夢見た後で
「夢」見た後は皆静かだった。
定期船から見下ろす大地は緑に覆われ、我が時代とばかりに瑞々しい。
本格的な暑さを控えたこの時期は過ごしやすく、本来ならば緑に負けぬくらい華やかさを見せる仲間達も、今日ばかりは静かだ。
例えるなら、そう。冬の寒い日に暖炉の熾火を眺めている時の様な、やさしい空気。
それに感化されたせいか、己は常の顔すら取り繕えない。
いや――あれでエステル君は勘がいいから。
なんて、言い訳をしてみても空しい。
とてもやさしい、愛しい夢だった。
大切で大切で、思い出すだけで幸せになれるような。
振り切るように耳をふさぐ。
これから進む道を考えれば、感傷は命取りになりかねない。
『ここ』がこんなに穏やかなのは、『まだ猶予がある』からだ。
だからといって、自分まで油断するわけにはいかない。
感傷に浸るような時間はない。
「忘れた方が、幸せなのかな」
ふと漏れた言葉。
知らず閉じていた目を見開く。
見咎められないように周囲に視線を走らせ、『仲間』の姿が見当たらないことにほっとする。
恐る恐る口に手をやってしまったのは、自分の口から出たものだと思えなかったからだろう。
あんな言葉、聞かれてしまっては大失態もいいところだ。
真正面から問い詰めてくる面々が容易に思い浮かぶ。
『忘れたほうが幸せなんて、そんなのあるわけないでしょうがっ』
……ご丁寧に、想像の中で指まで突きつけられて叱られてしまった。
本当に言われそうだな。
小さく笑って、それにと付け加える。
もし、自分がそんなことを言ってしまえば、分かりにくくて分かりやすい親友を傷つけてしまうだろう。
昔のボクじゃあるまいし、うじうじ悩んでいるのはらしくない。
気持ちを切り替えて、まずは連絡を。それから、『いつものように』誰かを冷やかしにいこう。
Twitterお題より。
オリビエが耳をふさいで「忘れた方が、幸せなのかな」と言う初夏の話を誰得だったとしてもかいてください。 http://shindanmaker.com/133918