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変わらない、変われない

 声が、聞こえた。

 とても楽しそうな声。
 なんて言っているか分からない。
 小さなころは、何を言ってるか聞き取ろうとして目を閉じて耳を澄ませた。
 それはとても楽しそうに、自分を誘う声。
『こっちにおいで、一緒に遊ぼう』
 人のものではない、でも悪意は感じられない声。
 だから――

「楸」
 声とともにぺしんと軽い衝撃。
 目をあければ、不服そうな従弟の姿。
「また話、聞いてなかったな」
「えへへー」
 笑ってごまかせば、彼はいつものようにつらつらと説教を始める。
 人の話はちゃんと聞けだの、体調が悪いなら早めに言えだの、怒っているのに心配している様子が手に取るように分かって面映ゆい。

 精霊術士は、精霊と意思を言葉を交わすことができる存在。
 基本的に先天性の素質が必要。
 母数が少ないからとても珍重されるけれど――人でないモノと交わることはとても危険なことでもある。
 例えば、小さい子供は精霊に呼ばれるがままに『あちら』へ行ってしまい、戻ってくることができなくなる、など。
 優秀であればあるほどに精霊たちに好かれる――『あちら』への誘いも強いものになる。

 声は、今でも聞こえる。
 言葉を聞き取ってしまったら、戻ってくるのが難しいことは知ってる。
 けれど、無視することも難しい。
 だから何度連れて行かれそうになったか分からない。
 その度に連れ戻してもらった。
「聞いてるのか楸!」
 この声に。
「きーてる聞いてるってー」
 へらりと笑って答える。

 普通、ある程度まで大きくなれば――大人になれば自然と聞こえなくなったり気にならなくなるという。
 強くはならないものの弱くもならない。危うい場所にいるという自覚はある。
 ――でも。

「楸!」

 声が、聞こえる。

彼女が彼のそばにいる理由。ちょっとホラーチックに。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/