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終の朝 夕べの兆し

Vol.3「somnium」 7.いつかどこかで

 科学と魔法の二元論に持っていくのはナンセンスとしか言いようがない。
 どちらにも一長一短はある。
 とはいえ、一般に広まるのは科学の方だろう。
 誰にでも扱えるという事実は認めざるを得ない。それゆえの優位性も。
 同じ結果を得られるなら、人は楽な方を選ぶものだから。

「ちょっと先輩。なに読んでるんですか」
「レポート」
「書きかけのものを読まないでください」
 事実そのままそっけない返答にディアマンティーナは怒った様子を見せる。
「どうせ後で添削しろっていうんだろ?」
「完成してからと書きかけとでは、気持ち的に違います」
 言わんとしていることは分かるが、フェンネルも言いたいことがある。
「で、どうしてこのテーマにしたんだ?」
「どうしてって」
 問いかけに、彼女は人差し指を顎に当て、こくりと頭を傾がせる。
「良いテーマだと思いますけど。ここの状況にあっていますし」
「状況があってるのは確かだけどなぁ」
 がりがりと頭を掻きつつ天井を見上げ、フェンネルは言いたくないと態度で匂わせつつ、それでも口を開く。
「お前、レポートで喧嘩売るなよ」
「喧嘩?」
 心外だとばかりにディアマンティーナは肩をすくめる。
「先輩はそれが喧嘩を売ってるように見えるんです?」
 けれど瞳はとても楽しそうで、笑み崩れんばかり。
「わたし、客観的に書いたつもりなんですけど」
 ああ、憎たらしい。
 感情ごと飲み込んで、手にしたままのレポートの束で後輩の額を軽く打つ。
「客観的だよ、確かにな。ただ、提出先を考えろ」
「もう! この時期だからこそ考えるべきでしょう?」
 その言葉には頷くほかないが、それでも言い様があるだろう。
 ただ、それを指摘しても先ほどまでの繰り返しになるので、フェンネルはそれ以上を口にしない。
 どうせ彼女は自身の意見を曲げることなどないのだから。

 そんな諦めが、結局、あんな事態を起こす遠因となったのだろう。

 誰も彼も口を開かずに、ただ走る。
 そう、一刻も早くここを離れなければ――逃げなければ。
 足元が元々悪いうえに揺れが大きくなっていく。
 走りづらさに文句を言うことなど考えない。
 そう、自分達は見逃された――逃がされたのだから。
 自分達にこんな思いをさせた相手は、満足そうに笑っていた。それが、悔しい。
 ケインもルキウスも似たような表情を浮かべている。
 ああ、腹立たしい。
 こういった想いも何もかも、霧の向こうに消えていった。

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