てっぺんの景色
高い塔を建てましょう。そうすれば遠くが見えるから。
足元を固めることだけをしていたら、その先にある地平線はいつまでたっても見えない。
いつどこで聞いたのかは忘れてしまった。けれど、その言葉は今も覚えている。
だから、どんなに馬鹿にされたって、目標は高く高く持ってきた。
本気にされることは少ないし、本気にされたらされたで心配してやめるように言ってくる人たちの手を振り払ってここまで来た。
「まだまだ見えないなー」
おもわず出た声に、前にいたシオンが振り返る。
「そりゃあ、まだ先だからな」
彼が差しているのは道路の先、これから始まるパレードの出発点。
自分たちと同じくパレードの順番待ちをしている人たちの頭が前にも後ろにもどっさり見える。
昨年に引き続いての、PAの認知度アップ兼客寄せパンダ要因として、パレードに参加することになった自分たち。
順番待ちのこの間は暇で暇で、いろんなことを考えてしまう。
一年。そう、PAに入って一年がたった。
思い返せばいろんなことがあったけれど、むしろ盛りだくさんな位にあったけれど、
前を向いたままのシオンとその隣に並ぶ橘にとってはいつものことだったらしい。山吹は遠い目をして頷いていた。
でも、明らかに変わった。
自分は魔法をいくつか使えるようになったし、もう少しすればアルブムのメンバーも一人増える。
シオンは『スノーベル』だと判明して堂々と名乗るようになったし、遅い成長期が来たのか、身長がどんどん伸びてきている。
成長は、してると思う。
一年で出来るようになったことは増えたから。
それでも――もっとと望むのは強欲だろうか?
シオンの近くにいるせいか、いろんなことをすっ飛ばして駆け足で登っている気がするけれど、まだまだもっと知りたいことがある。できるようになりたいことがある。
ひとまずの目標は、周回遅れにならないように追いついて、塔を登りきること。
止まったままだった前列が少しずつ動き出す。
「さ、仕事を始めようか」
いつか水平線を臨めるように。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
高い場所に上って初めて、見える景色がある。だからこそ、目標は高く、志も高く。