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あの日からずっと…で5のお題

 思い出したように脳裏を過ぎるモノがある。
 例えば月の綺麗な日。大きな満月が君臨する今日みたいな夜は。
 闇を切り取ったような黒髪。向けられた憎しみ。
 命を狙われたのだから、忘れられなくて当然だといわれればそうかもしれない。
 けれど、彼だけ覚えていたというのもおかしい。
 ――あの頃の私は、祖国から狙われていたのだから。
 もしかしたらまた会うかもしれないと思っていたのは事実だけど、あんな再会をするとは思ってみなかったし。
 やっぱり印象に残ったのは、あの目のせいなんだろう。
 強い憎しみに彩られた――力に餓えた瞳。
 今はもう、向けられることのない目。

【01 忘れられなかった。】
ディアナ→ラシェ。あの瞳に魅せられたのかもしれない。

 パルムは大きな街……ディーファの大僧殿がある街だから、大きな交易路は通っているため旅はしやすい。
 ここ数日天気は良好で足止めされることもなく、順調に北上を続けている。
 それに気づいたのはいつだったか。
 確実なのは、こうしてまた旅を始めてから、か。
 数歩先を行くディアナが振り返ったとき。もしくは俺が振り返った時。
 早い話が視線があったときなんだが、あいつがとても嬉しそうに微笑んだ。
 視線を合わせても怯えの色がなくなったことにはすぐ気づいた。
 信用が信頼に変わっていくことも気づいていた。
 が、今回のこれは予想外。
 何でまた突然――
 考え始めてすぐに気づいた。
 『独り』だったから――か。
 セキは不精なところがあるから目的も無しに一人で旅はしないだろうし、こいつに付き合うようなこともないだろう。
 『良ければ時々見守ってやってくれ』。
 俺の頼みに応えていたからこいつは一ヶ所に留まり続けることなく、たまに様子を見に来てくれていた。
 ま、寿命が違う時点で一ヶ所に留まることなんざ、出来やしないだろうが。
 見えなければ気になって、見えていてもこの様。
 感情の色が変わっても、追いかけちまうのは変わらないってことか。

【02 変わらない僕ら。】
ラシェ→ディアナ。敵対関係から信頼できる仲間へ。
でも、お互いに向けている感情の強さは、実はあまり変わっていないのかも知れない。

 ずっと感じていた疑問があった。その時はあんまり気に留めていなかった……ううん、そんな余裕がなかったから気づかなかったのだけれど。
「ディアナ?」
 どこか不思議そうに名を呼ばれて彼女は我に返る。
 目の前には差し出されたままの手のひら。
 手のひらの主はどこか不機嫌そうに彼女を見下ろしていた。
 抜き身の剣を携えている片手と、すでに事切れた魔物を見比べて彼女はようやく現状を思い出す。
 気配を読み損ねて、魔物に襲われたのだ、と。

 いつまで経っても手を借りようとしない彼女に業を煮やしたのか、彼はディアナの腕を掴んで立ち上がらせた。
 不意打ちの攻撃に、彼女がバランスを崩したところまでは見ていた。
 魔物は一刀の元に切り伏せているのだから怪我はしていないはず。
 彼の心情を知ってか知らずか、立たされる形になった彼女は、服に付いた土ぼこりを払い落としていた。
 怪我はなさそうだな。
 そう判断して地面に投げ出されたままだった荷物を拾って先を歩く。

「いくぞ」
 一方的な宣言。
 まだどこか呆けた様子の彼女は彼の背を見送って、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。
 彼の肩に担がれた荷物は二つ。
 先ほどまでは彼女が自分で持っていたもの。
 ああ、そうか。
 気づいてしまえば簡単なこと。
 やさしい人だと、旅をしている間に知った。
 さりげなく合わされる歩調とか、先ほどのようなちょっとした気遣いをしてくれる人。
 時が経って『変わった』のだと思っていた。
 けれど……思い返してみれば、彼は昔から優しいひとだった。
 憎んでいる相手を助けて、目的地まで連れて行ってくれるほどに、お人よしだった。
 ついてこない彼女を不審に思ってか、彼が振り返る。
 なんでもないと答えて、彼女は彼の後を追った。

【03 不思議に思ってました。】
ディアナ→ラシェ。あの時どうして助けてくれたの、なんて。
疑問の答えはとっくに手にしていた。

 一人になって想う事はどうしようもないことばかり。
 ラシェの我侭があって三人分かれた時間はある意味では幸運で、遅すぎたものだった。
 自由気ままな旅に出るのは躊躇いがあった。
 それを一蹴したのは妹の言葉。
 けれど。
 結局はそのせいで失ってしまった。

 知れば関わろうとするだろう。
 だから最初から知らせない。感づかせない。
 この件は、俺一人の手で片付ける。

【04 隠し続けてきた秘密。】
セキ→二人。結局は間の悪い彼らが関わらない訳がないと予想していても。

 ほっとしている。
 振り返ったときや先を行く背中を見て。
 ――それに気づいて複雑な気持ちになった。

 目的地までの距離はほどほどあって、けっして急ぐ旅でもない。
 だから、当分は二人旅が続く事は分かっていたのだけど。――態度がぎこちなくなってないだろうかとか、そういうことを考え始めると止まらなくなる。
  『彼』に会うのは十五年ぶり。
  戦いに飽きたから姿と記憶を封印して別の人格にして欲しい、なんて無茶な頼みを聞いてから。
  時折様子を見に行ったけれど、そこにいるのは『彼』であって『彼』ではない人。
 だから――寂しかったのかもしれない。
 ディーファの祝福を受けて長寿になってから、たくさんの仲間や知り合いがいなくなったから。
 長く生きてきた中で、一人旅をすることはなかったから。
 また逢えて嬉しいのは確かだけど、悔しいから言わない。
 ラシェがいるんだって、確認して喜んでる、だなんて。

【05 あなたがすきでした。】
ディアナ→ラシェ。私の知らない「あなた」を見て、私を知らない「あなた」を見た日々。

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