違和感の正体
いったいどこにたどり着いたものやら。
深い深い森の中。けれど人の手は入っているのだろう。
光も差さないというよりは、適度に明るい森を抜けてしばし、広がった光景に全員がほっと息を吐いた。
なみなみと水をたたえた田んぼには、まだ青い稲が整列しており、その向こうにはきれいに耕された畑が見える。
ぽつぽつと建っているのは木造の茅葺屋根の家。昔ながらの家といったところか。
畦道を行進する合鴨の姿も、時折聞こえてくる牛だろう鳴き声も、実際に体験したことはないけれど知っている。
「どこの田舎?」
「田舎かもしれないが、それでも助かった」
清の呟きに、最年長の氷火理が返す。
「とりあえず誰かいればいいんだけど……どこだろうね」
「屋根のこう配がきついから、積雪の多い地域だろう」
「白川郷みたい」
そういえば世界遺産だっけなんて考えながら、清は大人たちの後を追う。
とにかく、これで家に帰れる。
エレベーターを出たら廃墟だったのはどうしてとか、そんなことは今のところどうでもいい。家に帰れさえすれば。
けれど。近づくほどに疑念が頭をもたげる。
何か違う気がする。自分の知る田舎とはどこか違う。
そう――何かが足りない。そんな気が。
家から人が出てくる。
手ぬぐいだろうものを頭に巻いた女性。
少し動作がゆっくりで、おっとりとした印象を受ける。
まず気になったのはその服装。
テレビでやってる農業をする番組や、田舎を旅する番組で見た農家の人とは違う。
そう、まるで――時代劇で見るような、そんな服装。
視線に気づいたのだろう。女性がこちらを向く。
最初に目についたのは布からこぼれた鮮やかな青。
次いで、びっくりしたように開かれた紫。
アニメや漫画ならおかしくない色。現実では到底考えられない色。
そこでようやく気付いた。
電線が――電柱もないということに。
最近は景観をよくするために電線を地中化すると聞いているが、遠く見える山に鉄塔もないのはおかしいだろう。
ならそれは、ここに電気がないという証にならないか?
――自分たちはいったいどこに来てしまったのだろう。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
地味に続いてるシリーズ。異世界に呼ばれてヒーローに、なんて話はございません