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断ち切れないループ

 彼女はいつも『彼』のそばにいる。
 離れているときだって『彼』の姿を見かけると、すぐに追いかけていくくらい。
 二人を邪魔しちゃ悪いとシオンが身を引けば、どこに行ったのかと楸が探す。
 楸がシオンを追いかけるから、その楸をアルトゥールが追いかける。
 その様子は飼い主と犬に例えられ、最近では正面から言われたり、ご主人様ならどこそこへ行ったよと教えてくれたりするらしい。

 どうしてそんなにシオンのそばにいるのかと誰かが質問した。
「そりゃあ、うちの大事な次期当主様ですから」
 心持誇らしげに言う彼女に、大抵の相手はそれで納得する。
 従姉弟で同僚とはいっても楸は自身を『シオンの護衛』と公言しているし、彼女らの祖父――現当主エドワードの護衛役も、彼の従兄であるエドモンドだからだ。
 とはいえ、あちらは同性こちらは異性ということで、『恋愛感情があるんじゃないか』と邪推する相手もいる。そんな相手には、彼女はもう少し正直な理由を言う。
「しーちゃんは命の恩人だからー」
 小さいころに木から落ちて大変な目にあったこと。場合によっては、今なお残る腹の傷を見せたこともあるという。
 ただ、それでも気になる者はいる。その筆頭たるアルトゥールみたいに。

 アルトゥールは一度言ってみたことがある。
 サキはすごいね、と。
 その言葉に、楸はとても微妙な笑みを浮かべて、いつもの言葉を繰り返した。
「しーちゃんは、あたしの命の恩人だから」
 彼女の真意に……『命の恩人』が指す本当の意味にアルトゥールが気づいたのは、それからしばらく経ってのことだった。
 誰が思うだろう。それが現在進行形で語られているなどと。

 普通ならべたべたとしがみついていることに注意をしたほういいのだろう。
 はしゃぎすぎたせいか酔った彼女は、従弟にしなだれかかっている。
 もっとも見た感じの雰囲気は、親にじゃれる子供のようだが。
 涙を流しつつごめんねと謝罪を繰り返す彼女に、主たるシオンはたまにおざなりな返答をするのみ。
 どうやら昔からこういったことを楸がやるわりに、理由については知っているものがいないのだろう。
 シオンが気づいていないのか、それとも、楸が気づかせないようにしているのか。
 ……どちらでも同じことか。
 楸がシオンを追いかける。彼女をアルトゥールが追いかける。
 やめろといわれても、やめるわけにはいかない。

追いかけて追いかけてぐるぐる回っても仕方ない。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/