス」の女性形。
ちなみに「ユリウス=カエサル」(英名・ジュリアス=シーザー)から頂きました。(05.03.02up)

小さな手のひら

「一緒に行きましょう?」
 差し出した手に伸ばされたのは、小さな手のひら。

 紫水晶の瞳がひたとアースを認め、意を決して言葉をつむぐ。
「一段落したら母上の後を継ごうと思うの」
「そう」
 そっけないほどの短い返事はとても感慨深げで。
 少しの寂しさを感じるのも仕方ない事。
 いつも手を引いていたあの小さな少女はもういない。
 身長だって、今は彼女の方が高いだろう。
 ……いつから視線を上げて話すようになったのだろう?
「ユーラも協力してくれるし」
「当たり前だろ」
 一人だった彼女には今は金の髪を持つ頼れる親友がいる。
 それはとても喜ばしい事で。
 少しの寂しさも感じて。
 思いを振り切るように視線を変える。
「ラティオは?」
 問いかけに、赤い髪の青年はしばし考えて言葉を紡ぐ。
「もっと修行を積まなければな。ここに残る」
 元々この子はこの町に住んでいたのだし、むしろここから離れる事の方がおかしいか。
 それでも。それでもアースがここを訊ねる事は少なくなるのだろう。失ってしまったと改めて自覚して、そんな思いを吹っ切るように残る一人へと問い掛ける。
「ノクスは?」
 その問いに黒髪の青年は肩をひょいとすくめて。
「まだ修行中だからな。しばらく旅を続けるさ」
 あれだけの成果をあげても、まだ旅は終わらないと言い張るのは彼らしい。
 タイムリミットぎりぎりまで修行を積んでおこうというのだろう。
「そうね。旅も悪くないものね」
 万感の想いで自らが名づけた子供達を見やる。
 あんなに小さかったのに。
「アースは? 良かったら……」
 おずおずとした申し出を右手を軽く上げる事で留める。
「私が一所にいれば、色々招いてしまうから。
 ポーリーのそばにいてあげたいけど……」
 宝石の魔導士が一所に留まる事は出来ない。
 居場所が知れればどうなるか?
 かつてのように『奇跡を我が手に』と狙うものは数多い。
 そんなものに……巻き込みたくない。
 ようやく終わったのだから。
 今にも泣き出しそうに顔をゆがめて、ポーラはアースの手をぎゅっと握る。
「遊びにきてね。約束よ」
 ひたと見つめる瞳はうるんで、震える声で訴えられて。
 ふと昔を思い出す。
 これから一緒に行けないと。
 心を引き裂かれる思いで告げたとき。
 あの時は……人がいる前では平気そうにしていたのに。
 それが今は……
「そうね。約束」
 大丈夫だ。もうこの子は大丈夫。
 一人じゃない。独りじゃない。
 誰にも頼れない子供じゃない。弱音を言える人たちがいる。
 だからもう大丈夫。この手を離しても。

「行っちまったな」
 ぽつりとノクスは呟いた。
 普段からぶっきらぼうなところはあるけど今日は特にそっけない。
 彼は彼で思うところがあるのかもしれない。
 そんな風に判断してユーラはポーラの肩を叩く。
「また今度は、いつでも会えるようになるさ」
「うん……」
 頷くものの視線は未だにアースの去った方を見つめている。
 完全に姿が見えなくなって、ようやく四人は踵を返す。
 町へと戻る道を行きつつ、ポーラは両手をジッと見つめて握りしめる。

 ふと思う。
 幼き日、あんなに大きく『世界』を構築していたあの人の手は。
 あんなにも小さかったのか、と。

一番うまくまとめられたと思ってる作品。
自分が成長すると、両親の後姿なんかが妙に小さく見えて戸惑う事ってありますよね。(04.12.23up)

「ファンタジー風味の50音のお題」 お題提供元:[A La Carte] http://lapri.sakura.ne.jp/alacarte/