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どこかとおくで…

閉ざされた道

 ある日突然異世界に、なんていう状況はフィクションの中では使い古されたものだ。
 そう、作り物なら。
 自分が体験してしまった今となっては、そうした物語の主人公たちがとてもうらやましい。
 だいたい、どこかわからない場所に連れてこられて、異世界だと言われたところで信じられるわけないと思っていた。
 信じたくなくても、信じざるを得ないことがあるなんて――わかっていなかったんだ。
 ありえない色をした髪の人と、会話ができたのは本当に不幸中の幸いだった。
 すっごくなまってたけど、なんとか一部分かる程度だったし。
 でも、そこで疑問に思うべきだった。
 なぜ日本語が通じたのか、を。

 あれから三カ月。いまやすっかりここの暮らしに慣れた。
 朝日とともに起きて、夜が来たら寝る。いわゆる昔の生活。
 早く慣れることができたのは、同じ状況に置かれた人がいたことと、先住の人の中に同じ境遇の人が多かったせいだろう。
 そう、村人百人余りのうち大多数が日本人だった。
 とはいえ、出身地も時代もバラバラ。
 自称を信じるなら、平安時代から明治、平成までいろんな時代から来た、ということらしい。
 残りだって元からここに住んでいたという訳ではなく、同じ漂流者同士の子供で生まれた時からここにいるというだけのこと。
 大半は気づいたらここにいた、という話。
 火事で逃げる途中だったり、普段使わない道を通ったり、海でおぼれたり。
 それから、わたしたちのように迷い込んでくる人が結構いること。
 私たちの後にも二人来ていることから、嘘ではないのだろう。
 ――今の時点でだって、わかってないことは多い。
 ここはいったいどこなのか。
 どうして日本人ばかりが迷い込んでくるのか。
 ……帰ることはできないのか。
 ため息をつきそうになるのをこらえて、憎らしい程に青い空を見上げる。
 歯を食いしばって泣き言をこらえる。
 でも――
 大学に、行きたかったな。

とにかく生きていく。それがいつか、帰ることに繋がると信じて。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/