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しんせつ

あの日の答え

 きっかけが何だったかは忘れたが、空は今、妹と二人で布団に寝転がっておしゃべりをしていた。
 光源は障子越しの月明かりだけ。みな寝静まっているので、小さな声でのおしゃべりは、まるで小さな子供のよう。
 話の内容も他愛ない。美味しかったものや日常のちょっとしたこと、それから昔の思い出話。
 こんな日が来るなんて思いもしなかった。
 幸せをかみしめつつ、不思議に思う。
 『あの日』、現は空を『姉』と呼んだけれど、いつ知ったのだろう? あの出来事の際に壱が話したのだろうか?
「誰も教えてくれなかったんですよ」
 ひどいでしょうと現は笑う。口に出してしまっていたのかと空は悔いるが、妹は気にした様子もなく続ける。
「最初は母上かと思ったんです。ただ、なんとなく違う気がしまして」
 本当に母上なら、姉上も兄上たちも気に掛けるでしょうし。
「想姉様かとも思いましたが、こちらも違いましたし」
 もちろん、お会いできたのは嬉しかったですけど。
「それで思ったんです。どうして私は『末姫』なのかと」
 話の先がどう続くのかわからなくて、空は妹をじっと見る。
 けれど逆光の中、彼女はこちらを見ているために表情がわからない。
「呼ばれるなら『三の姫』のはずです。想姉様のことを隠したかったから、そう呼ばなかったのかもしれないと考えたこともありました」
 でも、と彼女はつづける。
「琴姉上も兄上たちも、それから壱も……隠したかったのは姉上のことだったんです」
 末の姫、一番下の姫なら、上に何人いてもわからないから。
 そう妹は言う。
「知っていたの?」
「ずっとそばにいてくださったことは」
 びっくりした様子の空に、いつもと変わらぬ様子の現。
 ――ずっと、お会いしたかったです――
 不意に思い出したのは、初めて交わした言葉。
「……うん」
 見ているだけで良かった、なんて……今はもう言いたくない。

知らなかったから、そう思えた。
知ってしまったらもう戻れない。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/