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出会いに感謝

 ごそごそがさがさという衣擦れの音がやんだ。
 だというのに、彼女はなかなか出てこない。どこかうまくいかないのか不思議そうな声とうめき声が聞こえてくるあたり、鏡を前に格闘しているらしい。
「よし、と。お待たせクローゼ」
 ひょっこりと顔を出したエステルはいつもの仕事着ではなく、彼女にしては珍しい青い服を着ていた。
「どうかな? 変じゃない?」
「お似合いですよ」
 クローディアの言葉に、彼女はそれでも落ちつかなそうに裾を払ったりしている。
 ベレー帽に肩布、腰にはサーベル。これとよく似た服をクローディアは毎日のように見ているし、エステルも一度は着た事がある。
 けれどあのときの服は赤――紅騎士ユリウスのもので、今エステルが着ているのは蒼騎士オスカーのもの。
「青い服ってあんまり着ないから……」
「そうですね。エステルさんのイメージは赤ですから」
 青は、いつも隣にいる彼の色なのだろう。その彼は、今はようやく会えた少女と一緒に王都を観光してもらっている。ちょっと無理を言ってエステルを独占する時間をもらったからだ。
「うーん、やっぱりこっちの服はクローゼが似合うわね。それで、お姫様がヨシュア」
 エステルも同じことを思い出していたのだろう。そういえば、あの旅の間にもお姫様を助けようと励ましあった。
「でも、どうしてこっちの服なの? てっきりユリウスの服かと思ったんだけど」
「蒼騎士の……本当は、親衛隊の服を着たエステルさんが見てみたくて」
「親衛隊の?」
 不思議そうなエステルに、笑わないでくださいね、と、ちょっと困った顔をして言う。
「夢を見たんです。」
「夢?」
「はい。あの戦争が起こっていなくて、カシウスさんがずっと軍にいて、エステルさんが親衛隊にいる……そんな夢を」
 それは夜に見た夢。叶えたいものではない……でも、もしかしたらあったかも知れない、そんな夢。
「わたしったら欲張りですね」
 おねえさんみたいなユリアがいるのに、友達とも一緒にいたい、だなんて。
 そう笑うと、がっしりと両手をつかまれた。
「クローゼ!」
「は、はい!」
 大きな声で名前を呼ばれて返事をすれば、真摯な、とても真摯な目で言われた。
「困ったことがあればどこにいても絶対助けに行くから! ……クロスベルでは気をつけてね」
「はい。ありがとうございます」
 もしかしたら、と思わなくはない。
 でも、こうして今友達になれているし、こうして嬉しいことを言ってくれる。だから。
「しっかりとがんばって来ますね」
 そう、決意を告げた。

碧の最初ごろの時間軸の姫様たち。
クローゼとオリビエの立ち居地を変えたときに、ミュラーさんにあたるのがユリアさんだけじゃなくてエステルもいたらいいなーと思いまして。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/