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しんせつ

小さな引っかき傷

 それを見つけたのは偶然だったと思う。
 何か用事があって義父を訪ねたけれどあいにくの留守で、文台に投げ出されたままの手紙。
 目に飛び込んできたその文字に、動揺しなかったと言えば嘘になる。

「咲夜を嫁に出すんですか?」
 たぶん、唐突に聞いてしまったんだろう。
 義父の鎮真はかなり驚いた様子で逆に問いかけてきた。
「な、な、なんでそんなことを聞くんだ?
 まさか咲夜がどこぞに嫁に行くと言ってきたのか?!」
 かなり狼狽した様子だったからすぐに疑惑はなくなって、かわりに湧いたのは罪悪感。
「いえ、その……ごめんなさい。文を勝手に読みました」
 そう素直に白状すれば、鎮真は動きを止めて大きく息を吐いた。
「ああ、そういうことか」
 ほっとしたように嘆息して、先ほどまでかけらも見られたなかった余裕を見せる。
「前々から、咲夜を嫁にって話は来てるんだ」
 確かに自分たちの年齢を考えれば、そういった話が出てきてもおかしくはない。
 おかしくはない……けれど……
 神妙な顔をした和真を思いやってか、鎮真は安心させるように笑う。
「心配しなくても、咲夜が嫌がるようなことはしないよ」
「はい」
 咲夜は大切な家族だ。幸せになってほしい。
 でも……
「お嫁かぁ」
 ぽつりとつぶやく。
 いつかは、違うところへ行ってしまうのだと思うと素直にさびしい。
 ちくりとした痛みは確実にあったけれど、和真はそれを無理やり押し込めた。

鎮真の養子その1。実父にも養父にも似てしまったので、侍女さんがからかいたくて仕方ないそうで。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/