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護衛の依頼【後編】老人と孫のポルカ

 リベールの遊撃士協会全体に出された珍しい依頼。
  普通、遊撃士協会へ依頼する場合、一番近い協会の掲示板に表示されるものだ。
 けれど今回は依頼人たっての希望ということで、各支部にそれぞれ同じ依頼が出された、らしい。
「リベール王国を一周しつつ、お孫さんのお土産選びかぁ」
 ボース支部に出された依頼を眺めつつ、最後の一口をぺろりとアネラスは飲み込んだ。
 朝のアイスはこんなにも美味しいのに残念ながら賛同者はいない。
 孫娘ということは、依頼人はおじいさんかおばあさん。
 ふと頭をよぎったのは田舎にいる祖父のこと。
 遊撃士になってから、当分帰っていない。
「ルグラン爺さん。この依頼、もう決まっちゃいました?」
「いいや。受けるのかね?」
「はい!」

 依頼人は、ルグラン爺さんとは違った感じの好々爺だった。
「サダルさん、疲れたらすぐに言って下さいね。無茶は駄目ですよ」
「ほっほっ。なに若いモンにはまだ負けんて。
 歩くのが趣味みたいなものじゃから、気にしなさんな」
 にこやかなおじいさんだけど、好奇心は強いらしく、まるで小さな子どもみたいに次から次へと質問を投げかけてくる。
 遠目から見たレイストン城砦やアーネンベルクに大騒ぎしたし、グランセルでは町並みを褒めてくれた。お城なんか、こっちが照れるくらいの賛辞を惜しみなく述べてくれた。
 門番の兵士さんたちも少し照れくさそうに、でも誇らしそうにしていたから、きっと聞こえていたんだろう。
 あちこちの案内をしながら、お土産探しの本命ともいえるエーデル百貨店へと案内する。
「ここがグランセル一のエーデル百貨店です。ボースにも大きなマーケットがあるんですけど、エーデル百貨店限定の商品も多いんですよ」
「ほー、確かに壮観じゃのぅ」
 並べられた商品をざっと眺めつつ、感心したように言うサダル老人。
「お孫さんへのお土産も探すんですよね。いくつ位の方なんですか?」
「あの子は……今年で十五か」
 なるほど十五歳。ならヌイグルミとか良いかもしれない。
 可愛いし、ここには良い物がそろっているし。
 そんなことを考えていると、サダルは憂鬱そうなため息をついた。
「はぁ、わしも年を取るはずじゃ。昔はじい様じい様と、わしの後をついて来てくれておったというのに、もう婿を捜さねばならん年とは。月日が経つのは早いもんじゃわい」
「え、十五歳で結婚?!」
 つい大声を出してしまったアネラス。
 遊撃士になるのにも十六歳以上じゃないといけないのに、早すぎる。
 アネラスの反応に、サダル老は苦笑しつつ付け加えた。
「すぐに、という話ではないの。しかし十八になる頃には決まってしまうじゃろうなぁ」
 まだまだ手元に置いておきたい。
 そういった様子が垣間見えて、なんだか微笑ましいような温かい気持ちになる。
「私のおじいちゃんも、サダルさんくらいの歳なんですよ」
「ほー。たまには会いに行っておるかね? 爺は顔を見せてくれるだけで嬉しいぞ」
「う、そうですよね。仕事が一区切りついたら戻ろうかなって思うんですけど」
「それが良い」
 満足そうに頷いてから、ほんの少し困った顔でサダルは問いかけた。
「近頃の娘さんにはどういった物が人気かね?」
「うーん、私はぬいぐるみが好きですねー」
 個人の好みになるけれど、嫌いという子は少ないだろう。
 売り場に向かってぱっと目についたクマを抱き上げる。
「この子なんかどうですか? 可愛いし。
 ふわふわもこもこ。それにすごく抱き心地いい」
 いいなこのクマ。大きさは腕の中にすっぽりと入るくらい。
 値段はと確認してみると、物がものだけに結構する。
「ほほぅぬいぐるみ。気に入るかのぅ」
 思案するような声にハッとする。
 いけないいけない。今は依頼人のお土産を探してるんだった。
 名残惜しいけれどクマを陳列棚に戻して、気を取り直して問いかける。
「お孫さんはどんな動物がお好きですか?」
 問いにしばし考えるそぶりをして、やや自信なさそうにサダルは答えた。
「犬……かのぅ」
「なるほどー。ワンちゃんですね」
「小さい頃は真っ白な長毛の犬がお気に入りでな、よく首っ玉に抱きついたまま眠っておった」
「うわー、それ可愛いですねぇ」
「おぅ。可愛かったぞ。犬の方が大きかったからのぅ。
 あの子を背中に乗せたまま歩いてたこともあったの」
「じゃあこの子なんてどうです?」
 少し小ぶりだけど、白い犬のぬいぐるみ。昔好きだったという犬に似ていればいいのだが。
「もうすこし毛足の長いのだったのぅ」
 そういいつつサダルも並べられた商品を見て、そのうち一つを持ち上げる。
「こんな感じの犬じゃったの。色違いじゃが」
「あ、じゃあお店の人に白いものがあるか聞いて来ますね。
 ちょっと待っててください」
 どうせなら喜んでもらえるものを渡したい。
 晴れやかな笑顔で店員の元へと走っていったアネラスの後姿を眺めて、サダルはほんわりとした笑みを浮かべた。
 帰ったら、こうやって孫と買い物に行くのも良いかもしれない。それで、好きなものを買ってやろう。
 アネラスはまだ店員と話をしている。なら、ちょうどいい。
 彼女の注意がこちらにないことを確認してから、彼は近くを通りかかった店員に話しかけた。

 ロレント、ボース、ルーアン。
 行く先々で選んだお土産はかなりの量になっていて、ツァイスに戻ってきたときにはサダルの荷物は行商人並に大きくなっていた。
「アネラスさんや、長い間世話になったのぅ」
「いいえ。私もなんだかおじいちゃんと一緒にいたみたいで楽しかったです」
「そうか」
「でも良いんですか? 国境まで行かなくて」
 今、会話を交わしているのはツァイス南出口。ここからヴォルフ砦までは結構遠い。
「本当に優しい子じゃな。
 しかし、わしも長いこと一人旅をしておるから、心配は要らんよ」
 無論アネラスだってサダルの言葉を疑っているわけではない。彼はアネラスが守りやすいように逃げてくれたし、魔物に遭遇しにくくするためのコツも教えてくれた。
 だからそう。単純に別れが惜しいだけ。
 顔に出してしまっていたのだろうか、安心させるようにサダルは笑い、荷物の中から包みを一つ取り出した。
「依頼料は遊撃士協会に支払ってあるが、これはちょっとしたお礼じゃ」
「え」
 促されるままにそれを受け取る。
 濃いグリーンの袋に赤いリボンが結ばれた包み。大きさは枕くらいあるが、見た目の割りに結構軽い。
 なんだろうとサダルを見ると、笑顔のままに頷かれるだけ。とにかく開けてみろと言う事なんだろう。
 リボンを解いて姿を現したのは、エーデル百貨店でみたクマだった。
「これって……」
「ふかふかのクマはお気に召さなんだかの?」
「いいえ! 可愛いです!」
 即否定する。気に入らないなんてとんでもない。
「でも、その」
 欲しがってるの、顔に出ちゃってたんだという恥ずかしさと、クマの値段を思い出す。
 嬉しくないはずはない。けれど、こんな高いものをお礼に貰うわけには。
 アネラスの葛藤が分かったんだろう。
 サダル老人は優しくゆっくりと言葉を述べた。しっかりと言い聞かせるように。
「じじいに付き合ってくれたお礼じゃよ。
 こういうときにはな、ありがとうございますと言えば良いんじゃよ」
「はい! ありがとうございます!」
 ぱっと浮かべた満面の笑みに、老人も満足そうに頬を緩ませた。
 是非またリベールにきてくださいねと何度も告げて、アネラスはサダルの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

『クエスト【護衛の依頼】をクリア』
BP・5ポイント+2ポイント追加。
10000ミラとクマのぬいぐるみを取得しました。

「何か良いことでもあったかい?」
「え?」
 不思議そうに言われた言葉にアネラスはハッとする。
 遠目に見えたエーデル百貨店の姿に気をとられて、クルツがいる事を忘れていた。
 依頼を終えて後は協会に戻るだけとはいえ、すこし気を抜きすぎていたかもしれない。
「えっと。いい事って言うか、少し思い出したんです」
 二ヶ月ほど前の依頼人――サダル老人について、内容をかいつまんで説明する。
「まさかプレゼントしてもらえるなんて思ってなくて。だから、サダルさんが元気にしてるといいなとか、お孫さんはお土産気に入ってくれたかなーって」
 あの日以来、グランセルに来ることがなかったからついつい思い出してしまった。
 サダルさんについて話しながら、あとでエーデル百貨店を覗いてみようとこっそり決める。そろそろ季節限定で販売される商品が出るはずだ。すごく高いのが残念だけど。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい、クルツさんアネラスさん」
 協会の扉をくぐるとエルナンが迎え入れてくれた。
 珍しく机に座っていなくて、床に詰まれた箱の前に立っていた。
「どうしたんです? その箱」
「協会宛に届いた荷物です。
 ああ、アネラスさん。ボースにはいつお戻りですか?」
「明日の朝発とうと思ってますけど?」
 だから、今日のうちに百貨店を覗いておこうと思ったのだ。アネラスの答えにすまなそうにエルナンが問いかける。
「すみませんが、ボース支部宛の荷物もお願いできますか?」
「任せてください!」
 どうせボースに戻るのだから、多少荷物が増えようと構わない。
 軽く胸を叩いて、荷物を確認するために箱の山を眺める。
「わ、結構ありますね」
「もう少し量があれば、定期船でまとめて送るんですが」
 ちゃんと運びやすいようにまとめますからと付け加えられて、よろしくお願いしますと顔を下げたときに、一番上の箱の宛名が目に入った。
「あれ。これ、私あての荷物?」
 縦と横は辞書くらいの正方形の箱。包装紙はごく一般的な薄い紙。
「なんだろう」
「差出人に心当たりは?」
 クルツに問いかけられて、確認する。
「えっと。『さ』かなこれ? サダ……る? あ、サダルさん!!」
「知っているようだね」
「はい! クルツ先輩にはさっきお話しましたよね? あのおじいさんです」
 顔を輝かせてアネラスは箱を持ち上げ、ちらりとエルナンを伺った。
「あの、開けてもいいですか?」
「アネラスさん宛ての荷物ですから。どうぞ」
「ありがとうございます!」
 荷物を抱えたままにそのまま二階に駆け上がる。
 なんだろう? どうしたのかな?
 知らずどきどきとする胸を押さえつつ、そっとテーブルに荷物を置いて、開く。
 箱を開けると真っ先に目に入ってきたのは二つの封筒。
 一通はサダル本人からで、もう一つは。
「あ、お孫さんからだ」
 開いた便箋からはわずかに優しい花の香り。文字も丁寧で読みやすい。
 こういう手紙書けるなんてすごいなぁ。結婚が早いと、しっかりするものなのかも。
 そんな感想を抱きつつ、手紙を読み進める。
 内容は、祖父のわがままに付き合ってもらってありがとうございますというお礼。
「『クマがお好きとのことでしたので、こちらで作られたものを同封しました』?」
 その一文を読んで、箱の中身を改めて確認する。
 梱包材を避けるとカラフルな布で作られた小ぶりのぬいぐるみが現れた。
「っ 可愛い!」
 こちらではあまり見かけない柄の布。ふわふわはしていないけれど、手触りはすごくいい。
「あーもう。貰ってばっかり」
 自分に出来ることは精一杯したつもりだけど、こんな御礼があるなんて考えたことなかった。申し訳ない気持ちと同時に、とても嬉しい。
 そういえばと思い出す。まだ、家に帰っていなかった。
『爺は顔を見せてくれるだけで嬉しいぞ』
 サダルの言葉が甦る。
 ボースに戻ったら少しお休みをもらおう。それから、しばらく会っていなかった分、おじいちゃん孝行をしよう。よしと決意を固めて、まずはこの喜びを共有するべく、アネラスは元気に階下へと降りた。

5周年記念SSでした。親子愛的になるというリクエストを頂きましたが……祖父と孫、ですね。双方共に「ああ、こうやって喜ばせてあげればよかったのか」と想いあってる感じです。
アネラスさんを書くのは初めてな気がしますが、偽者になってないかが心配です。ご期待に少しでも添えたみたいでよかったです。