鏡に映る姿
ふと目に入った姿に気が付いて空は足を止めた。
年代物の大きな姿見。ピカピカに磨かれたそれに映った自らの鏡像。
まっすぐ見返してくる姿は現そっくりで、でも違うとわかる。
こうして、自分の姿を見ることは未だに慣れない。
何せずっとずっと長い間、自分はこの世に未練強く留まっていた幽霊だったのだから。
食事をする、眠るといったごく普通の欲求からもほど遠く、調子を崩しては怒られを繰り返してきた。
鏡に近寄り、鏡面に掌を置く。
当然だけど鏡に映った自分も同じ動作を取る。手の左右は逆だけど。
なにか、気になる。
こうして鏡に向かい合ったことはないのに。
映された表情はどこか寂しげで――それで気づいた。この既視感に。
時々、現は鏡を淋しそうに眺めていた。
そこに何かが映っているかのように。
まさか……その時から気づかれていた?
「どうかされました?」
声とともに、鏡にもう一人の姿が映る。
いつものにこやかな表情の妹。
向かい合えば、まるで先ほどの鏡に映った自身を見ているかのよう。
「姉上?」
「ううん……なんでもないの」
この世は現世。そんな言葉を思い出した。
泡沫の夢なら――虚像はわたしでいい。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
元々いなかったんだから、いなくなるのは自分のほう。
自棄になってるわけではなく基本がそうな空。