こっちを向いて
自分が、結構なやきもち焼きだと気付いたのはそう昔のことじゃない。
初めてできた彼女といると、本当に自分が狭量だと自覚させられる。
「午後からは座学かあ。眠いねえ」
「寝たら、提出レポートの担当分増加な」
「しーちゃんひどい!」
そう。ライバルの存在に、ここまで苛立つなんて思いもしなかった。
正確に言えばライバルじゃない。
彼女の楸としーちゃんことシオンは従姉弟同士で上司と部下。
それに彼女は最初に条件として宣言していた。『恋人を一番に優先することはない』と。
そんな彼女の一番優先する人物が彼。
同じ年の二人は恋人同士かと思うくらいの仲のよさ。
邪推されないのは、甘い空気が全く感じられず、二人の容姿が似通っているからだろう。
とはいえ、チームを組んでおり四六時中仲良く団体行動していると聞かされては、ちょっと心穏やかにはいられない。
おまけにチームにはシオンだけじゃなく、他に男が三人もいるらしい。
だから、せめて学校にいる間くらいは独占したい。
けれど楸が学校に来るのは仕事の時だけで、仕事となればチームで来るわけで。
つまり二人きりになりたくてもなれないというこのジレンマ。
話ができるのなんて、お昼のこの時間くらいしかないというのに。
そんなアルトゥールを知ってか知らずが、仏頂面をするシオンに対して笑いながら弁明する楸。
いつもの――悔しいけれど見慣れてしまった光景。
少し険を込めてじっとただ視線を送る。
ねえサキ、僕に気づいて。
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視線が痛いので逃げようとするシオン→追いかける楸→彼女を追いかけるアルトゥール。といういたちごっこ。