それからのこと
用事も済んだし、とりあえず帰るといった時のアポロニウスの顔は、言っちゃあなんだけど面白かった。
けど実際、暇なわけじゃなくて、おじーちゃんの用事を済ませるために来たんだもの。
そもそも用事もなく何度も来れるほど、うちは裕福じゃない。
とりあえず用事を済ませて、ここに来た時の定宿たる客室へ向かえば、出迎えたのはクラッカーの音と、予想外の人数で。
「「おめでとうございまーす」」
なんて声を揃えて言われてしまえば疑うこともできなくて。
「見てたわね?」
「ええ勿論」
にっこりと笑って聞けば、良い笑顔で答える我が従者。
「公女をお守りするのが務めですから、密室に男と二人きりの状況なんて、あらかじめ手を打つに決まってるじゃないですか」
「うわぁ白々しい」
「結婚式の良い余興になりますよ?」
「しかも録画してるわけ?!」
どこに仕掛けられてたのよ隠しカメラなんて!
「いやぁやっとくっついたかー。おじさんはらはらしちゃったわー」
ああ、たぶん身内が犯人だろうな、なんて思うのは、楽しそうなエド大叔父さんを見たからだろう。
ざっと見てみてシオンはいない。
うん、よかった。流石に親兄弟には知られたくないわ。
「にしてもようやくですか。苦節何年でしょうね」
「あ、アポロニウスの外泊許可いる?」
茶化す二人に答えず、ただにっこりと笑う。
ええもちろん楽しいわけでも嬉しいわけでもありません。
それで怒りのほどは分かっていただけたようで、槐さんに薄は笑みを引っ込める。
本当、何考えてんだか。
がたごとと大きな音を立てるのは拙いとわかっていても、どうしても気がせいてしまう。
はやく、早く見つけたい。
探し物があるといきなり押しかけてきた自分に、師匠はただ笑って入室を許してくれた。
両親や弟、友人たちが遺してくれたものの中に確かあったはず。
形見の品になるのだろう、今とは比べ物にならないくらい稚拙なカッティングの宝石。
それでも大粒にはかわりないから、あれを加工すればそれなりのものになりそうだ。
「春ですねぇ」
のんびりとした声が聞こえてきて思わず動作を止める。
さすがに、わかってしまったろうか?
恐る恐る振り向けば、師匠の視線はこちらにはなく、窓の外の木へと向けられている。
けれど視線の先が違うからといって、こちらのことを言っていないとは限らない。
あまり音を立てないよう気を付けて捜索を再開する。
本格的な夏が来る前に、用意をして会いに行こう。
きちんと挨拶をして、貯金も続けて……そうでないと格好がつかない。
本人にはあんなことになってしまったけれど、ご両親や親族の前で醜態を見せるわけにはいかない。
「春ですねぇ」
どこか浮かれて聞こえる師匠の声。
……分かってます、師匠にも報告はしなきゃいけないことは。
もう一度振り返れば、今度は視線がかっちり合ってしまって。
「もうすぐ、です」
ただそれだけを告げれば、よくできましたと言わんばかりに微笑まれた。
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ようやっとくっついた二人にやっぱりいろいろ物申す人々。
一時はどうなることかと思われていただけに、ほっとする。